主要テレビ局銘柄の期末決算……(4)主要テレビ局の収益構造を再点検してみる
2009/05/24 19:33


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●日本テレビ:副業利益率高し、だが収益率自身は低下
対象は前回の記事同様に上場テレビ局であり、キー局でもある5局。まずは【日本テレビ放送網(9404)】。なお各テレビ局毎にセクション区分や名称がいくぶん異なるが、大体はその名前から想像がつくとおりのもの。特記すべき場合はその都度解説を加える。また、「売上高営業利益率」とは「営業利益÷売上高」で計算される値。この数字が大きいほど、本業が稼ぎやすい・儲けやすい構造であることを意味する(もちろん高い方が良い)。

日本テレビの直近2年間における期末・セクション別営業利益

日本テレビの直近2年間における期末・セクション別売上高営業利益率
やはりテレビ放送事業が激減しているのが目立つ。ただし「激減」とはいえ、立派にテレビ放送事業で大きな利益をあげているのは評価すべきだろう。
また、「その他事業」はサッカー収入やノベリティ、さらには各種不動産事業収入などを合算したものだが、この分野の利益率が高いのも注目。しかし額はいずれも前年同期比でマイナスに転じており、利益率も低下している。制作費が増加するなど原価率が上昇し、営業費用が増えているのが要因。「文化事業」の利益率が大きく減少しており、映画やDVD、スポーツ事業も振るわないのも痛手。現在収益構造の変革中とのことだが、その成果が出るのはもう少し先の話となるのだろう。
●TBS:「主事業は放送事業」以外です!?
続いてTBS。期末決算でより一層「本当に放送局なのかどうか」が疑われてしまいそうなグラフになった。

TBSの直近2年間における期末・セクション別営業利益

TBSの直近2年間における期末・セクション別売上高営業利益率
去年のデータと比べると、この1年で収益構造に劇的な変化が現れたのが分かる。映像・文化事業(「花より男子ファイナル」や「ROOKEIS」などのDVDが大ヒット)や不動産事業は大躍進を遂げ、放送事業が「その他」と表現しても良いくらいのボリューム……というより赤字となり足を引っ張るほどにまで落ち込んでいる。収益率も放送事業はほとんど無いに等しく、不動産事業の利益率が異常なまでに高い。来年もこの高利益率が続くとは考え難いが、このままだと「映像・文化事業や不動産事業のネタ元として、仕方なく放送事業を続けている」スタイルになってしまう(あるいは前述のように、すでにその状態だろう)。
●フジ・メディアHD:色々抱えているけれど
次にフジテレビ、もといフジ・メディアHD。ホールディングス化後の業態変化に伴い2008年11月6日の取締役会でセクションのくくりを変更した結果、前回の中間決算記事と比べてセクションが細分化されていることに注意。

フジテレビの直近2年間における期末・セクション別営業利益

フジテレビの直近2年間における期末・セクション別売上高営業利益率
中間期では前年比で大きな伸びを見せた「放送事業」だが、期末においては前年比でマイナスに転じてしまったのが分かる。これは大規模な営業費用をもってしても、後期における広告収入源を支えきれなかったのが要因。実際決算短信にも
という表記を確認することができる。
また、放送事業やそれに直接関係する制作事業以外の、いわば「派生事業」項目においても、利益率・利益額共に少なく、会社全体を支えるまでには至っていないことも分かる。とはいえ、他局(例えばTBS)が「派生・周辺事業」で本業を支えてなんとか経営を続けている状態と比べれば、本業の放送事業だけで200億円近い利益を出しているのは賞賛できる。
●テレビ朝日:本業赤字でTBSと似たもの同士
放送内容そのものの特性も似ているということもあり(!?)、【テレビ朝日(9409)】はある意味TBSと似たような構造を見せつつある。

テレビ朝日の直近2年間における期末・セクション別営業利益

テレビ朝日の直近2年間における期末・セクション別売上高営業利益率
相変わらず「音楽出版事業」や「その他事業」の利益、利益率が高い。今期は前期と比べて「音楽出版事業」「その他事業」に大きな変異は無く、「テレビ放送事業」の営業利益がマイナスにスライドしたことで「本業が副業の足を引っ張る」形となっている。まさにTBSと同じ状態だ。現時点では「他事業の展開のために仕方なく放送事業をしていると見られても仕方が無い」という点でもTBSと似たような状況にある。
●テレビ東京:抜本的な「変革」が必要不可欠
最後に【テレビ東京(9411)】。こちらも「色々な意味で」特異性を見せている(つまり根本的な問題は中間期から変わっていない)。

テレビ東京の直近2年間における期末・セクション別営業利益

テレビ東京の直近2年間における期末・セクション別売上高営業利益率
テレビ東京では主事業の放送事業以外のジャンル(映画、イベント、音楽著作物など)をすべて「ライツ事業」におさめている。また、規模そのものが他局と比べて小さいので、横軸の金額の区分「億円」の単位がかなり違うことに注意して欲しい。第1四半期において「経費削減効果は後期から」「主事業で赤字という結果すら導きかねない」とコメントし、わずか四半期後にその懸念が表面化した同局だが、その状態は期末においてもさほど改善されることは無かった。
一応「大規模な経費削減などの改革を行い、後期からはその成果が見えてくるため収益構造は改善されていく」との以前のコメントにもあるように、中間期の「いくら事業を展開しても利益はでない」という状況からは脱し、わずかではあるが「放送事業」「ライツ事業」共に利益を出せる状態にまで回復している。とはいえ前年比では大きく落ち込んだままであり、最終的な利益が大きくマイナスにぶれている以上、さらなる状況改善が望まれる。
ざっと5局のデータを見比べてみたが、概要を箇条書きにまとめると次のようになるだろうか。
・フジ・ビジョンHD以外は「テレビ放送事業」以外の事業(副事業)の方が利益率が高い(儲けやすい)傾向にある(日本テレビもややその傾向あり)。
・テレビ東京やフジメディアHDは経費削減による効果が出始めている。とはいえ、十分な成果を得られるまでには至っていない。
・「テレビ放送事業」の低下もあり、テレビ朝日やTBSのように本業と副業の業績的立ち位置が「本末転倒」的な状態となった放送局が複数見受けられる。
・テレビ東京は可及的速やかに、さらなる抜本的な構造改革が必要。経費削減効果が見え始めているが、環境悪化による収益構造の劣化がそれを上回るスピードで進んでいる。

各局の短信を見ると、今後も景気後退の継続で広告収入が確実に減少することが予想されるため、「一に経費削減、二にコスト削減、三四が無くて五にコストカット」をスローガンに、徹底的な節減を行うと断じている。今後テレビ放送事業における経費削減はさらに進められるだろう。しかしそれが本当に「無駄な部分」のコストカットなのか、それとも本当は削ってはいけない部分をカットしてしまっているのか、そして中長期的に見た質の変化(低下)をどこまで押さえることができるのか。その評価は時間の経過と共に現れてくる(先に触れているが、すでにその兆候すら見られる)。判断が正しいか否かは、今後の各局の財務的な発表資料に反映されていくに違いない。
(続く)
■一連の記事:
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(1)スポット広告とタイム広告、業績概略】
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(2)業績斜め読みとスポット広告の落ち込み】
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(3)放送事業と利益、TBSの特殊事情は継続中、そして小まとめ】
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(4)主要テレビ局の収益構造を再点検してみる】
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(5)主要テレビ局の「スポット広告の減り具合」、そしてまとめ】
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