文字に「魂」を吹き込む技術「キネティック タイポグラフィ」(Kinetic Typography)

2009/03/21 17:20

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「キネティック タイポグラフィ」な「プレパレード」イメージ先に【羊とLEDで色んな形を作ってみた】で「先日ニュースチェックをしている際に「これはスゴい!」と思ったものの”一つ”」として、「羊にLEDを貼り付けてそれを誘導した画像を使って色々なものを作り出す」映像を紹介した。今回はこれとほぼ前後して、「表現として『これはスゴい!』と思った」もののうちの、他の一つを紹介することにする。それは「キネティック タイポグラフィ(Kinetic Typography)」と呼ばれる手法による動画だ。



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「タイポグラフィ」と「キネティック タイポグラフィ」
まずは直接のきっかけとなった動画を。先日原作の小説の方では最終巻が発売された『とらドラ!』のアニメ版における、古いほうのオープニング(「プレパレード」)を素材に使った「キネティック タイポグラフィ」の手法で作り上げられた動画だ)。


「キネティック タイポグラフィ」の手法を用いた「プレパレード」
「キネティック タイポグラフィ」の手法を用いた「プレパレード」

A_prompt.イメージ元々「タイポグラフィ」とは、文字列に色々な工夫をして、相手に分かりやすく表現する手段のことを意味する。例えば太文字にしたり拡大縮小したり斜め文字にしたり色を塗ってみたりなどが良い例だ。書体を変えることもこれには含まれる。かつて一世を風靡したテキストサイトのブーム時期には、数多くのテキストサイトが黒地に色々な色・大きさ・字体の文字を使い分け、書き手の感情をも巧みに表現していた(クソゲーハンターABC氏こと阿部広樹氏のサイトA_prompt.などで有名)。

例えば「おはようございます」という朝の挨拶も、「おはようございます」とすれば元気一杯に見えるし、「おはようございます」(※灰色で表示)とすると元気がなさげに読める。「おはようございます」(※赤色・斜めで表示)なら女性っぽい発言にも受け止められる。

「キネティック タイポグラフィ」は
動きで文字列に、「言葉の意味」を超えた
「魂」を吹き込む演出方法
これに動き、さらには空間的・時間軸的な概念をも加えたのが「キネティック タイポグラフィ」。既存の「タイポグラフィ」が2次元的・静止画的なものだったのに対し、「キネティック タイポグラフィ」では3次元的・動画的な手法を用いる・用いられることで、表現力は爆発的に拡大する。映し出される「モノ」自身は文字列に変わりはないが、さまざまな演出方法を加味することで、送り手の感情、口調、意図するものという情報をも伝達しようとする手法と定義できる。

文字列上では具体的な例を表現できないが、例えば上の例なら「大きなゴジック体の『おはようございます』がスピーディーに流れる」ようなものであれば、元気ハツラツな男性の挨拶に見えてくる。「細い線で震えながら、ゆっくりと、しかも軸がぶれるかのように『おはようございます』が流れる」表現を使えば、うつむき加減で自信なさげな、影の薄い出勤前のサラリーマンの挨拶に見えてくる。

つまり「キネティック タイポグラフィ」とは、文字に動きをはじめとした色々な表現(視覚の表現や時間の流れをビジュアル化する、口調や動作、感情を描く、さらにはリズムなども盛り込む)をつけることで、本来「文字列の内容」そのものしか表現し得ないはずの文字列に、さらなるイメージを付加させる手法といえる。

「キネティック タイポグラフィ」の歴史と今と
「キネティック タイポグラフィ」の手法を使うには、動画上で文字を出す仕組みがあれば良い。原型となるものは1899年の「Type in Motion」という作品で見られたそうだが、本格的に登場したのは1959年の映画『北北西に進路を取れ』(のオープニング部分)だといわれている(あるいは1960年の『Psycho』のオープニングという説もある)。


North by Northwest(「北北西に進路を取れ」オープニング部分)

現在ではコンピュータグラフィックの登場と技術の進化、映像技術そのものの発展のおかげで、テレビ広告やテレビ番組中の字幕をはじめ、日常茶飯事的に使われている(『ルパン三世』のテレビアニメでタイトルクレジットに、タイプライターで打ち込んだような音と共に文字が映し出されるのも好例の一つ)。また、上記の「とらドラ!」の動画をさる掲示板で紹介した時に指摘され、気がついたのだが、『パワーポイント』などのプレゼンテーション用資料の作成ツールでも単なる「タイポグラフィ」だけでなく「キネティック タイポグラフィ」の手法を用いることが出来る。

さらに、【動画共有サイトYouTubeで「KineticTypography」をキーワードにして検索すれば】、実に多種多様な作品を確認することができる。


アメリカの特番ニュース番組「Court TV RED」の番組の音声をそのまま「キネティック タイポグラフィ」の手法で表現したもの。画像が無くとも文字列の動きなどで、緊張感が伝わってくる(あるいはこれがそのままプローモーション用の動画なのかもしれない。効果としては十分過ぎるほどだ)。
アメリカの特番ニュース番組「Court TV RED」の番組の音声をそのまま「キネティック タイポグラフィ」の手法で表現したもの。画像が無くとも文字列の動きなどで、緊張感が伝わってくる(あるいはこれがそのままプローモーション用の動画なのかもしれない。効果としては十分過ぎるほどだ)。

人の心を動かす「キネティック タイポグラフィ」、センスと技術と才能と
最初に紹介した「とらドラ!」のオープニングをはじめ、「キネティック タイポグラフィ」の作品でため息が出るほど感心したのは、上記で説明したように、単なる歌詞やセリフの文字列の「言葉の意味そのもの」だけでなく、場面や言葉の雰囲気をうまく表現していたから。文字の種類が1種類しかない英語(大文字・小文字の違いはあるが)と違い、日本語にはひらがな・カタカナ・漢字が混在しており、文字の「密度」や音声と文字「数」とのタイミング調整の難しさ。

例えば「緊張感」なら漢字3文字だが、音声にすると「きんちょうかん」と7文字分になる。3文字分の表示で7文字分の時間を費やさねばならない。「セリフ」なら文字数も3文字、音声でも「せりふ」で3文字。同じ3文字分の表示でも2倍以上のタイミングの違いが生じる。また、見た目も「緊張感」と「セリフ」では、同じ面積上に埋まる色の具合(要は密度)は大きく異なる。

それらの難関をクリアしてこそ、「キネティック タイポグラフィ」で出来たものは「単に文字列に動きを加えただけの作品」から、「それ単独で新たな価値・表現力を加味した新しい作品」に昇華する、というわけだ。



……と偉そうなことを語ってはいるが、当方(不破)自身はまったくこの方面のセンスがないので、とてもではないがほんの欠片も作れそうにない(サンプルをパワーポイントで作ろうとして3分で挫折した。文字の演出に関する発想そのものが頭に浮かんでこないのだ)。人には得手不得手がありまして、というわけだ(笑)。

一方、本文中でも「テレビ広告やテレビ番組中の字幕をはじめ、日常茶飯事的に使われている」と表現したように、最近は(文字スーパーが濫用されていることもあり)「キネティック タイポグラフィ」の手法もテレビ番組のあちこちで見受けられるようだが、その多くが「単に止まっているよりは動かしていた方が目立つだろう」という程度の位置づけしかしていないように思われる。使い方次第でいくらでも「魅せる」ものを作れることができるだろうに、もったいない話。

あるいはそこまで気がついていないのか、気がついていてもこなすだけの技術を持つスタッフに欠けているのかもしれない。もしそうだとしたら、不幸なことなのかもしれない。


さらに余談。最初にとりあげた「とらドラ!」のアニメ版では、各話のアイキャッチにおけるマークが、主要登場人物の「その話における」関係図を表すともいわれている。色々な意味で「分かっている」スタッフが手がけたものといえよう。



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