蚊取り線香入れが豚の形をしているのはなぜだろう
2009/04/14 04:50
先に【貯金箱が豚の形をしているのはなぜだろう】で「貯金箱で豚の形をしたものをよく見かける理由」について調べたが、その記事の掲載後にいくつか意見やリクエストをいただいた。その中でもっとも多かったのが「豚つながりで、今度は蚊取り線香の入れ物がどうして豚の形をしているのか調べて欲しい」というもの。せっかくだから調べてみることにした。
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……とはいうものの、「蚊取り線香の入れ物が豚」といわれてもピンとこない人も多いだろう。最近は電気マットや液体装てん式(いわゆる「ノーマット」)がほとんどで、蚊取り線香を使うのは少数派。
『アースノーマット・蚊とり黒ブタ』。電池式とコンセント式があるが、コンパクトなコンセント式を選択。
電気マット式は乾パンのような長方形の蚊取りマット、ノーマット式はボトルなどに入っている溶剤を用いる。いずれにしても必然性はまったくないのだが、なぜか豚の形をしているものを良く見かける。これらしか知らない人は「なんで豚なんだ?」と思うはず。
実はこれ、昔のタイプの蚊取り線香(いわゆる渦巻き型)を入れる専用の容器(『蚊取り豚』と呼ばれる)の形を模しているというのが理由。蚊取り成分に豚肉が使われているとか、太古は豚が蚊を獲る家畜として用いられていたから、というわけではない。
蚊取り豚
具体的には右のイラストにあるように、豚の形を模して作られた
ちなみにこの蚊取り豚、前方から見ると豚の顔をしているが、後ろはスパッと胴体を切られたような形になっている(上記写真右側)。この方が蚊取り線香を出し入れしやすいという機能上の問題もあるが、後に説明する由来にもこの形状は関わってくる。
●「蚊取り豚」はなぜ「豚」なのか
それでは陶器の「蚊取り豚」は、なぜ「豚」の形をしているのか。蚊取り線香関連ではメジャーなアース製薬とKINCHO(大日本除虫菊)の両公式サイトを探したが関連する事項は見つからず。仕方ないので【由来を検索して】調べたところ、先の「豚の貯金箱」同様にいくつかの説に分かれているようだ。大勢としては
愛知の常滑が発祥。養豚業者が豚に止まる蚊に困り、最初は土管(円筒形の筒)の中に蚊取り線香を入れて使っていた。しかし土管は口が広すぎるので、煙が拡散するため少しずつ口を縮めていくうちに形が豚に似てしまい、「せっかくだから」とばかりに豚の形にして常滑焼のお土産にした。それが大ヒットして広まった。時期としては昭和20年-30年頃。
なお常滑市周辺(四日市市など)では「蚊取り豚発祥の地」という伝統からか、KINCHOが特別協力をする形で毎年【アートな蚊取り豚展】を開催している。
2.江戸時代末期発祥説
東京新宿区内の武家屋敷跡から江戸時代末期の「蚊取り豚」が出土。大きさは長さ35センチ・直径23センチと大きめ。蚊取り線香そのもの発明は明治に入ってから(1886年)なので、杉の葉などをいぶして蚊を追い払っていた。「蚊取り線香」を用いたわけではないが、「蚊取り豚」には違いない。
形としては豚の顔についている鼻の穴の部分が、現在のものと比べてずいぶんと細くなっており(おちょぼ口、ビンの口のような感じ)、サイズは違うが徳利(とっくり)を横にしたようなもの。元々一升瓶、あるいは徳利の底をぶち抜いていぶし用に使っていたら、形が豚に似ていたのでいっそのこと……という話。今の「蚊取り豚」の後ろ部分が「スパッと胴体を切られたような形」になっているのは、「元々徳利の底の部分を外したから」という説が正しければ、これは納得の行く話。
の2つ。また「2.江戸時代末期発祥説」は「その時代にあった」ことが実証されているだけで、さらなる詳しい由来は分からない。
他に、おおもとは豚では無くてイノシシの形をしていて、そのイノシシが「火伏せの神」として信仰の対象になっていたからだという話や、豚は水神の使いといわれているからだという話もある。要は「豚の貯金箱」以上に由来が確かではなく、諸説入り乱れており、さらに発祥そのものが確定できていないというわけだ。
ただ、「豚の貯金箱」にしても「蚊取り豚」(そうそう、昔は「蚊遣り豚(かやりぶた)」と呼んでいたそうな)にしても、民俗学的な要素が大きく、半ば自然発生の形で登場し、いつの間にか広まった感がある。昨今の事例で例えれば、いわゆる「ネットスラング」と呼ばれる言葉(【「ぐぐる」「DQN」 あなたはいくつ知っている? ネットスラング 傾向を探る】)が、広まっていることは事実だが、それらがいつどこで、誰の手によって生み出されたのか、ほとんどが分からないのと同じようなもの、といえる。
結局「豚の貯金箱」同様、やや曖昧な形で決着をつけざるを得なくなったが、ともあれ「豚の蚊取り線香がなぜ豚の形をしているのか」については大体把握できたはず。
冒頭で触れているように、いまや陶器製の「蚊取り豚」すら過去の遺物に近いものとなり、知らない人が増えている昨今。日本の情緒あふれる「蚊取り豚」を再評価しても良いかもしれない。
■参考ページ(外部):
【江戸時代からこの形?──蚊遣りブタの謎(日本計量新報社)】
【ブーちゃん相談室(九州朝日放送)】
【豚蚊遣り捜査本部】
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