破たんリスク30%超えも!? 日本企業のCDS値をチェックし直してみる

2009/03/05 08:00

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CDSをチェックイメージ先に【最近よく聞くキーワード「CDS」とは?】【日本企業のCDS値を見ながらCDSについて考えてみる】、そして【「ソフトバンクが1年以内に破たんする確率10.2%!?」CDSと企業の破たん確率について考え直してみる】で、(Credit default swap、クレジット・デフォルト・スワップ)について色々な視点から検証を加えてみた。その時は「有益な値ではあるし、使い方次第では役立つ仕組みなのだが、過剰な期待と半ば『悪用』で弊害も生じつつある」という論点で話をまとめた。昨年秋の「リーマン・ブラザーズショック」前後には大いに騒がれたこのCDSも、その後話題から外れつつあったのだが、最近になってまた注目を集めるようになってきた。その原因と、CDSを見る際の注意事項を、現状に即した形であらためてここでまとめなおして見ることにする。サイトドメインも変わったことだし。



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CDSは「企業の破たんリスク」そのものを売り買いする金融派生商品
詳しくは上記の参照記事を読んで欲しいが、CDSは「企業が破たんするか否か」で賭けをする(あるいはリスクをヘッジする)金融派生商品。対象企業が無関係の第三者的企業なら「ギャンブル」そのものだし、ある程度自社と関係があるところなら、その企業の破たんリスクを軽減するための「保険」になりうる。在庫そのものが無いので、CDSの売り手側は制限無くいくらでも売り込めるから、企業が傾く心配のない好景気には、結構美味しい商品となる。

CDSの仕組み(再録)
CDSの仕組み(再録)

しかし景気後退や他の金融派生商品の破たんで企業が倒れ、CDSの条件が満たされ実際に支払いが生じると、売り手側はその巨額に腰を抜かすことになる。かくして「企業破たんのリスク軽減のために売りに出されたはずの商品で、売り出した企業そのものが破たんしかねない」というおかしな症状が起き、それがさらに連鎖を生むことになる。

CDSの数字の意味を再確認する
日本の企業におけるCDS値はJ-CDSの公開データによるところが有名(現在ではサイトは閉鎖されています)。ここでは上場企業の一部(公開できるだけの十分な取引が行われたもののみ)のCDS値を毎日更新のペースで閲覧することができる。CDS値そのものの算出方法は複雑だが、その値が示すこと自身はさほど難しくない。つまり

1bp(ベーシスポイント、0.01%)
 =年率0.01%
 =その企業の1年以内の破たんリスク0.01%

を意味する。

例えばCDS値が100の企業Aの社債を1億円分持っていたとする。その社債に対してCDSで保険(企業Aが破たんしても社債分を損したくないと考える)をかけたい場合は、

1億円×100bp(→100×0.01%=1.00%)=100万円/年

となり、年間100万円の保険契約料をCDSの売り手に支払わねばならない。もちろんその間に企業Aがデフォルト(破産などの破たん状態)すれば、1億円が保証されることになる。

企業Aのデフォルトの可能性が高ければ、売り手が保証額の支払いをする可能性も騰がるため、保険契約料=CDS値も上がる。「10%/年くらいだよな」とハイリスクを想定していれば、上記の場合なら年間保険契約料は1000万円になるわけだ。生命保険で高齢や過去に病気歴のある人ほど保険料が高くなるのと同じ仕組みである。

つまりはCDS値を100で割った値が、今後1年の間にその企業が破たんする可能性がある「とCDS市場関係者が考えている」パーセンテージと見れば良い。例えばCDS値が3000の場合は「今後一年間の破たんリスク30%」という想定になる。

CDSの参考度と限界と
これは主に「「ソフトバンクが1年以内に破たんする確率10.2%!?」CDSと企業の破たん確率について考え直してみる」で触れたのだが、最近では特に「CDS値が高い」=「すぐにでも倒産しちゃうかも」という風潮が強まっている。CDS値が上がると不安視されて(あるいはそれに便乗して)現物の株式が売られ、株価が下がり、それがさらにCDS値を押し上げるという悪循環が各銘柄で見られる。

先の記事の時にはCDS値が1000超えで大きな問題となっていたのに、今や1000超の銘柄は10以上を数える有様。

CDS値が1000超の銘柄(2009年3月4日現在)
CDS値が1000超の銘柄(2009年3月4日現在)

しかし注意して欲しいのは、CDSはあくまでもCDS取引における値であり、株式そのものの売買においては「参考に出来るパラメータ」を超えたものではないということ。[算出方法]を見れば分かるように、特定少数の参加企業によるデータの中で中間値を算出したに過ぎない。「金融工学」を用い複雑な方程式で算出した結果だとしても、その公開値にはばらつき・特定の片寄りがあるということは否定できない。

さらにCDSの「発動」条件は単に破たん(≒倒産)とは限らない。CDSの発動、すなわち「信用事由(クレジットイベント、発動、支払い発生事象)」は倒産以外に支払い不履行、リストラクチャリング(人事や構造改革の意味ではなく、債務上の問題。例えば支払い金利の減免や支払日の延期など、財務的に危機的状況にある事象の発生)の3要素であり、破たん以外の状況も加味されている。「CDSが高い」「その企業の倒産確率が高い」は「大体同じ」ではあるが「イコール」ではないことに注意すべき。

CDS発動時のリスクの高さから
売り手がCDSの売り渋りをする傾向。
需給の関係からますますCDSが
高値をつけ、不安をあおる結果に。
その上昨今においては、あまりにもCDS市場が注目を集めると共に、発動のリスクが高すぎる、外部要因や突発事項など「金融工学」上の計算では推し量れないリスクが上乗せされるなどの理由から、CDSの売り手が販売そのものを控える傾向にある。「売り手が減る」、そしてそのような不安定な状況下では手持ち債券などのリスクヘッジをしたい「CDSの買い手は増える」ことになり、需給の関係から、自然とCDSの価格は上昇する。間接的に対象企業の「危うさ」が引き金になってはいるものの、その「危うさ」が(CDS取引の需給関係から、言い換えればCDS市場内部の事情によって、)何倍にも増幅されて反映されてしまう結果が出ているのが現状といえる。

確かに上記に挙げたCDS値1000超え(1年以内のCDS発動確率10%以上と見なされている)の企業の中には、「そうなのかも」という企業があることは否定できない。とはいえ、

「CDS値そのものはCDS市場内の事情で形成されたものであり、すべての要因を含めた絶対的なものではない。CDS値だけで破たんリスクを推し量るのはぶれがあまりにも大きすぎる」

のもまた事実。参考にはなるが、例えば「パイオニアのCDS値が3600だから、1年以内にパイオニアがデフォルトを起こす確率は1/3だ」と直結するのは、それこそあまりにもリスクが高すぎる。CDSそのものを取り扱う該当者(あるいは該当企業の社債などを持っている取り扱い予備軍)ならともかく、それ以外の人にとっては、参考値以上のものにはなりえないことをキモに命じておく必要があるだろう。

一番無難なのは、CDS値が高い銘柄にははじめから手をつけないこと。高い低いで一喜一憂するのは、手持ちの株式の株価や配当利回り、その他直接の諸表・指標値だけで十分である。



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