【転送】年齢階層別の金融資産保有割合
2009/01/31 12:00
現在日本の景気が良くない理由の一つとして、「市場にお金が出回っていない」という状況にあることが挙げられている。個人の金融資産は1400兆円とか1500兆円といわれているのに、それがほとんどしまいこまれて市場に出回らない。人間の体で例えれば血液がほとんど流れず、手や足に満足な栄養・酸素が送られていない状態。この状態を見て報道などでは「若年層が消費しないから」という意見が声高に上げられている。曰く「若者は自動車も買わないし居酒屋にもいかない。家に閉じこもってネットばかり。お金を使わないから市場で物が売れないのだ」。まるで不景気の原因が若年層の消費性向にあるかのような論調である。それでは本当に若年層はお金を使わず、溜め込んでいるのだろうか。各年齢層別に金融資産の保有割合をグラフ化してみることにした。
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今回のグラフ化にあたっては色々とデータを調べたところ、2006年3月に内閣府/野村総合研究所が発表した【高齢者の金融資産の有効活用及び社会的責任投資等への資金流入の可能性に関する調査(PDF)】が見つかった。ここにはズバリそのまま「年代別個人金融資産残高」なるグラフが掲載されている。
年代別個人金融資産残高(2004年度末)
このデータを足し合わせ、各年代毎の割合にしたのが次のグラフ。
年代別個人金融資産残高(比率)(2004年度末)
2004年度末の話ではあるが、20代以下が持つ金融資産は全体の1%強、30代以下に限定しても1割に満たない。一方、定年退職を迎えた以降、60代以降の年齢層だけで過半数を占めている。
……と、ここで終わりにしたのでは、最初から先のファイルを提示してしまえば済む話。そこでこのグラフの最新データ版を作ることにした。まずは(後に使うので)日銀から個人の金融資産の額を求める。これは資金循環統計における、家計部門の金融資産残高(2008年3月末時点の1490兆円)を流用する。
続いて各年齢層別の金融資産の保有額などの算出。これは総務省統計局の「家計調査」から「資産・負債編」のうち、年齢階層別のデータを抽出。先の日銀のデータとあわせるため、年間ベースのデータから2007年末のものを選ぶ。3か月ほどズレが生じるが、誤差の範囲だろう。そのデータのうち、年齢階層別の「世帯数」「貯蓄(預貯金・保険・有価証券をあわせたもの。いわゆる金融資産)」を抽出したのが次の表。
年齢階層世帯(主)と、その世帯主の貯蓄(=金融資産)平均額
あとは世帯主数と平均額を掛け合わせ、それぞれの年齢層における金融資産額を総計し、そこから各年齢層の割合を逆算すればよい。本来ならここに、さらに世帯単位の加重平均などを反映させる必要があるのだが、ここでは大勢を把握するのが主旨のため、省略する。
年代別個人金融資産残高(比率)(2007年度末)
計算方法が多少違うこともあるが、2004年度末と比べ、金融資産の偏在化がさらに顕著な様子が見て取れる。
ちなみにこれらの値は「預貯金・保険・有価証券など」の合計額。住宅ローンをはじめとした各種負債は考慮していない。考慮した場合、30歳代以下は債務超過(つまり負債の方が大きい)になってしまい、グラフが形成できないからだ。ちなみに年齢階層別の「貯蓄(=金融資産)」と「負債(住宅ローンや月賦支払いなど)」を足した、2007年度末における純貯蓄額は次の通り。
年齢階層別純貯蓄額(貯蓄-負債)(万円)
20-30代は住宅ローンなどの負担が大きく純貯蓄額はマイナス。40代になってようやくプラスに転じ、定年退職を迎える60代になると急増する様子が分かる。「高齢者は金融資産を持ってるかもしれないけど、負債も抱えているだろうから、そんなに『使え使え』と急かしても無理では?」という論調は成り立たないことになる。
2004年度末よりも2007年度末の方が、60代・70代以上の金融資産保有率が増えているのは、団塊の世代がまとめて定年退職を迎え、退職金を手にしたことが大きな要因として挙げられよう。もちろん、若年層の所得が低いままで抑えられていることも少なからぬ理由ではある。機会があれば別途記事に絡めるが、ここ数年収入額はほとんど変化せず、貯蓄残高は若年層で急減している様相を見せているからだ。
ちなみに2007年度末のデータに「金融資産1490兆円」をそのまま乗じたのが次のグラフ。
2007年度末における年齢階層別金融資産保有総額(兆円)
「若年層がお金を使わないから景気が悪くなる」という論調に、あまり根拠がないことがうかがえる。この件については今回参考にした、あるいはデータを探す過程で見つけた各種文献でも強く訴えられており、最初に挙げた「高齢者の金融資産の有効活用及び社会的責任投資等への資金流入の可能性に関する調査」はもちろん、【第一生命経済研究所の「団塊マネーの追跡、高齢者貯蓄の行方」(PDF)】などでも、高齢者が持つ巨大な金融資産を市場に還流させるにはどうすればよいのか、さまざまな提案を行っている。
これについては今回の記事の主旨からは外れるので省略させてもらうが、なぜ高齢者が金融資産をしまいこんだままなのか、この点の解決方法を探ることが、不況を打開する大きなカギとなるのかもしれない(ライフプランの概念の欠如、社会保障制度の不備、高齢者向けの魅力ある商品を企画する企業が少ないこと、などなど、考えれば理由はいくらでも浮かんできそうではあるが……)。
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