日本テレビのタイム・スポット広告の変化
2009/05/30 09:31
先に【主要テレビ局銘柄の期末決算】で示したように、テレビ放送を主事業とする上場企業のうちキー局である5社の2009年3月期決算は、テレビ広告の販売不振(特にスポット広告)の売上低迷と、保有有価証券などの評価損を理由に、お世辞にも好ましいとはいえない状況となった。特にテレビ事業特有の問題である「テレビ広告の販売不振」について、月毎の推移を確認できるデータが【日本テレビ放送網(9404)】の【IR情報】で公開されているので、今回はこれをグラフ化してみることにした。
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「タイム広告」「スポット広告」それぞれについては【主要テレビ局銘柄の期末決算……(1)スポット広告とタイム広告、業績概略】の解説で確認してほしいが、「タイム広告」は番組提供・放送枠固定、「スポット広告」は(原則)ばらまき型のテレビ広告。
タイム広告とスポット広告(再録)
昨今においては、特に「スポット広告の実効果が期待できないのでは?」というスポンサー側の不信や広告費を中心とする経費削減傾向において優先順位が低いことから、スポット広告の削減傾向が著しい。
一方、【過去20余年の媒体別広告費の移り変わり】や【民放連曰く「諸君らが愛してくれたテレビの広告費は減った。何故だ!?」】でも触れているが、テレビをはじめとする四大既存メディアへの広告費削減傾向は今世紀、特に2004-2005年以降顕著化しており、「スポット広告に限った傾向では無いのでは」という見方もできる。
さて、先日発表された、2009年4月分の日本テレビにおける広告販売実績・前年同月比は次の通り(内部管理数値のため決算時には修正される可能性あり、以下同)。
2009年4月における広告販売実績(前年同月比)
スポット広告が大きく減少しているのは理解できるが、タイム広告ですら2割近い減少を見せている。説明によると、「単発番組のボリュームが前年のおよそ半分」「新番組などのレギュラー番組のセールス結果」が二大要因だとしている。かみ砕いて説明すると、「スポンサーの注目を集める特番などの単発番組そのものが昨年から大きく数を減らしている」「新番組に対してスポンサーの集まりがあまり思わしくない」ということになる。
単発番組数の低下
・新番組の広告主への
魅力アピール度が
減っている
さらに後者は、年度切り替えで多くの番組がリニューアル・新登場する(つまりテレビ局からすれば「新商品」のアピールが出来る)この時期において、一定期間安定した広告費売上を期待できるタイム広告の販売が低調という、問題視すべき状況を意味している。例えるなら「チョコレート専門店においてバレンタインデーの新作チョコの売れ行きがさんさんたるものだった」「プロ野球(プロサッカーなどでも可)で、有力ルーキーを採用したり即戦力となる選手をトレードで確保したが、活躍ぶりが今ひとつだった」というようなものだ。
さて、これらのデータを含めた、過去のタイム・スポット両広告の前年同月比を各個抽出し、公開されている2006年4月分以降のものについてグラフ化したのが次の図。
日本テレビの月次スポット・タイム広告販売実績(前年同月比)
特にタイム広告において凹凸が激しいが、これは前述のようにタイム広告は「単発番組」への広告展開が行われることが多いため、それが影響しているのが原因。例えば2007年2月に大きく減じているのは、前年同月におけるトリノ五輪や東京国際マラソンなど大型単発番組が相次いだことへの反動、2008年3月はMLBオープンによる躍進、2008年8月は北京オリンピックによる躍進。一方タイム広告が堅調化するタイミングにおいても、スポット広告が今ひとつなことも分かる。
やや凸凹が大きく、全体の流れがつかみ難いかもしれないので、それぞれのグラフを移動平均線化(区間3)で描きなおしたのが次の図。
日本テレビの月次スポット・タイム広告販売実績(前年同月比)(区間3の移動平均線)
元々スポット広告は前年比-5%前後で低迷していたが、2008年に入ってから下降線を見せているのが分かる。金融危機が本格化したのが2007年後半期だから、それに伴い広告費を削減したテレビCMのスポンサーたちの最初のターゲットが、スポット広告だったことが分かる。
一方でタイム広告はスポット広告よりは成績が良く、2008年に入ってからは北京五輪の余波もあり2008年秋口までは堅調に推移。しかしその後は景気後退の波に勝てず、急激にその額を減らしているのが分かる。
今回はデータが公開されている日本テレビのものをグラフ化したが、他のキー局も多少の違いはあれど、全般的な傾向に大きな差異はないものと思われる。広告費はスポンサーのおサイフ事情を示すだけでなく、提供される媒体の影響力そのものをも間接的に表す。ROI(Return on Investment、費用対効果)が低ければ費用の垂れ流しを避けるためにコストカットに踏み切るのはビジネスとして当然の動きだからだ。
その「影響力」、言い換えれば「媒体力」が低下しているのは、
・テレビ各局自身の(番組の)質の低下によるもの
いずれかを原因としているのか、今データだけでは判断は難しい。しかし恐らくはその両者によるものだろう。どちらがより大きな要因なのかは、今後状況の進捗や、各スポンサーサイドの広告費の割り振りの変化で明らかになることだろう。
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