【転送】アメリカの家庭内おサイフ事情(改定・増補版)
2008/12/22 13:40
先に【アメリカの家庭内おサイフ事情】において、アメリカの家計資産の動向をグラフ化してみたわけだが、単発のデータを元にしたこともあって時間軸が変則的なものしか提示できなかった。概要を把握するだけならこれで十分なのだが、どうも自分自身納得がいかない、というより後味の悪いものだったのも否定できない。そこで先のデータについてFRBのデータベースをさらにさかのぼり、10年間分の各時期における四半期データを全部ひっくり返して反映させ、資料性を高めたグラフを再構築することにした。
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具体的な値はアメリカの連邦準備理事会(FRB)の公式サイトにおける【データベースページ】から抽出したもの。このページの中の「Flow of Funds Accounts」内【Flow of Funds Accounts of the United States - Z.1】から、毎年のデータを逐次ダウンロードする。該当するページは「家計と非利益団体の財務諸表(Balance Sheet of Households and Nonprofit Organizations)」。なお1999年より前のデータにおいては、四半期データが公開されていないため、図表の作成を断念した。
なお各数字はあくまでも「アメリカドルベース」。国外向けで計算する場合には(例えば円ベースなど)その時その時の為替レートが関係してくるため、大きく変化する可能性がある。例えば2003年では1ドル=120円前後で推移していたが、現時点では1ドル90円前後の領域にある。2003年当時の1ドルと今の1ドルでは相当な価値の違いが生じている、と見なすこともできるわけだ(このあたりの事情は前回のものと同じ)。ちなみに「Q」とは四半期を意味する。「Q1」なら第1四半期というわけだ。
過去10年間の円ドル為替レート(ヤフーファイナンスより)
それでは早速、まずは家計の総資産推移を。
アメリカ家計の総資産推移
サブプライムローン問題をはじめとした「金融(工学)危機」が表面化した2007年夏以降、家計の資産も目減りしているのと共に、実は2002年後半以降の景気回復(というより株価・不動産価格の上昇)に押し上げられた資産価値はまだ一部が削られたに過ぎないことも確認できる。
それではこれを、主要項目別に区分してグラフ化する。
アメリカ家計総資産推移(兆ドル)
アメリカ家計総資産推移(主要項目別、兆ドル)
主要項目資産が2007年夏以降目減りしているのが分かる。特に「不動産」、そして「その他(保険などの金融資産)」の目減りが目立つ。また、この10年間における「アメリカの資産の底上げ」の主役が「不動産」であったことも確認できるはずだ。また「その他金融資産」の増減については、先の記事で説明したように「投資信託」が大きく影響しているのが要因。皆ファンドで儲け、そしてファンドで損をしたということ。
その一方、「耐久消費財など」「預金」が絶対額はわずかだが増加しているのも確認できる。前者は商品単価の値上げによる出費増が原因だろう。買い物数を増やしているわけではなさそうだ。
他方日経の元記事でも指摘されているが、預金額は確実に増加している。
アメリカ家計における預金額推移
内訳を見ると通常預貯金と定期預金が確実に増加しており、まやかしではなく本当の意味での「預貯金」を積み増ししているのが確認できる。これはこれまで「貯蓄より投資・消費」の傾向が強かったアメリカ人のライフスタイルが、金融・経済危機に直面したことで貯蓄という生活防衛手段に重点を置きつつある傾向の一つ……というのが先の記事、および日経の論調ではあった。しかし10年単位でデータをさかのぼると、金融危機に直面する以前から漸次預貯金額は増加しており、特に「金融危機だから生活防衛のために預貯金を積み増している」ということではないことが分かる。ここが今回の記事における、前回ともっとも大きな違い。
ただし2008年に入ってからは貯蓄への余力も無いようで、預金額そのものは横ばいになっていることに違いはない。これは先に【「借金のワナ」……アメリカ家計の借金実情をかいま見る】で指摘したこと(借金づけでほとんど貯蓄が出来ない)の裏づけにもなる。これが一時的なものか、継続的な傾向となるか否かについては、もうしばらくデータの更新を見ていくしかないだろう。
手持ち資産が減少すると消費が抑制されるのは【株価が安いとどんな良いこと・悪いことがあるのか再確認してみる】で説明した通り。この消費動向は日本でもアメリカでも変わらない。これだけ資産が目減りすれば、(手持ちの現金や収入が減る要素とあわせ)消費そのものが抑えられることは間違いない。ただし10年単位で見た場合、2005年前後のレベルに戻っただけの話であり、「全体像を見れば」アメリカ全体のライフスタイルが変わるきっかけになるほどのインパクトはないかもしれない(もちろん同じ額でも「増えた場合」より「減った場合」の方が衝撃が大きいことも事実ではある)。
ちなみに家計が持つ株式の評価額推移のみを抽出してグラフ化したのが次の図。
アメリカ家計所有株式評価額推移
「金融(工学)危機直前の最高値から約1/4に目減りしている」というのは先の記事の言だが、それに加えて「10年間分の上昇をすべて吹き飛ばしてしまった」という表現も付け加えねばならない。これで凹むな、といわれてもムリがあるというものだ。いや、まったく。
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