「インターネット調査」と「一般の世論調査」に関する意見を集約してみる
2009/05/07 05:35
先に【「インターネット調査」は「一般の世論調査」に置き換えられるか!?】で「ごく少数事例をのぞけば、インターネット調査は一般の世論調査に置き換える事は難しい」という内閣府の調査結果と、それに対して「でもいわゆる『世論調査』も本当の”世論”の調査とは言い難いのでは?」という話を記事にした。これに対して多方面で色々な、貴重な意見をいただくことができた。今回は当方の覚え書きもかねて、これらを一度まとめてみることにした。
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まず最初に前述の記事について。元データは【世論調査におけるインターネット調査の活用可能性に関する調査】で、内閣府が定期的に行っている調査の最新結果。簡単にまとめると「インターネット調査は安価でスピーディーな手法だけど、一般の世論調査とは差異が大きいから、一部の調査以外にはまだ使えそうにないネ」というものだった。それに対して記事内では「本当の国民全体」と「世論調査の回答者」でも、各設問における回答分布も違いうるのでは、という問題提議を行ったというもの。ちなみに下記のチェックはアクセス解析で逆引きして、コメントが語られていることが分かったものだ。
●newsingの場合
まずはソーシャルブックマーク「newsing」に寄せられた意見(【元ページ】)。
・人口統計から割り出して比率を決めてランダムに回答を聞くってのが世論調査で多いけど、実際の回答者比率を見ると、高年齢の女性とかがすごく比重を占めてるんだよね。高齢化社会と、アンケートの回収率を考えればだいたいわかるけど。インターネット調査だと圧倒的に若い世代が多くなる。ネット環境必須だしフィルタリングされているのは明白だけど、世論って意味ではそっちのほうが精度いい気はしている。(blastydotさん)
・麻生総理の支持率なんか 新聞社が発表するものとネットで行われたものでは全く違う結果があり ネットの方を見る限り、それほど酷く落ちているわけではない。若しかして新聞社の方に捏造(?)があるのでは・・と疑ってしまいます。(almond51さん)
・数学的な話は、ほぼ出尽くしていると思うので、一点追加する。調査の設問の仕方とその時期が支持率を大きく左右している。例えば、麻生政権についてネガティブな報道を繰り返した後で、麻生政権を支持するかどうかと問えば、NOが増える。一方、民主党にとってネガティブな報道を繰り返した後で、民主を支持するかどうかを問えば、NOが増える。また、新聞社の調査では、その時々の時事についての評価の設問が含まれている。そういうバイアスをかけるから違和感の残る結果がでる。捏造とはいえないが、一種の情報操作だね。(rastmanさん)
・世論調査なんて、そもそも設問に関心がないと誰も回答しないよね。電話調査の電話なんてウチには掛かってきたことがない。電話帳に登録してないもので。(hanakoBBさん)
大きく分けると「調査方法が違えば同じ設問でも回答が異なるのは当たり前」「調査方法によって回答階層が違ってくる。インターネットが絡むと若年層の意見が強くなる」「回答ばかりにスポットライトが当たっているが、設問方法などでも回答は誘導されうる」「電話調査ですらバイアスがかかっており、世論調査とは言い切れない」というあたりになる。
設問の仕方と回答誘導については【設問とアンケート内容で分かる、秋葉原の「あの事件」とマスコミの立ち位置】でも解説しているが、特にテレビやラジオなどの「一方向的メディア」においては(それらメディアが一番嫌っているはずの)初めに調査結果ありきの場合が少なからず見受けられ、さらにそれらを報じる際にはどのような状況・やり方で答えを収集したのか明示されていない場合が多い。
また、今件も含めデータ収集元がインターネット上ということもあるが、いわゆる普通の「世論調査」に対する疑心感が強いのも確認できる。先の記事では最後にさらりと触れた、「世論調査の回答者こそ、片寄りが生じているのでは?」という疑問だ。
●ライブドアニュースの場合
詳しくは【サイト解説】で言及しているが、当サイトの記事は2009年2月13日から【ライブドアニュース・経済カテゴリ】への提供も行われている。そちらではコメントが受け付けられており、そこで得られた意見。引用の是非について明記されたものがないので、こちらで概要のみをまとめてみる(【元ページ】)。
・設問によっては対面調査だと恥ずかしくて回答できない、自分の意見をいえない場合もある。
・無回答の意見が無視される場合が多い。
・ネット調査の否定派は「高齢者はパソコン・携帯電話を所有していないから結果が片寄る」と主張するが、既存メディアの世論調査もほとんどは固定電話世帯に限定される。若年層は逆に固定電話を持っていない場合が多いので、やっぱり片寄りが生じるのでは。併用するのが良いかもしれない。
・RDD方式※だと「固定電話保有」「知らない番号からかかってきても回答できる」層しか対象にならない。該当調査も時間に余裕がある人や問い合わせに断りをしにくい人のみが。
※RDD方式:Random Digit Dialing。乱数で発生させた電話番号にかけて回答を求める方法。上記で指摘されているように「固定電話保有者」かつ「見知らぬ人からの電話に回答しうる(時間に余裕がある人など)」に限定される、回答者が世帯主の場合が圧倒的に多いなどの問題が指摘されている。特に昨今では固定電話の普及率は若年層・一人暮らし世帯において低下しており、これらの層の意見がくみ取れない可能性が指摘されている(ちなみにこれらの層は、同時にインターネットや携帯電話の普及率が高い層としても知られている)
ここでは主に、いわゆる世論調査の手法そのものに対する疑問が提議されている。対面調査の場合は回答しにくい設問があることは以前からのことだが、電話調査の場合は昨今の電話事情が現状からのかい離を生み出しやすいのでは、という疑問も注目すべき意見である。
特に、RDD方式の解説を調べている際に気がついたのだが、「固定電話保有層=電話調査の回答層」と「携帯電話のみの保有層(あるいは使用層)」は、相反する傾向が強く、さらに後者はインターネットや携帯電話に精通している場合が多い。インターネット上の調査と、電話調査の結果に大きな差異が生じることが多いのも、このあたりを考えれば納得がいく(さらに回答者の年齢階層などが明記されていない電話調査結果の場合は、「昼間に固定電話で問い合わせをした場合、どのような階層が回答しやすいのか」も考える必要がある。携帯電話をメインに使う若年層が、昼間から固定電話のコール(しかも自分が知らない番号からのもの)に受話器を取るだろうか?)。
●自動ニュース作成Gの場合
最後にこちらもソーシャルブックマークっぽいサービス、自動ニュース作成Gより。こちらは直接当サイトの記事ではなく、ライブドアニュースに転送されたものが引用されている(【元記事はこちら】)。
・インターネット調査は登録者による、投票意思を持った人による投票が多いから無作為標本抽出とはいえず、世論調査、統計学的な調査とは言い難い。
「電話調査の場合は回答層に片寄りがあるが、インターネット調査のほとんどは『回答者が意図的に返答する』時点で厳密な世論調査とは言い難い」という意見は興味深い。「積極的肯定派・積極的否定派」の割合が、「世論全体の肯定派・否定派」の割合と同じなら、インターネット調査の結果は世論そのものに近い値を示すのだろうが、必ずしもすべての設問でそうであるとは限らない。
大体このような形となったが、まとめてみると
・(固定)電話調査は回答者が限定される場合が多い。特定層の意見が反映されやすくなる。
・設問の前提や背景が明確化されていないと、回答が誘導されている可能性がある。
・固定電話の普及率や利用率、電話の応対姿勢など、現状を考えれば固定電話による調査調査は必ずしも「世論調査」とは言い切れない。
・インターネット調査は(現在の手法では)積極的回答希望者によるアンケートであり、統計学的な調査結果とは言い難い面もある。
世論誘導の一例は【「『報道しないこと』これがマスコミ最強の力だよ」-あるマンガに見る、情報統制と世論誘導】でも例示した通りだが、やりようでいくらでも、どうにでもなることは否定できない。また、固定電話の普及率については【20代 「固定電話は持っていない、ケータイオンリー」 3割に達する】にもあるように(もちろんこれもインターネット調査というバイアスがかかってはいるが)若年層になるほど低い傾向が見られる。これもまた、「調査結果のギャップ感」を増幅させる一因となっているのだろう。
インターネット調査については「統計学的なサンプル抽出ではない」という懸念の他、「インターネットや携帯電話の普及率は若年層の方が高く、逆ジェネレーションギャップを生むのでは」という問題もある。しかしこれは【2007年末のインターネット普及率は69.0%・8811万人】にもあるように、徐々にではあるがそのギャップは埋まりつつある。携帯電話ですら【高齢者もケータイでネット世界にダイブする】にもあるが、確実に、しかもインターネット以上の加速度で高齢者への普及を見せている。
携帯電話やインターネットの調査における「積極的回答希望者によるアンケートであり、統計学的な調査結果とは言い難い」という面をクリアする手法が発案され普及すれば、将来的には有効な世論調査の手段足りえる時代がくるのではないか、そんな気がしてならない。
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