テレビ番組に対する視聴者からの「意見」の数(2009年4月22日更新版)

2009/04/22 19:50

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視聴者からBPO、あるいはBPOから放送局への意見イメージ以前【テレビ番組に対する視聴者からの「意見」の数】で、読者からのご意見「テレビメディアを自己監視するBPOという団体が毎月出しているデータが興味深い」を元に、BPOに寄せられている意見をグラフ化し、テレビ報道にどのような反応が寄せられているのかを、色々な形で眺めてみた。それからしばらくの間、定期的(具体的には一か月ごと)にデータの更新を見守っていたのだが、4月22日までに更新された最新のデータ、すなわち2009年3月分において、少々特異な傾向が見受けられたので、今回は「更新版」として改めて紹介する。



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BPOって何?
まずは簡単な状況・用語説明。【BPO】とはBroadcasting Ethics & Program Improvement Organizationの略で、日本語で「放送倫理・番組向上機構」と呼ぶ団体のこと。NHKと民放連、民放連加盟会員各社によって出資・組織された任意団体で、理事会・評議員会・事務局と3つの委員会から構成されている。「(テレビ)放送の表現の自由を守りつつ視聴者の基本的人権を傷つけることがないよう、NHKと民間放送がつくった第三者機関です。3つの委員会が、独立して放送倫理や人権の問題を検証し、放送局への勧告や見解を公表します」。現在の構成になったのは2003年7月。

ただし「放送局とは、協力関係を原則としています。従って、放送局に対しての、命令、指示など放送局に強制力をもって義務を課す権限はありません」との説明にもあるように、BPOには助言以上の効力・権限は無い。「善処してね」と対応をうながし、「よりよい放送に結び付けていくことを期待しています」と主張するのみ。指導に従ってくれれば良いのだが、放送局側が無視を決め込んでも、何も対処することはできない。官公庁の「指導」のように「言うこと聞かないと許認可取り消すぞ」という無言の圧力・駆け引きも無い。

意見数をグラフ化する
BPOでは毎月1回、【視聴者から寄せられた意見】の概算統計値と具体的意見の一部を公開している。過去データは2006年4月分まで用意してあるが、公開の様式が途中で何度か変更されており、連続性を維持した統計データを生成することは難しい。そこで以前の記事にもあるように、こちらで整理してまとめあげ、データを構築(2007年中盤以降は元データ時点で整然と区分されている)。今回発表された2009年3月分までのデータを反映させたグラフを作成しなおした。この過程で、2007年中盤以前においてはグラフが一部断続的であったり、妙な形をしている場合もあるが、ご容赦願いたい。

項目は最新のデータでは大きく分けると「人権等に関する意見」「放送と青少年に関する意見」「放送番組全般にわたる意見」「BPOに関する意見・問い合わせ」「その他(放送関連以外)」の5項目。そのうち特にテレビ番組内容に深い係わり合いがある「放送番組全般にわたる意見」に絞ってデータをグラフ化した。

まずは該当項目全体のグラフ。

BPOに寄せられた「番組全般にわたる意見」
BPOに寄せられた「番組全般にわたる意見」

データ公開期間に限れば、2007年1月の「あるある大辞典」における納豆報道問題で「テレビ放送って?」という疑問が視聴者の間に持ちあがって以降、BPOへの意見が増えていることが分かる。また、テレビ番組で「報道」の意義・意味を問題視されるような問題が発生するたびに、「意見」、特に「情報ワイドバラエティーにおける不適切な内容や不適格な出演者への意見」が急増している様子が把握できる。さらに2009年3月に限ればそれと共に「報道・情報番組における取材・報道のあり方・批判」の項目が急増しているのも確認できる。

このグラフを「情報ワイド・バラエティー」と「報道・情報番組」それぞれに分けて、傾向を見たのが次の2つのグラフ。増減傾向を分かりやすくするため、Excelの近似線機能を用いて多項式近似線(最大値の6項)を点線で引いてみた。

BPOに寄せられた「番組全般にわたる意見」(情報ワイド・バラエティー番組のみ抽出)
BPOに寄せられた「番組全般にわたる意見」(情報ワイド・バラエティー番組のみ抽出)

BPOに寄せられた「番組全般にわたる意見」(報道・情報番組のみ抽出)
BPOに寄せられた「番組全般にわたる意見」(報道・情報番組のみ抽出)

他の項目をはるかに超える形で、「情報ワイド・バラエティー番組」では「不適切な内容、不適格な出演者」が、「報道・情報番組」では「取材・報道のあり方・批判」が増加しているのが把握できる。これは以前のグラフ作成時と傾向としては変わり無い。また、「情報ワイド・バラエティー番組」では直近1年の間に、「低俗・下品な番組」への「意見」が増えている傾向も確認できる。

さらに繰り返し、というよりより顕著な形で、「情報ワイドバラエティーにおける不適切な内容や不適格な出演者への意見」「報道・情報番組における取材・報道のあり方・批判」の2項目において、意見が急増しているのか把握できる。両者とも値がこれまでのデータと比べて急進したため、同じようなスペースに収めるために、グラフの縦軸が前回のそれと比べて圧縮されているのが分かるだろうか。

不公平・不公正・偏向……BPOへの期待の声も
上記グラフはあくまでも総計としての統計的な数字・グラフでしかない。その一方、各月の具体的な「意見」のページを見ると、実に詳細に、そして具体的に、寄せられた「意見」が指摘している問題点をBPOが把握・確認しているかが分かる。

2009年3月のデータは特異なものとなっているが、リリースでも大きな傾向として次のようなまとめを記載している。

・アクセス方法としてメールによる意見投稿が非常に増えた。
・ニュースや報道番組、情報系番組での政治報道についての意見が多かった。
・具体的には「小沢献金疑惑」報道に関する意見、WBC決勝に向けての応援FAX報道に関する意見、総理の講演会報道に関する意見、番組キャスターによる中川前大臣批判報道に対する意見などが特に意見として多かった。
・とりわけ与野党の報道について「公平・公正」でない、「偏向している」という意見が多数。
・不法滞在のフィリピン人家族報道についての意見や、スポーツではWBCの報道についての意見があった。
・一方で通常時には多く寄せられるバラエティー番組への意見は少なく、お笑い番組やドラマへの意見も少なかった。

当サイトでも【「麻生首相が証券会社や株式投資を見下した」と報じられた有識者会議を検証してみる】【「麻生首相がドイツを名指しで批判した」と報じられた記事などを検証してみる】などで「ちょっとこの報道おかしいよね?」との思いから検証を施したことがあったが、世間一般では桁違いに「おかしいよね?」というテレビ報道がなされ、それに意見する人たちの声がBPOに寄せられたようだ。

元リリースでは具体的な意見の一部も掲載されているが、最後にBPO自身への意見もあり、「BPOが特別調査チームを作って審理すると報じられている。期待している」「昨今は偏向報道が多いようですが、放送法に罰則規定がないために各局がやりたい放題の放送をしているように思えます。BPOも大変だと思いますが、断固とした対応をとっていただきたいと思います」「放送局の立場からではなく、もっと視聴者の立場に立って「失墜したメディアの信頼をどうしたら回復出来るか」について真剣に考えようとする組織を我々は望んでいる」など、BPOへ期待を寄せる声が複数確認できる。これは逆にいえば、期待に沿う行動がなされない場合は「絶望した!」の意見に変わりうることも意味する。



前回の記事でも指摘したように、BPOが寄せられた意見を元に各放送局に「自覚を促す」ための「助言」をしたとしても、その「助言」に強制力は無く、従うか否かは放送局側の善意に任されている。しかるに、データが残っている2006年4月以降、BPOに寄せられる意見は減るどころか増えるばかりで、同じような意見が蓄積される傾向すら見受けられる。これでは「自主規制機関」としての機能が働いていない(要するに形骸化、言い換えれば張子の虎)、と見られても否定のしようがない。

討論とテレビ、そして「テレビ離れ」イメージとりわけ2009年3月に意見が増加した主要因「情報ワイドバラエティーにおける不適切な内容や不適格な出演者への意見」「報道・情報番組における取材・報道のあり方・批判」において、BPOへ寄せられた意見がBPO自身にではなく、テレビ放送局各社に対する意見であることを各放送局はしっかりと認識する必要がある。

それが出来なれば、そして状態の改善を図る意図がなければ、3月分データで起きた傾向は今後も継続し、BPOの存在意義そのものが疑われ、次なる動き(BPOにとって代わる、放送倫理に関わる指導機関創設の動き)が生じる可能性も出てくる。また、「注意をされるうちが華」の言葉にもあるように、「華」を失ったテレビとの距離感を置く人が増える、いわゆる「テレビ離れ」が加速することも考えられよう。




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