【更新】「麻生首相が証券会社や株式投資を見下した」と報じられた有識者会議を検証してみる

2009/03/22 11:05

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有識者会議イメージ2009年3月21日に麻生太郎内閣総理大臣が総理大臣官邸で開催した、経済危機克服のための有識者会合(第5日目)(経済界(製造業・サービス業金融)」において、証券会社や株式投資そのものを見下した発言をしたという話が相次いで報じられた。いわく[「株屋は信用されてない」「何となく怪しげよ」首相が失言?(読売新聞)]、[麻生首相:また…「株屋ってのは信用されない。何となく怪しげよ」(毎日新聞)]とのことで、「不適切との指摘も出ている」との言及もある。幸いにも今回の有識者会議は全行程が動画で即日配信されていることもあり、該当部分を検証してみることにした。



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有識者会議の【概要ページはこちら】【動画を配信しているページはこちらになる】。問題視されている部分は、会議後半の、自由討議・意見交換の場において。時間にすると、46分過ぎあたりからだ。残念ながらまだ議事録は掲載されていないため、当方が自ら動画再生を重ねて該当部分の議事録を作成してみたが、確実性を保証するものではないことをあらかじめお断りしておく。動画そのものが公開されているので、気になる人は再確認してほしい※。

司会:後半の意見交換に入りたいと思います。総理のほうから……

麻生太郎首相(首相):これは……安東さんだったっけかな、言われていたんだけど、株式の安定って言われたんだけど、東証というところの株式市場の閉鎖性というのは、参加している人はどうして言わないんですかね。いいにくい? いじめられるから?

日本証券業協会安東俊夫会長イメージ日本証券業協会安東俊夫会長(日証協):いやいや、そんなことは決してないと思いますけど。

首相:だって極端でしょ、日本の場合。だってニューヨークやなにやらで何百社、日本で二十社くらい? 異常と思いません?

日証協:東証の閉鎖性といいましても、市場は実際にはですね、あの非常にグローバル、まぁ外国人投資家が減ったとはいえいまだ売買シェアは半分以上が外人が占めている、という現状でございますし。そういう意味での東証の閉鎖性というのはですね、どういう観点から出てくるものか、よく理解できませんけど。

首相:資料がすべて日本語であるとか。ゴールドマン・サックスさん、いかがですか。

ゴールドマン・サックス証券足助明郎会長イメージゴールドマン・サックス証券足助明郎会長(GS):資料がすべて日本語であるというのが一番大きなネックであったんですが。というのは、毎年東証にドキュメントをファイルしなければいけない、これが日本語だったんですが、最近は結構英語でもですね、あの、金融庁さん含めて受け入れてもらえるようになっていますので、相当そこは改善はしております。
 で、会計制度はですね、日本の場合は日本の会計制度、これもそのうち国際会計基準に移行するものと理解しておりますが、やはりこういうものを同じような制度にしておかないと、上場する側はですね、二重、三重の手間がかかりますから、「それじゃ(上場を)辞めようか」というようになりまして。一時(上場している外国企業は)もっとあったんですけど、どうも今は減る一方、でございます。
 で、これと、外国人が日本の株式市場に参加している、売買に参加するというのは別問題だと思いますね。

松井証券株式会社代表取締役社長(松井):特に個人の金を市場に導入してですね、それがメインプレーヤーになるというのが、一番基本的な話で。どこの(国の)市場でもそういったことをベースにして、市場が成り立っているにも関わらず、日本だけが先進諸国の中で、外人プレイヤーがメーンプレイヤーである市場になっている。そこになんか、メスを入れないといけないと、そういう認識は市場関係者は皆思ってますけど。これは先ほど申しましたように、色んな税制等々で株式が悪だという、そういう雰囲気を払拭する対応を具体的に出さないとなかなか直っていかない。

首相:あー、松井さん、まったく賛成よ、まったく賛成だけど、やっぱり株式会社、株屋ってのは信用されてないんですよ。自分たちの身をひるがえって、ぼくはそうだと思うなあ。やっぱり株をやってるっていったら、田舎じゃ何となく怪しいよ。「あの人は貯金してる、でもあの人株やってんだってさ」っていったら、何となく今でも、なんとなーくまゆにつば付けて見られるところがあるでしょうが。松井さんがどこで生まれたのか知らないけど、おれたちの田舎では間違いなくそうよ。そこんところを何となく、もう経企庁長官のときから「貯蓄から投資へ」って話は、当時から、もう10年以上前から言ってんだけど、なんとなーく「株ですか……」って、みんな声がね。今は株屋さんを通さなくて直接やるようにし始めてるでしょ。

松井証券株式会社代表取締役社長イメージ松井:むしろその、株屋というか、証券会社は売買ということでなりたっていますけれどもね、でもむしろそれはそれとしてですね、むしろ大事なのは長期投資というかですね、例えば配当を目的にした、その、株保有というか、そういったものが、投資と投機という議論はありますけとれどもね、基本はやっぱりそういったもので企業の利益を配当という形で個人に反映して、それが消費等々になっていく、これが多分一番健全な姿と思うし、原資はあるわけですよね、膨大な原資が。だからこれをどういうふうにこういった方向に持っていくのかという対策、対応というのが一番大事なんじゃないですか。

首相:今、東証平均で配当率っていくらくらい?

松井:配当性向が大体30-40%、配当率は2.8%くらい。だからそういった意味では金利は……

首相:国債は1.3-1.5%くらい? アメリカの国債は2.8%か。そんなもんなんだな。もうちょっとあるといいんだけどな。

松井:だから十分、配当に関しては、リスクはありますけれども。売ってリスクが生じるのであって、長期保有だったら、上下はしますけれども、安定してますから。

※()内は当方の注釈
※敬称略

新聞サイトの報道などで伝えられている部分も、前後を合わせて読み通す(あるいは動画で直接見る)と、問題とされている首相の言動は、松井氏の発言に同意をした上で現状を認識し、反復し、自分の身の回りの実状を述べているのに過ぎないことが分かる(つまり、指摘されているような問題点は見受けられない)。また、それが認識できる「自分たちの身をひるがえって」という部分の発言が、一部報道の映像ではざっくりと削除されて、誤認されかない形で伝えられているのも確認できる([TBS])。要は「首相が証券会社や株式投資を見下した」わけでもなければ「失言!?」したわけでもない。そう認識しているのは報じた側だけの話。むしろ議事を読めば(観れば)分かるように、現状認識などの点において、出席者が皆有意義で興味深い討論を交わしていることが分かる。

さらに、この会議が「現状の問題点を洗い出し、改善点を模索するべく執り行われた会議」であることを考えると、現状認識が出来ないこそが問題であるような気がするのだが、どうだろうか。仮にまったく逆の発言が行われれば「株や投資に対する世間一般への認識が甘い」となじられるのがオチだろう。

今回の検証は、会議開催側が素早く「生の情報」を配信したからこそ可能となった。一次ソースの重要性・必要性があらためて認識できる一件ともいえよう。今件に関する報道姿勢についての所見は、下記の関連記事に目を通していただければ幸いだ。

……あえてまとめるとすれば、意図的ならば悲しい話であるし、本筋を見極めて概略を伝える能力に欠けているのなら、それはそれで(報道としての)存在意義を疑わざるを得ない、というところだろうか。さらに加えるとするなら、なぜ大手報道会社が一斉に同じ「認識ミス」を「同じ部分」で行い、「同じように」「同じタイミングで」報じたのかも、考えてみる必要があるのかもしれない。

※一部曲解される方がいましたので説明を追加しました。

■関連記事:
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