昔金属今……!? アメリカの盗難事情
2009/03/19 11:55
つい一、二年前までは鉄や銅をはじめとする素材価格の高騰で、日米を問わずマンホールやガードレールなどの金属製の公共物が盗難にあう事態が相次いだ(【目の付け所は日米共通?! アメリカでマンホールのふた盗難事件相次ぐ】【4か月で20分の1に! 鉄スクラップの価格をグラフ化してみる】)。しかし今や商品先物市場の暴落で金属価格は急落、盗難対象としての魅力は薄れていく。そして景気も加速度的に悪化する中、今度は「電気」の盗難件数が急激に増えているというアメリカ事情が【USA TODAY】にて紹介されていた。
スポンサードリンク
電力を供給する電力会社において、「景気悪化と共に盗電(電気泥棒、不当な電力使用)が増加しつつある」と現状を認識している。具体的には、電気料金の支払いが遅れたり支払いができなくなり、電力の供給を止められた事務所や住宅が「盗電」をする事態が増えているとのこと。
電気メーターを迂回して直接電気が自宅に通るように回線をいじったり、メーターに細工をしたり(電気料金の使用量の細工も含む)、すりかえたりなど、彼らのやり口は多種多様。「世の中の景気が悪化してくると、盗電も増えてくるんだよな」とため息混じりに語るのはフロリダ州の、ある電力会社の調査員John Hammerberg氏。また、氏とは別の電力会社American Electric Powerでは、今年1月と2月だけで3196件もの盗電を確認。これは前年同月比で27%もの増加を示している。
ペンシルバニア州最大の都市フィラデルフィアでは、電力会社PECOの担当する世帯において、2008年前期で1万4000世帯が電気を(電気料金滞納などが理由で)止められた。しかしそのうち30%が同年後期で「盗電」をして電気を使い続けていたという。このような盗電は、事態が発覚しない世帯では数十年にもわたって行われ、その被害総額は電力業界全体の利益1-3%、額にして約60億ドル(5800億円)に及ぶ。そしてそれらは他の善良な電気利用者の負担となる。
そのフィラデルフィアでは他の電力会社PPLでも盗電被害が去年は16%増加。そのきっかけとなる「電気料不払いによる電力供給停止」の世帯数が、昨年はこれまでの2倍に値する4%に達している。
元記事ではこれらの状況に対し「盗電そのものが違法行為で、善良な利用者の負担を増やすことだけでも糾弾される事態。さらに素人が電力線に触れて工作することで、感電やショートなどのトラブルを起こし、最悪な時には死亡事故さえ招きかねない」と警告している。実際、上記フィラデルフィアでは盗電のために行った、不法な回線工事が元で火災が発生、親子が焼死する事件も起きている。
電力会社でも対応に追われている。上記John Hammerberg氏のような調査員に「より仕事に励んでもら」ったり、電力メーターの新規開発などを手がけている。電力メーター上の異常な動きを電力会社側で統括して確認できるようにし、異常値(例えば近隣世帯と比べて異様に利用状態が小さいなど)を示した場合には、すぐに調査員を派遣して調べられる体制を整えつつあるとのこと。
電気製品で満ちあふれた現代社会においては、電気を止められることはまともな生活が出来なくなることに等しい。言葉通り「ライフライン」なわけで、止められた側にしてみれば、死活問題。「こんな事態が起きているなんて……ショックだ」という意見がもっとも多いが、「盗電やむなし」という意見も元記事のコメントには見受けられる。とはいえ、犯罪行為であると共に非常に危険でもあり、また「正直者がバカを見る」状態であるのも事実。
電力会社の取立て・調査を強化すれば盗電率は下がるだろうが、盗電を生み出す環境が改善されてない以上、いたちごっこになるのは明らか。そして電力会社側のコストも増加する。根本的な解決策は、「盗電をしなくても済む」ような世の中を作る、具体的には経済状態の回復か電力料金が下がる仕組みの構築(エネルギー問題の解決)しかないのだろうか。
スポンサードリンク