【更新】上場企業の「外国人」持ち株比率の変化
2009/08/18 04:25
先の【日銀レポートによる「なぜ好景気でも賃金は上がらなかったのか」】で解説した、日本銀行関係者による研究レポート【賃金はなぜ上がらなかったのか? - 2002-07年の景気拡大期における大企業人件費の抑制要因に関する一考察】では、その推論を導くために多種多様の役立つ図表が展開されていた。今記事ではその図表の中から、日本の上場企業の経営方針を変えた一要因とされる「持ち株比率」の推移をグラフ化した上で、外国人投資家の影響力の拡大を眺めてみることにする。
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データの大本は東京証券取引所による【株式分布状況調査】で掲載されている、「長期統計」データ。このデータ中、「投資部門別株式保有比率の推移」を研究レポートに掲載されているグラフと同じような区分で仕切り直し、グラフ化したのが次の図。
持ち株数比率推移(5証券取引所合計、%)
1980年度前半に一度上昇を見せた外国人投資家の比率だがその後低下を見せ、1990年前半以降じわじわと上昇。特に2000年前後を境に(一度ITバブル崩壊でやや下げ基調を見せるも)大きく伸びを見せている。一方で事業法人や金融機関・証券会社などは持ち合い解消などの流れを受けて2000年前後から大きく比率を減じている。
個人の動きをみると、1970年後半から急速な減少ぶりを見せ、1980年後半からは横ばい。1990年後半からは「貯蓄から投資へ」の動きを受けてやや盛り返しの雰囲気があったが、投資先の多様化などもあり、再び下落。
……というのが日銀の元資料によるところまでだった。これらの流れから「上場企業における外国人投資家の影響力増加と共に、『利益の従業員への還元より株主への還元を優先しろという』圧力が強まり、企業の利益が積み上げられても従業員の手取りには反映されなかったのではないか」とするのがレポートの推測による一要因。確かにこの15年ほどの動きをみると、影響力は2倍強にまで拡大しており、(たとえ外国人投資家全員が頑ななまでに配当重視を声高に訴えるだけではないとしても)推論を裏付けるようなデータではある。
一方、日銀レポートには無かった2007-2008年度分のデータをみると、興味深い傾向が見えてくる。この時期はいわゆる「金融(工学)危機」で(現在進行中)、世界中の金融商品の価格が急落を見せた時期。「外国人投資家が換金売りを続け、それが日本の株価下落の大きな原因となった」と説明されているが、それを裏付けるように外国人の持ち株比率が急激な下落ぶりを見せている。他方個人などは比率を上げており、下落過程では少なくとも外国人らと同様の「投げ売り」はしていなかったことが分かる。
個人の株式購買意欲と資金がどこまで続くかは未知数だが、この傾向が継続すれば株主構成比率、そして企業と株主間のパワーバランスに大きな変化が生じる可能性は否定できない。企業に対するプレッシャーの内容が変われば、企業の経営方針にも変化が生じ、それが元で企業の従業員に対する待遇に動きが生じる……となれば、注目すべき流れではあるのだが。今後とも注意深く動向を見守りたいところだ。
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