朝日新聞の決算短信から「おサイフ事情」をチェックしてみる

2009/05/23 10:39

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朝日新聞社イメージ【テレビ朝日(9409)】は2009年5月22日、親会社にあたる朝日新聞の連結決算短信を発表した。朝日新聞そのものは非上場の会社のため、決算諸表は上場企業のそれに似てはいるものの、いくつかの項目が省かれたシンプルな内容。しかしその中にも、各大手新聞社、そして朝日新聞特有と思われる「おサイフ事情」をかいまみることができる。ここでは中間決算期に検証した【朝日新聞の最新版「おサイフ事情」をチェックしてみる】とあわせ、簡単ながら公開資料をもとにチェックを入れてみることにする。



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連結経営成績は次の通り。

売上高……5372億7800万円(▲6.2%)
営業利益……34億2500万円(▲81.6%) 
経常利益……▲3億270000万円(▲101.5%)
当期純利益……▲139億1400万円(▲399.4%)

※比率は前年同期比、「▲」はマイナス(以下同)


朝日新聞の連結営業成績前年期比
朝日新聞の連結営業成績前年期比

中間決算短信では赤字を計上していた、本業の収益こと営業利益。決算短信では赤字は回避できたものの、大きな減少を見せていることに変わりは無い。新聞社たる朝日新聞自身にとって、非常にゆゆしき事態といえる。さらにその他事業や朝日新聞独自の理由で大きく足を引っ張られ、最終的な赤字額は実に100億円を超してしまっている。経常利益の赤字・当期純利益の赤字(つまり経常損失と純損失の計上)は過去さかのぼれる(=連結決算の公開をはじめた)2000年以降はじめてのこととなる。

損益計算書を確認する
それでは中間決算短信同様に、損益計算書でお金の流れを確認する。

朝日新聞の決算連結損益計算書(今期2009年3月期と、前期2008年3月期)
朝日新聞の決算連結損益計算書(今期2009年3月期と、前期2008年3月期)

前年同期比と比べると、財務状態が悪化したポイントは大きく4つ。

本業である新聞事業の赤字
新聞部数の発行数減や経費削減などで売上原価が-1.9%と縮小しているが、それ以上に売上が落ち込み、-6.2%を記録している。%値はさほど大きく無いが元々の額が巨大なため損失額も大きい。さらに中間決算と比べると売上が-4.4%から-6.2%と悪化している状況が確認できる。これだけなら中間決算同様「本業の新聞事業だけで赤字」を計上するハメになったのだが、中間期から思いっきりリストラを断行したようで、「販売費および一般管理費」(いわゆる人件費など)の減少分が中間期の-0.8%から-7.9%と大幅に伸びている。これが功を奏し、なんとか今期では営業黒字を確保した形だ。もちろん新聞事業そのものが危機的状況であることに違いはない。

持分法投資利益の減少
前期と比べると約35億円分がなくなっている。持分法では保有する株式数が20%以上50%未満の非連結子会社や関連会社の業績を、連結財務諸表に反映するもので、対象となる子会社を持分法適用子会社と呼んでいる。中間期の約6億円から期末でゼロに減少しているあたりを見ると、後述するように朝日新聞自身が非連結子会社や関連会社との関係を整理統合していく過程で、帳簿上の利益が消えたものと思われる。

寄付金の増加
去年と比べて50億円近い増加額を見せる寄付金。中間期と比べてもさらに増加を見せている。資料にはこれ以上の情報が盛り込まれていないが、寄付金には会計上現金だけでなく、株式などの有価証券も含まれるため、「②」同様に後述するように、朝日新聞が関連各社との関係を整理統合する過程で、持株(テレビ朝日の株式など)を寄付したのが大きく反映されているようだ。

有価証券の売却損益
こちらもかなり大きな額で、売却益が16.88億円、売却損が96.73億円、差し引き約80億円の損失を計上している。実はこちらもテレビ朝日との提携に際して行われたものをはじめとする、朝日新聞・テレビ朝日などの朝日グループにおける、関連各社の関係の整理統合によるもの。


ポイントは2つ「新聞事業の衰退」「朝日グループ内のお家事情」
損益計算書で気になる箇所を4つほど挙げて上記に箇条書きしたわけだが、これらはさらに大きく2つに集約することができる。一つは「本業の新聞事業の衰退」、もう一つは「朝日新聞・テレビ朝日などの朝日グループの関連各社における関係の整理統合」によるもの。

外部からはやや分かりづらい後者「朝日新聞・テレビ朝日などの朝日グループの関連各社における関係の整理統合」については、【朝日新聞の最新版「おサイフ事情」をチェックしてみる】で説明しているように、朝日新聞の社主・村山美知子氏が大きく関わっている。要は大株主の社主やその他大株主らの間による、「相続も絡んだ色々な内部事情」が起因。

関係者間で実際に「相続」が発生する事態が生じた場合、朝日新聞・テレビ朝日などの間で遺産相続や相続税発生などによる株式の移動が行われ、関係者・社の間であまり好ましくない状況が発生しうる。そこで今のうちに各社の持株保有の関係を整理統合し、その「相続発生の事態」に備えようという動きが行われているわけだ(当然対外的には「各社の関係強化」「提携による相乗効果」などがうたわれており、実際その効果も期待できる)。最近でも5月22日に「親会社等の主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ(PDF)」にもあるように、株式の移動は継続している。

前者「本業の新聞事業の衰退」は言わずもがな。新聞各社とも売上を急速に落としている。さらに直接の新聞自身の販売による利益と共に新聞社を支えている広告収入も、【4大既存メディア広告とインターネット広告の推移】にもあるように、今世紀以降はGDPの上昇には連動せずに下方には連動し、このニ、三年は急速な下落傾向を見せている。メディアの重要度・立ち位置を考えると(【Wikipedia系のウェブ百科事典が「テレビ」「ラジオ」に次ぐ信用度・1年で大きく変わるメディアの立ち位置】)、新聞が今後売上を伸ばすなり、広告出稿が増えるとは考え難い。

いわば朝日新聞・グループは外的要因が主要因ともいえる「新聞というメディアそのものの問題」と、内的要因の「相続も絡んだ色々な内部事情」の双方で、大きく財務事情を傾けていることになる。まさに「内憂外患」状態なわけだ。もっとも「外患」に相当する新聞そのものの問題も半ば「内憂」だから、「内憂外患」と表記すべきかもしれない。



主要新聞他紙の場合には無い特殊事情により、他紙以上に財務上の大きな負担をかけられている朝日新聞。本質部分には関係ないため、事が片付けは特殊事情部分はどうにか改善できる。しかし本業の新聞事業部分への手当てがそれだけおろそかになる可能性も否定できず、油断は禁物。

一部報道によると新聞社最大の問題であり、消費者金融業界における「グレーゾーン金利」に相当するとも言われている「押し紙問題」について、産経新聞が先行して改善を手がけているという。早かれ遅かれ他紙もこの問題で、状況の改善を迫られるだろう(今回朝日が進行していると思われる「販売費および一般管理費」の削減にも大きく関わってくる)。果たして時代の変化に同紙は対応し、波を乗り切れるだろうか。ここ数年が大きなターニングポイントとなることだけは間違いない。



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