主要テレビ局銘柄の期末決算……(3)放送事業と利益、TBSの特殊事情は継続中、そして小まとめ

2009/05/24 19:32

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テレビイメージ「主要テレビ局銘柄の期末決算」その3。他のテレビ局とは少々違った傾向を見せていることが前回「第2四半期」と前々回「第1四半期」で分かった【TBS(東京放送ホールディングス)(9401)】について、その事情を他局と比べて、さらに小まとめをしてみる。要は前回記事の踏襲と、状況の変化に対応した文面の足し引きに他ならない。



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経費削減で利益確保。しかしテレビ放送の質は……
スポット広告減による
収入の減少は続く。
制作費の削減でも
まかない切れない状態
キー局の共通傾向は「広告出稿、特にスポット広告が激減してテレビ局全体の業務成績が悪化している」。この傾向は前回から変わらない、というより加速化しているのは直前の記事で触れた通り。そして先のフジ・メディアHDのコメントにもあるように、各局とも積極的な営業活動や質の向上で広告誘引を図るより、「経費削減で支出を圧縮し、利益を確保しよう」という姿勢が見られる。要は守りの姿勢についているわけだ。番組の質の良し悪しはすぐには数字としては表れない一方、経費削減はダイレクトに効果が出るので、現時点では「素晴らしい成果」が見えていることになる。

一方で、経費削減による影響が出始めているからなのか、中間期においてすでに見受けられたちまたの意見「安く使える新人タレントをいじるだけで構成できるクイズ番組や、制作費の負担が少ないドキュメンタリー番組が雨後の竹の子のように増えている。しかもいかにも『制作費かけてません』という見てくれのものが多い」に加え、具体的に【テレビ番組に対する視聴者からの「意見」の数(2009年4月22日更新版)】などのような視聴者からの意見の変移、さらにはスポンサーサイドからも【「企業社員がおススメする報道番組ランキング」定例化へ】【相次ぐメディアの不祥事に広告主団体が「遺憾」声明 】などの動きが相次いで見られる。制作費の削減と「直接」結びつけるような証拠は無いが、タイミング的には一致しており、注目に値する。

主軸事業の「放送事業」利益はマイナス、でも土地と映画で稼ぎます……TBSの特殊事業
各テレビ局毎の特殊事情もそれぞれ別個に数字に反映されている。今回は前回の記事で特殊事情を見せたTBSにスポットライトをあててみる。

先のグラフなどにもあるように、TBSは「主事業」の放送事業は軟調。しかし売上高前年比では唯一前年比プラスを計上している。これは中間期の記事でも説明したように、放送事業以外の事業がフル回転してTBS全体を支えているからだ。

TBS(9401)の2009年3月期における営業利益区分(額の単位は億円)
TBS(9401)の2009年3月期における営業利益区分(額の単位は億円)

比較対照事例。テレビ朝日(9409)の2009年3月期における営業利益区分(額の単位は億円)。
比較対照事例。TBS同様にテレビ放送事業で赤字を計上したテレビ朝日(9409)の2009年3月期における営業利益区分(額の単位は億円)。

テレビ局、しかもキー局であるからには「放送事業」が「主事業」に他ならない、はず。しかしTBSは稼ぎのほとんどを「映像・文化事業※」「不動産事業」からまかなっていることになる。期末では放送事業が赤字になってしまったため、業績の面では放送事業は足を引っ張るだけの形となる。「DVDや映画のセールス、不動産事業で成り立っているテレビ局」と書き記してもあながち間違いではない(放送事業が赤字転落したテレビ朝日も似たようなものだが)。

もっとも、不動産事業も映像・文化事業も完全にテレビ放送事業と独立しているわけではなく、テレビ放送事業の土台があるからこそ派生して可能な案件が多いため、業績上は「仕方なく放送している」と見た方が良いのかもしれない。

しかも後述するが、売上高営業利益率(利益÷売上)では不動産事業が実に30%超の数字をはじき出している。一概に放送事業と不動産事業を比較するのは難があるが、非常に割の良い商売をサイドビジネスで実施している計算になる。安月給のかたわら、書いた小説が大ヒットして印税がどっさり入ってくる「サラリーマン小説家」のようなものだ。また、放送事業があって初めて成立しうる「映像・文化事業」も利益率は10%に近い。TBSにとって、見た目の本業は「放送事業」なのだろうが、今や業績の上では真の本業である「不動産事業」や「映像・文化事業」を支えるためのネタ元でしかないのかもしれない。

※短信によれば映画「おくりびと」が60億円近く、「花より男子ファイナル」が77億円もの興行成績をあげたほか、後者はDVDの売上が44万セットをはじきだし、大きな利益をたたき出した。さらにドラマ「ROOKIES」、「8時だョ!全員集合」などのDVDなどの売上高・利益が部門実績に大きく貢献した、とある。



ここまでの記事(1-3)を箇条書きにまとめると次のようになる。

・テレビCMは番組買取の「タイム広告」と、番組の間に流される「スポット広告」に大別される。
・キー局5局すべてがスポット広告の減少を受けてテレビ放送事業・経常利益で前年比マイナス。景気の鈍化による影響が大きい。
・スポット広告の落ち込みは加速中。
・各局は業績の悪化を制作費削減で補おうとしている。しかし収入減を支えきれず、さらに番組の質の低下によるものと思われる反動が出始めている。
・TBSは放送事業による収益がマイナスに転じ、不動産と放送の周辺事業でどうにか最終黒字を維持している。
・フジメディアHDはライブドアとの和解金で最終黒字を確保。これが無ければ実質赤字を計上していた。

これまでの当サイトの記事以外でも、例えば【自動車の専門サイトResponse】にさりげなく、ではあるが広告代理店関係者の話として[トヨタ自動車(7203)]が「08年度の広告費予算を一律30-40%削減する方針」という話を掲載している。また、【ロイター電(Ascii.jp経由)】では日本テレビの事例として「制作費の削減」「放送事業の売上高全体に占める割合を減らし、他の事業の割合を増やしていく。特に権利ビジネスに力を入れたい」という話を目にすることができる。さらに最近では【モスバーガーの「迷走」とテレビコマーシャルの打ち切り検討と】にもあるように、上場企業のトップが公然の場で「テレビCMの費用対効果が低い」こと、テレビCMからの撤退を検討していることを企業のトップが口にする状況ですらある。

中間決算期における記事で「昨今の景気の急速な冷え込みの中で、テレビCM、特にスポット広告が短期的に減らされることは間違いない」という表現を用いた。中間決算短信と期末決算短信におけるスポット広告の前年比減少率をみれば、それが現実のものとして進行していることが分かる。さらに中長期的にもメディアの多様化から、テレビCMへの割当予算が減らされる方向で進んでいくことはほぼ確実。そしてそれに備えて、というよりお尻に火がついた(=収益減による業績不振)形で、各局もさまざまな手を打ちつつある。

スポット広告出稿減による
放送事業の落ち込みが
景気後退で加速。
テレビ局は収益構造の変革を
しなければ生き残れない状態に。
他の新興メディア(ケータイ、インターネットなど)の成長による消費者注力の分散・テレビ放送の『媒体力』の相対的低下→広告効果の低下→広告出稿数・単価の低下→局の収益が悪化」という図式は以前から言われていた話であり、確実に状況が進展していることが分かる。インターネットや携帯電話の普及、そしてそれら媒体の特性(効果が計測しやすい、フレキシブルに対応できるなど)に伴い、広告出稿側や広告取り扱い代理店のデータからも広告主が「テレビCMへの広告費を削っている」姿勢が見て取れる。

【「新聞没落」…週刊ダイヤモンド最新号を読み解く】でも触れているが、2011年の地デジ(地上デジタルテレビジョン放送)への切り替えに伴うテレビ放送の「媒体力」の変化、テレビ放送受信機の買い替えが、主要5局を中心としたテレビ業界を大きく動かすイベントになることは間違い無い。しかし2007年後半からの景気の急速な悪化とそれに伴う企業側の広告出稿の出し渋りにより、テレビ局側も「変革」を前倒して「実行」する必要に迫られている。放送事業では5局中2局が赤字、最終赤字が2局(フジメディアHDの和解金という特殊事情を考慮しなければ実質3局)という現状を見れば、後戻りの出来ないところまで状況が差し迫っていることは容易に理解できよう。

(続く)

■一連の記事:
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(1)スポット広告とタイム広告、業績概略】
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(2)業績斜め読みとスポット広告の落ち込み】
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(3)放送事業と利益、TBSの特殊事情は継続中、そして小まとめ】
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(4)主要テレビ局の収益構造を再点検してみる】
【主要テレビ局銘柄の期末決算……(5)主要テレビ局の「スポット広告の減り具合」、そしてまとめ】



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