主要テレビ局銘柄の期末決算……(5)主要テレビ局の「スポット広告の減り具合」、そしてまとめ

2009/05/24 19:35

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テレビイメージ2009年3月期(2008年4月-2009年3月)における主要テレビ局5局の公開決算データを色々な面から斜め読みしているわけだが、最後にまとめの意味で、もっとも注目されている「スポット広告」を中心にグラフ化し、現状をざっくりと把握してみることにする。



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各テレビ局とも「株価下落で手持ちの有価証券の価値が減り、減損処理をしなければならなくなった」との説明のほかに、「不景気などが原因でスポット広告が激減したから、業績が悪化した」とコメントしている。前者はともかく後者はテレビ局の体質そのものの問題。それが本当にその通りなのか、昨年度と今年度における売上を、「タイム広告」「スポット広告」「その他」の区分でざっくばらんに切り分け、棒グラフ化したのが次の図。

期末売上構成比(2008年3月期・2009年3月期)
期末売上構成比(2008年3月期・2009年3月期)

元データはあくまでも「売上」であり、ここから諸経費が引かれてはじめて「利益」になる。利益率の違いもあり、これがこのまま「儲け」に直結するわけではないが、勢いを確認する指標にはなる。

各局とも「タイム広告」にはさほど変化はない、むしろ一部では増加している。しかしながら「スポット広告」が大きく減少しているのが分かる。また、売上総額が昨年とさほど変わらない局は、「スポット広告」の減少分を他の事業(黄色い部分)で穴埋めしているのが良く分かる(TBSの不動産などが好例)。

次に各局の「タイム広告」「スポット広告」の前年同期比をグラフ化する。今期において、どれだけ「スポット広告」が減っているかが良く分かるはずだ。

2009年3月期におけるタイム・スポット広告の前年比
2009年3月期におけるタイム・スポット広告の前年比

中間期では「タイム広告」がTBS以外はむしろ順調に伸びていたが、期末に至り「タイム広告」にも景気後退の波が押し寄せてきたことが分かる。そしてもちろんその減少具合はただものではない。

「前年比率で広告費が落ちてるのは分かった。それでは売上全体にどの程度影響があるの?」という疑問がわいてくるだろう(これも以前の記事同様)。そこで作ったのが次のグラフ。「タイム広告」「スポット広告」それぞれを前年期と比べ、今年期分における増減を「今年度の売上全体」に占める割合で表したもの。例えばこのグラフ上の数字で「スポット広告:-10%」と出ていたら、スポット広告の今年期における前年期からの減少分で、今期の売上全体の10%に相当する額が減ってしまっているという計算。

前年比の増減が今期売上に占める割合
前年比の増減が今期売上に占める割合

一番上の「売上構成比」のグラフと見比べてほしいのだが、各局によって「タイム広告」「スポット広告」の売上高構成比は微妙に異なる。例えばTBSは比較的「スポット広告」の割合が高く、【日本テレビ放送網(9404)】【フジテレビ(4676)】、そして【テレビ東京(9411)】は「タイム広告」の方が売り上げが大きい。個々の番組の人気度や、企業提供の番組が多いからだと思われるが、この数字のみだけではそれを断言することはできない。

ともあれ、各局の「タイム広告」「スポット広告」の割合の違いにより、それぞれの広告の「前年比の”減少率”」と売上そのものに与える影響とは違う様相を見せてくる。例えばその局で「スポット広告」そのものの売上高が巨大なものなら、”減少率”がさほど大きくなくとも、額は大きなものになる。

良い事例が(逆の意味になるが)テレビ東京。期末においてはどの局も、「スポット広告」の前年比減少率はほぼ同じ水準で推移している。ところがテレビ東京はとりわけ「タイム広告」の比率が高いため(=「スポット広告」の比率が低い)、「スポット広告」の減少による売上高減少の比率が、5局中最小限に留まっている。しかしその分「タイム広告」の減少額比率が5局中最大のものとなり、せっかくの効果も打ち消されてしまっている。



これらの図表などから分かることは、

・スポット広告の下落率はどの局も前年同期比で1割強。絶対額を考えれば、もはや看過出来ない状況。
・今後さらなるスポット広告の減少は容易に想像がつき、売上に与える影響もこれまで以上に増加する可能性は高い。さらに減少率がひかえめだったタイム広告にも、大きく下落する傾向が見えている。
・放送事業の広告費以外で大きく稼げる「ドル箱」がある局は、スポット広告の売上下落をどうにか穴埋めできている。
・TBSはタイム、スポット共に大きな減少を見せている。しかし収益構造が大きく変化しているので、大きな問題にはならないものと思われる。

などとまとめることができよう。各局の細かい状況はこれまでの記事を参照してほしい。要は中間期と状況はさほど変わらないものの、広告費における問題点は「スポット広告」だけでなく「タイム広告」にまで及び始めた、というところだろう。

テレビ局イメージ「スポット広告」の急激な減少は、これまでのテレビ局関連の記事でも触れているように、不景気が第一義的なもの。そしてインターネットや携帯電話などの(ばらまきという観点で特に)ライバル的な広告媒体に広告主の予算を奪われているのが要因。不景気の加速により、スポット広告の減少は激しさを増し、期末決算では不景気の影響がタイム広告にまでその影響が及び始めていることが確認された。

現在はタイム広告の減少率は、スポット広告のそれに及ぶべくもない。しかし、今後景気後退の継続や企業の広告費の最適化が進めば、スポット広告のさらなる減少と共にタイム広告も大規模な削減が予想される。各社ともすでに厳しめの次期予想を立てているが、状況次第では2009年3月期のように度重なる下方修正を余儀なくされるかもしれない。

また一方で、コストカットを成し遂げて放送事業の収益構造改善に成功したとしても、その経費削減方法が正しいやり方だったのかどうかは、時間の経過を待たないと判断できない。必要な部分、削ってはいけないコストまで削減してしまい、提供すべき商品(=テレビ放送の内容)の質が落ち、短期間では取り戻せない損失を各テレビ局がこうむる可能性もある。今後各局で行われる・せざるを得ない「放送事業の大規模なリストラ」「収益構造の変化」により「主事業たる放送事業の品質」がどのように変化していくのか、注意深く見守り、周辺に現れる影響・反応・兆候を見定めていく必要があるだろう。

(終わり)

■一連の記事:
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(1)スポット広告とタイム広告、業績概略】
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(2)業績斜め読みとスポット広告の落ち込み】
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(3)放送事業と利益、TBSの特殊事情は継続中、そして小まとめ】
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(4)主要テレビ局の収益構造を再点検してみる】
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(5)主要テレビ局の「スポット広告の減り具合」、そしてまとめ】



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