アメリカ国債の引き受け先(2009年6月掲載・4月分データ反映版)
2009/06/17 07:34


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念のために確認しておくと、「国債」とは(はじめから利率分を割り引いている場合もあるが)「この証書の期限に、書いてある利息分を追加して返すので、お金を貸してください」という国の借金証明書のことを指す。英語ではTreasury securities(国庫証券)と表現する。
アメリカ政府財務省発行の国債こと「米国債」の引き受け先データはどこで手に入るのか。【アメリカ合衆国の国庫部門専用ページ】から入手可能。具体的には【過去のデータはこちら】 、【直近データはこちら】となる。直近のデータは後ほど細部が修正される場合もあるので、注意を要する。
該当ページには各国の保有額(新規発行額では無い)がドル単位で算出され、海外政府引受分について(以下同)主要国分のデータが掲載されている。そのうち日本をはじめ、主要国上位6か国(エリア)を抽出してグラフ化したのがこちら。2000年3月から最新データの2009年4月分までが対象。毎年期間切り替えの時期があるので、その部分は差が生じないように調整をしてある(要は概要が分かればよい)。金融(工学)危機が「現状では」ピークを迎えたとされる2008年10月以降のデータを見ると、表立った危機度は後退している中でも、「延焼」している金融機関を救うため、全体額がさらにずいぶんと増加しているのが確認できる。逆に言えば発行された米国債が、危機を押さえつける財源に回されているともいえる。ただし2009年4月分に限れば、3月と比べて総発行額はわずかだが減少を見せている。

米国債の引き受け先(全体額含む)
前回同様に米国債の増加が著しい状況にあるのが分かる。実質値にして、この半年で3000億ドル(約30兆円)ほど総額が増えており、半年前のグラフ形成時からさほど変わらない急ピッチなペースで上昇していることが分かる。また、ドルを基準にした絶対額で見ても、日本と中国の逆転現象が継続しているなど、大まかな各国間の相対関係・状況に変化は無い。……というより一か月単位でダイナミックな変化が起きようはずも無い。
なお※1の石油産出国は中東諸国以外ベネズエラ、インドネシアなども含む。また※2のカリブ諸国の銀行とは俗に言う「タックス・ヘイブン」なところ。実際の金主は不明、というところ。
この傾向は、全体額を除いたグラフで見るとさらに明らかになる。

米国債の引き受け先(主要国のみ)
いずれもドルベースであることを前提として、ではあるが、イギリスが柔軟な運用をしていたこと、ブラジルが地道に、そして2006年中盤以降猛烈な勢いで買い集めていたのが分かる。そしてそれ以上に中国が2002年中盤以降大規模な購入をしていることや、日本の保有額が少しずつだが減少しているのが一目瞭然に見て取れる。
さらにこの半年ほどの間、中国の買い増しスピードが加速度的になったあとややその速度をゆるめていること、ブラジルやイギリスが(国内的な経済の傾きであっぷあっぷしているからか)買取額を減らしていること、日本も再び多少ではあるが「額面上の」買い増しをしているのが分かる。また、石油産出国やカリブ諸国の銀行が地味ではあるが着実に保有量を増やしているのも確認できる。
これらの動向をもう少し詳しく見るために、期間を2006年1月以降に限定したグラフが次の図。

米国債の引き受け先(主要国のみ、2006年1月-)
主要国の動向を額面上からまとめると次の通り。
・イギリス……起伏が激しいが、全体的には横ばい。4月は急増。
・中国……増加。2008年後半から急増、ただし2009年以降は上昇率がゆるやかに。4月は減少。
・カリブ諸国の銀行……2008年9月以降急増。絶対額は少ないが、割合ではこの半年で2倍近くに。
・ブラジル……2008年半ばを境に漸減へ。
日本は運用資産のポートフォリオの組み換えをしている最中ということもあり、アメリカ国債の保有「額」が漸減していたが(ドルベース換算なので為替変動は無関係)、この半年の間に再び増加傾向を見せていた。引受依頼があったからか、中国との立ち位置が逆転され外交上の問題が発生したからか、他国債とのリスクを勘案した結果なのか、はたまた他の理由によるものか、このグラフからだけでは判断できない。ただ、前回の記事でも指摘したように、「発行総額に対する比率」で購入額を決めているフシが見られ、この観点で見ればほぼ一定割合を維持している。
一方、中国・カリブ諸国の銀行の増加振りが目立つ。カリブ諸国の銀行は半年で2倍近くに増加、そして中国は2008年の9月で日本の保有額を追い抜いて「もっとも多くの米国債を保有している国」の座を確保して以来、ずっと買い増しスピードを速めて積み重ねをしている。「米国債はデフォルトしない」という前提のもと、今がお買い得という判断からの選択だろうか。あるいはアメリカの財布のヒモを握ることで、外交上においても優位に立とうという「大戦略」に基づいた決定なのかもしれない。
ただ2009年4月は、先の3月までの記事で予想したように、各国とも(イギリス以外は)保有総額を減らすという稀有な傾向が見られる。引き当て総額自身が減少していることや、保有国債の償還と新規国債購入との切り替えタイミングで差異が生じたのかもしれない。
また、米国債そのものの引き当て総額だけでなく、日本や中国の保有する米国債残高も減少していること、特に中国の保有額が2008年6月以来10か月ぶりに減少したことについて、様々な観測が流れている。国際通貨基金発行の債券購入のためポジションを減らしたなど、ドル以外の外貨準備運用先に振り向けたのではという報道も見受けられるが、中国外務省の秦剛副報道局長は6月16日の記者会見で、米国債保有残高が減ったことについて「中国の外貨準備は我々の必要に応じて運用する」と述べるにとどめており(【NIKKEI NeT】)、真意は不明。

米国債の引受総額(2007年1月-、前月比、単位:10億ドル)(日本・中国・総額のみ)
ただし直近2年半の範囲でも、上記の図のように前月比で保有総額がマイナスとなった月は数多く見受けられ、為替の変動によるお得感や利回り、その他の事情も考えれば特段騒ぎ立てることも無いものと思われる。
それでは各国の引き受け額が発行額全体に占める割合はどのくらいで、どのような変化を示しているのか。それぞれの比率の比較と、全体軸に配したグラフの双方で表してみる。

米国債の引き受け先(全体軸に配したグラフ)

米国債の引き受け先(折れ線グラフ)
3月分までのデータを元にした記事でも触れているように、「米国債の引き受け先(全体軸に配したグラフ)」は6国区分以外のもの(「その他」)を黄色で着色し掲載している。
オイルマネーと呼ばれる石油産出国は「額面上は」買い増しを続けているものの、全体的な比率としては一定枠を維持しているのが分かる。あるいは意図的に、比率を維持しつつ額を上下しているのかもしれない。また、前回(半年前)に大いに割合を増やしていたイギリスも再び失速。その一方、「その他」の割合がヨコヨコであることとあわせて考えると、他国の減少分+増刷分を中国が買い取っているのがよく分かる。さらにイギリスは、これまでのパターンでは一定期間毎に「買い増し」「急速な売り」「低ポジション」を繰り返しているが、4月以降再び「買い増し」のパターンに突入した雰囲気を見せている。
日本は発行額全体に占める割合は減少・横ばいの傾向を維持している。ここ数か月の間見られた絶対額の増加は、中国のような意図的なものではなく、バランス調整上の増額であったことがうかがえる。
少なくともこのグラフを見る限り、「国債を持っている(借金証書が手持ちにある)」という意味では、アメリカに対する中国の意見力は増加中である、と考えるのが正しい。この状況は3月分のデータと変わらない。
これらのグラフはあくまでも発行側であるアメリカの立場から見たもの。つまり繰り返しになるが米ドルベースでの計算なので、日本円に計算した場合の日本の米国債の保有額はもっと少なくなる(1ドル120円時代で購入した米国債を現在の1ドル95-100円レートで計算すれば、円ベースでの総額が減るのは当たり前の話。ただし、償還した米国債をドルのままで再び米国債購入にあてれば、為替変動による差益・差損は「確定損益」としては計算する必要が無くなる)。日本が対外債の購入割合・額を大幅に減らしたという話は聞いていないので(年金などで運用を弾力化し、手堅い債券から株式などに割合をスライドさせるという話はある(【年金運用、第2四半期は1.6兆円の赤字・サブプライム問題の影響色濃く】))。
日本保有の米国債について総額と全体額に占める比率を見ると、米ドルベースでの「額」は増額しているが、発行全体額に占める「比率」は減少傾向を続けている。満期を迎えた国債を償還し、代わりに新規発行の国債を購入する際に、バランスの調整をしているのだろう。つまり、発行全体額に占める割合を維持・減少という基本方針に変わりはないが、発行額全体が急増してしまっているので、結果として購入額も増加してしまったわけだ(ここ数か月はやや増加する傾向もあったが、4月分では再び減少している)。
また、大きな変動を繰り返すイギリスの保有比率の動きと比較すると、「イギリスが保有率を増やしている間に少しずつ保有比率を減らし、イギリスがポジションを大規模に整理した時に、やや比率を増やしている」というようにも見える。日本によくありがちな「周囲とのバランスをあわせつつ、自分の意向を少しずつ反映させる」スタイルの一環なのかもしれない。
さて2009年4月分は3月分に続き連続して掲載することになったわけだが、今後毎月経過を追っていくかどうかは未定としておく。今回のグラフからも分かるように、一か月や二か月単位では大きな変化は見られず、また変化があったとしてもそれがたまたまなのか、何らかの現象・意思によるものなのかが判断しにくいからだ。恐らくはこれまで通り、半年くらいに一度のペースとなるのだろう。
しかしながら「日本市場の上場企業の倒産件数のグラフ化」記事のように、書くべき要件が生じたり、求めがあればそのように対処するつもりではある。その点、あらかじめご了承願いたい。
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