「mixiの広告減少!?」をもう少し考えてみる
2009/05/17 16:50


スポンサードリンク
●前々から「SNS」(などCGMの広告効果)は低いことが知られていた
タイトルそのままだが、SNSに限らずCGM(Consumer Generated Media、利用者が内容を創って行くメディアのこと)の広告効果が低いことは、広告業界では知られていたことだという。先のIDC(アメリカの市場調査会社、International Data Corporation)の資料も去年の11月のものであり、その時点で「業界では当たり前」だったというのだろう。
また、「一般サイト」の代表例としてポータルサイトとしてのヤフー、CGMの代表例としてブログのアメブロの媒体資料がリンクとして張られていたが、それらによると
・アメブロ……0.10円-0.14円/ページビュー
※トップページ類似エリアでの比較。各種基準が異なるため単純比較はできない
と、指摘通りCGMのアメブロの方が単価が安い。投資的にはROI(費用対効果:Return On Investment)を考えた上で広告主は広告を出すか出さないかを決めるので、成果が低そうなところにはページ単価が安く無いと「割が合わないから出さない」となってしまう。それを考えた上で、ヤフーは高いしアメブロは安い。
それではmixiの場合はどうなのか。mixiを運営するミクシィ自身は広告出稿資料をネット上で公開していないらしく、ミクシィの公式サイトでは見つけられなかった。色々探したところ、広告代理店GMO ADパートナーズのリリースで、
・定価……45万-75万(キャンペーン価格36万-60万)
という表記があった。上限・下限をそれぞれ元にするとどちらも0.15円/ページビューになる。代理店のマージン分を引いて、エリア特性分を足して考えれば、やはりアメブロと大きな違いはないのだろう。
これらの価格設定から、「ページビューあたりの」広告効果はポータルなどの一般サイトと較べて低いことは、広告出稿側も広告枠販売側も暗黙の了解として認識していたようだ、と言うことが分かる。……なるほど。「数うちゃ当たる」というわけだ。
●市況悪化と「Find Job!」へのてこ入れ
「PC版」mixiの広告が少なくなった「ように見える」理由としては、「yoshitetsuの日記」では「市況の悪化」「モバイルへのシフト」「Find Job!へのてこ入れ」を挙げていた。「モバイルへのシフト」は広告営業は代理店に任せてあるはずなので(上のGMO ADパートナーズが良い例)さておき、「市況の悪化」と「Find Job!へのてこ入れ」について見てみることにする。
まずは「市況の悪化」。経済産業省内【特定サービス産業動態統計調査】では毎月いくつかのサービスの実数値や伸び率を発表している。このうち、「物品賃貸業、情報サービス業、広告業、クレジットカード業、エンジニアリング業」に区分されているファイルには、広告業界の売上高及び前年・前期比が掲載されている。毎月データが更新されるため、非常に役立つ資料といえる。これを元に、2008年1月以降の月次・前年同月比の主要項目における広告費推移をグラフ化したのが次の図。

2008年1月以降の月次・前年同月比の主要項目における広告費推移
【電通の2009年4月の売上高】や【博報堂の2009年2月の売上高】のように、個別大手代理店の売上高推移でも似たような傾向は見られたが、こちらのデータの方が個別の特性による差が出ず、業界全体の状況を見るデータとしては適切な気がする。
ともあれ、インターネット広告も去年末から前年同月比でマイナスを見せる月が増えており、広告出稿も少なくなっているという推定を裏付けるものにはなりうる。
続いて「Find Job!へのてこ入れ」。雇用状況が悪化していることはすでに多数の報道などで知るところではあるが、最新の決算短信資料でも「3か月連続で過去最高の応募数を更新」「一方で、求人企業数は、引き続き低迷」という表記にもあるように、求職数は増加する一方で求人数は減少している(世間一般と同じ)現状が説明されている。「Find Job!」では基本的に求職者は無料で利用でき、求人を行う企業側から売上が発生する仕組みとなっているので、「求人側が減少する」=「売上が減少」することを意味する。
過去の短信をさかのぼり、四半期の売上が明記されている2007年4-6月期以降の「Find Job!」の売上推移をグラフ化したのが次の図。

Find Job! 四半期売上推移(単位:億円)
前期比、前年同期比いずれにおいても、売り上げが大きく減っているのが確認できる。2008年3月以前は単体での数字のためそれ以降とは単純比較はできないが、たとえ2008年4月以降に限定しても、急速な落ち込みの傾向にあることに違いは無い。
これなら「広告費が最小限に抑えられるmixi内に自社広告を大量投入し、Find Job!をてこ入れする」という理屈も理解できる。
ただし。
「広告主からの広告掲載依頼が容易に想定されるのに、それを差し置いて自社のFind Job!の広告を入れる」というのはあまり考え難い。「Find Job!」からの売上はミクシィ全体の7.1%(2009年3月期)でしかなく、86.5%を占めるmixiの広告収入の一部を減らすほど優先順位が高いとは想定しにくいからだ。

ミクシィの2009年3月期における売上高構成比
いわゆるテレビや雑誌の「自社広告」と同じように、余った広告枠に積極的に「Find Job!」の広告を入れててこ入れした、というのが自然だろう。
ともあれ、今回のご指摘からは「SNSをはじめとするCGMの広告効果は低い(少なくとも広告出稿側と広告枠販売側双方は認識している)」「インターネット広告ですら広告市場は悪化の傾向を見せ始めている」「雇用市場の悪化が求人サイト(Find Job!)の業績にも影を落としている」ことの再認識をすることができた。
また、「経済産業省内の特定サービス産業動態統計調査」のデータは全体としての動向が把握可能な、非常に役立つものとして、今後も積極的に使うことになるだろう。
有意義な記事を展開されたyoshitetsu氏には、あらためてお礼を申し上げたい。
スポンサードリンク
