【更新】日銀レポートによる「なぜ好景気でも賃金は上がらなかったのか」

2009/08/10 04:21

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賃金イメージ日本銀行は2009年7月22日、レポート・論文の一項目である【ワーキングペーパーシリーズ】として、【賃金はなぜ上がらなかったのか? - 2002-07年の景気拡大期における大企業人件費の抑制要因に関する一考察】を公開した。【大企業の業績アップ分は労働者には回らず、企業自身の拡大や役員報酬に-景気拡大の内訳とは】【2009年度の初任給据え置き率、2005年度以来の9割超え】などでも触れているように、21世紀初頭の景気拡大期においても大多数の従業員の賃金は上がるどころか抑制される傾向にあった。今レポートは日銀の公式見解ではなく、関係者などの研究成果を取りまとめた考察ではあるが、興味深い内容なのでここにざっとまとめてみることにする。



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今レポートでは景気拡大期に賃金が抑制された原因として、次の4項目から考察を加えている。すなわち、

①企業が直面する不確実性の増大
②「世間相場」の低下
③株主からのガバナンスの強まり
④海外生産・オフショアリングの拡大

というものだ。それぞれの視点+αから「賃金抑制」に結びつく要因としては、

企業が直面する不確実性の増大
 マクロ的には安定成長に違いなかったが、規制緩和やグローバル化(「世界が相手」)を背景に、個々の企業レベルでは不安定要素が増していた(不確実性の増大)。結果として「備えよ常に」ではないが、固定費的な性格が強い人件費の圧縮をもたらすことになった。

「世間相場」の低下
 賃金の「平均値」では無く「最頻値」(≒中央値)は減少傾向にあった。「スタンピード現象」のごとく、「みんなそうだからうちも」とばかりに周囲の動きに引きずられる形で、全体的な傾向がますます賃金を抑制する圧力となった可能性がある。

株主からのガバナンスの強まり
 外国人持ち株比率の上昇など株主構成の変化で、経営への監視が強まり、配当かさ上げ圧力となり、それが従業員の取り分である労働分配率の低下をもたらした可能性が高い。

海外生産・オフショアリングの拡大
 海外の安価な労働力を使うこと、海外投資の増加が日本国内の本国親会社の賃金に対する下げ圧力となった可能性。ただし昨今においては薄れている。

追加その1:労働供給サイドからの賃金抑制圧力の可能性
 組合からの正社員賃金アップに対する圧力の低下(労働組合の構成員の減少)。

追加その2:原材料などの仕入れ価格上昇
 特に原油価格の急騰がプレッシャーとなった可能性。

※追加その1と2は検証不十分のため後日再検証とのこと

と説明している。本レポートでは後半部分に多種多様な図表でこれらの考察を解説しており、その考察の信ぴょう性の高さを補完するものとなっている。

詳細はレポート本編そのものに目を通してほしいが、たとえば「株主からのガバナンスの強まり」は【外国人株主の増大が企業の「株主重視姿勢」を後押し!?】にもあるように、厚生労働省の労働経済白書でも指摘されていることであり、的を射ている内容といえる。

環境の変化がこれまでの常識をくつがえす事態を、具体的には「企業の業績が伸びても従業員の賃金が増えない」状況を招きつつある(あるいはあった)ことは間違いない。冷静な状況判断と分析のもと、どのような手立てを打てば「インチキな少数人数による勝ち逃げ」を見逃すことなく、多くの人がハッピーになれるのかを考える必要があるのだろう。



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