【転送】民放連曰く「諸君らが愛してくれたテレビの広告費は減った。何故だ!?」
2009/01/14 00:00
すでにご承知の通り1月12日以降、先行してNHKでは導入済みの「テレビ画面の右上にデジタル波受信テレビ導入をうながす『アナログ』の表記」が民放でも開始された。これについて各メディアでは「民放連が9日に発表した」と報じられた。「認知させて移行をうながすのならCM中にも入れるべきではないか」と思うのが人の常というものだが、実際にはCMにはロゴは入らない。このあたりの説明を詳しく知りたくて、プレスリリースの集大成サイトや民放連の公式サイトでマスコミ向けに発表されたとされる発表資料を探したが、一向に見つけることができなかった。代わりに現在のテレビ事情の一端をかいまみれる興味深い資料を見つけたので、今回はそれを紹介する。その資料とは民放連が2008年12月12日に発表した【2008-2009年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し】なるものだ。
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最初に民放連について説明しておくと、正式名称は「社団法人 日本民間放送連盟」。1951年7月20日に、日本初の民間放送として予備免許を受けたラジオ16社の代表が集まって結成された任意団体。翌年には許可を受けて社団法人として成立。「民放共通の問題を処理」し、「民放の公共的使命達成」を目的として組織されたもので、「この法人は、放送倫理水準の向上をはかり、放送事業を通じて公共の福祉を増進し、その進歩発展を期するとともに、一般放送事業者共通の問題を処理し、あわせて相互の親ぼくと融和をはかることを目的とする」ことが民放連の定款には書かれている。現在会員社数はテレビ・ラジオなどを合わせて201社に達している。
今回注目する資料とは、2008年から2009年において、テレビやラジオ各社がどの程度の営業収入(要は本業の儲け)を見通せるかという予想。今サイトでも何度と無く解説しているように、上場企業に限定してもテレビ各社はスポット広告(番組と番組の間に存在する時間帯(ステーションブレークと呼ばれる)に放送されるもの)の売上減少を中心にきわめて厳しい状況に追いやられている(詳しくは【テレビ局からスポット広告を減らした業種を調べてみる(2009年3月期第2四半期編)】などを参照のこと)。その実情を反映してか、今資料でも見通しはあまり明るくない。
具体的には昨今の景気低迷をある程度盛り込んだ上で(しかしながら2009年第3四半期前後を底に、2010年第1四半期からは上向くという仮定のもと)、
・スポット広告のプラス転換は2010年春(景気回復期)以降か。
・2009年度(=来年度)のスポット広告のマイナス幅は2008年度(=今年度)と同程度か。
・スポット広告に、2009年中に行われる衆議院総選挙要因を加味。
と予測している。注意して欲しいのは、今年9月までには任期満了で解散・総選挙が行われる衆議院の総選挙を「加味しても」2009年度のスポット広告は2008年度と「同程度でしかない」という予測であること。つまり通常時で換算すると「来年度は今年度よりもっとキツい」ことを裏で語っていることになる。同時にテレビ・ラジオにとっては「選挙万歳」という姿勢であることも理解できる。
同資料には非常に参考になる、有意義なデータもいくつか公開されている。例えば2002年以降の東京・大阪・名古屋15局のスポット広告の出稿量・出稿金額・単価水準の平均値の推移だ。
2002年以降の東京・大阪・名古屋15局のスポット広告の出稿量・出稿金額・単価水準の平均値の推移
2002年以前のデータがないのが残念だが、前回の金融恐慌不況時の低水準から立ち直りを見せたものの、景気後退の影が見える前、2005年-2006年頃から単価の低迷の傾向が見えていることが分かる。むしろ景気後退が明確化した2007年夏以降は(オリンピック特需かあったものの)それに加速がついただけであることが確認できよう。
これがさらに詳しく確認できるのが、こちらの図。説明によれば民放連発の「経営分析調査」から作成したとのことだが、内部資料らしく公開の場は見つからない。一部だけでもこのような形で見ることができるのはありがたい話だ。
2000年度以降のスポット広告の伸び率推移
2000年度以降のタイム広告+制作費の伸び率推移
これらのデータからも、「スポット広告は前回の金融不況の際にも大きく値を落としているがその後復調。しかし景気後退局面に入る前に現象の兆し」「タイム広告は景気動向とは『さほど』関係なく推移。ただし不況時にはやはり削られる(前回の不況がよい例)」ことが見て取れる。
「景気の動向と広告費の増減が連動……?」という疑問符にストレートで応えてくれるのが次の図。全産業の経常利益の前年同期比を、スポット広告のと重ね合わせたものだ。
全産業の経常利益、スポット広告の前年同期比推移
少なくとも1995年以降、多少のずれや幅の大小はあれど「企業が儲かる=スポット広告が増える」「企業が損をする=スポット広告が減る」という連動性があった。しかし2005年を境に、「企業が収益を増してもスポット広告は増加しない」という現象が起きているのが把握できる。ましてや企業の収益が落ち込み始めた2008年以降になれば、スポット広告の下落率に拍車がかかるのは当然というものだ。
この傾向について今報告書では
・外需主導の回復で内需にはさほど関係ない(≒内需向けの広告を出しても意味が無いと企業が判断)から
・広告宣伝費や販促費の配分が変化したからでは
と推測し、そのうち最後の「広告宣伝費や販促費の配分変化」については下の図を挙げて「テレビは圧倒的な認知媒体の地位を確保し、インターネットとは競合しない(からインターネットに配分を食われるはずはない)」として半ば否定している。
各メディアの立ち位置分析(報告書による見解・抜粋)
さらに(図表は略すが)「総世帯のテレビ視聴時間は傾向的に減少しているとまではいえない」「テレビへの親近感に大きな変化はない」「テレビを見るのは大切な生活の一部になっている」などのデータを掲げ、「テレビ広告費の減少・構造変化」が「媒体力の低下が原因によるものではない」と結論付けている。またGRP(Gross Rating Point、延べ視聴率。視聴率1%が1GRPで、例えば10本のCMを視聴率10%の番組に出したら10×10=100GRPとなる)が大きく変化していないことも「媒体力は低下していない。広告主が広告効果を疑問視しているわけではない」への理由として積み重ねている。
その上で。
今記事のタイトルではないが「テレビの広告費は減った。何故だ!?」という自問自答に対して報告書では
……媒体力に変化はないのだから、広告主に提示するデータに問題があるのでは。
・「売り方の問題?」
……媒体力に変化はないのだから、売り方、営業方法が悪いのでは。
と結論付けている。
これはあくまでも民放連による分析であって、そのすべてが真実を貫いているという保証はない(提示側はそれを信じている)。色々と同意・反論・第三者的な意見はあるだろうが、ここではいくつか、当サイトの元記事から、比較検討をするための材料だけを提示しておくことにしよう。
具体的に検討し、判断をするのは読者の皆様にお任せする。そしてその結論から、民放連、すなわちテレビやラジオをつかさどる企業の方々がどのような考え・戦略を現在持っているのか、その考えは実情とどれだけマッチしているのかを「自分なりに」見つめてほしい。
【インターネット広告の影響力の拡大を図式化してみる】(電通調査が元資料)によると2004年以降インターネットへの広告費は増加傾向にある。
【テレビ視聴時間の推移】(NHK公開データが元資料)によると、2005年以降民放の視聴時間はゆるやかながらも減少傾向にある。
【ネットやケータイ増やしてテレビや新聞、雑誌は削減・今年の広告費動向】(日経広告研究所などのデータが元資料)によればデジタルメディア向け広告費を増やす一方、既存4大メディアへのそれは減らす傾向が強まっている。さらに【デジタル広告出稿比率は全体の9%、特にケータイ広告は「口コミが期待でき、安くて使いやすい」】では安さや使いやすさが企業に好かれている傾向が見てとれる。
さらに一つ解説を加えるとすれば、「GRPが大きく変化していない」という説明があるが、同時に広告費全体が減少していることも明らかにされている。これをつなげると「企業側は同じ広告出稿でも対価として出せる費用を少なく見積もっている」、つまり「企業側はテレビやラジオ広告に対する、費用対効果のそろばん勘定を低めに再設定している」ことを認めることになる。
ともあれ、間もなく2009年3月期は幕を閉じる。決算が出てくるのは6月以降になるだろう。あるいはその前に、第3四半期決算発表に伴う下方・上方修正があるかもしれない。民放連の状況判断・把握がどこまで正しいのか考えつつ、公開される数字や解説を確認できる時期を待つことにしよう。
なお、トップページでテレビの媒体力に関するアンケート(※すでに終了しています)を開始した。読者本人に対する、ではなく「読者から見た、感じる」世間一般の媒体力なので注意して欲しい(読者はインターネット経由なので、それと相対するテレビへ不利に働く可能性がある、との配慮からである)。興味のある方は投票をしてほしい。
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