物価高や米国の通商政策の影響懸念続くも持ち直しの気配…2025年8月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き上昇

2025/09/08 14:00

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2025-0908内閣府は2025年9月8日付で2025年8月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇となる46.7を示したが、基準値の50.0を下回る状態は継続することとなった。先行き判断DIは前回月比で上昇して47.5となったが、基準値の50.0を下回る状態は継続することに。結果として、現状上昇・先行き上昇の傾向となり、基調判断は「景気は、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、価格上昇や米国の通商政策の影響を懸念しつつも、持ち直しの動きが続くとみられる」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和7年7月調査(令和7年8月8日公表):景気ウォッチャー調査】)。

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現状は上昇、先行きも上昇


調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。

2025年8月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。

・現状判断DIは前回月比プラス1.5ポイントの46.7。
 →原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは46.3。
 →詳細項目は「住宅関連」「雇用関連」以外の項目が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は無し。

・先行き判断DIは前回月比でプラス0.2ポイントの47.5。
 →原数値では「変わらない」「やや悪くなる」が増加、「よくなる」「悪くなる」が減少、「ややよくなる」が変わらず。原数値DIは46.7。
 →詳細項目では「小売関連」「製造業」「非製造業」が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は無し。

冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2025年8月では猛暑により外出機会の低下が生じて低迷している業界がある一方で、その猛暑で売上を伸ばす業界もあり、一喜一憂状態。一方で物価高の影響は総じて景況感の足を引っ張っている。結果として前月比ではプラスの結果となった。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。

直近の2025年8月では現状判断同様に物価高や米国の関税政策によるマイナスの影響懸念は根強いが、一方で物価高に消費者が慣れてきたとの言及が複数で確認できており、潮目が変わった雰囲気を覚えさせる。結果として前月比では上昇した。

現状判断DI・先行き判断DIの実情


それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。

↑ 景気の現状判断DI(〜2025年8月)
↑ 景気の現状判断DI(〜2025年8月)

昨今ではマイナス要因の筆頭としてロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響で生じている物価高があるが、猛暑の継続で関連商品が大きく動いたのがけん引し、今回月では詳細項目において「小売関連」「飲食関連」「サービス関連」「製造業」「非製造業」が前月比プラスを示している。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は無し。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(〜2025年8月)
↑ 景気の先行き判断DI(〜2025年8月)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は無し。物価高が多方面で足を引っ張っており、特に食料品や燃料費の価格高騰が大きな影響を与え、さらに米国の通商(関税)政策への不安感も大きなマイナス要因ではあるが、物価高への消費者の慣れ的な行動が複数確認でき、秋の行楽シーズンへの期待も強い。詳細項目では「小売関連」「製造業」「非製造業」で前月比プラスを示している。今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は無し。

猛暑の影響と、物価高へのさまざまな反応と


発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での総括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状
・猛暑が続いていることで、観光やレジャーどころではない人が多くなることを懸念していたが、天候に恵まれたこともあって、連日大にぎわいの様相を呈している。8月単月としては、過去最高の利用者数を更新している。物価高の影響で観光を控えるといった雰囲気は微じんもなく、特に国内からの個人観光客の利用が目立っている。外国人観光客の利用も相変わらず多い(観光名所)。
・インバウンドの消費は、横ばいではあるものの悪化はしていない。一方で、国内客向けの高付加価値消費は、宝飾、時計などの高額品を中心に緩やかに回復している。特に、当社が戦略的に関係性を深めている顧客向けの提案が刺さっている(百貨店)。
・猛暑により外出を控える傾向が高まり、夏休みがハイシーズンではなくなり、アウトドア業界は苦戦を強いられている。加えて、お盆の連休に数日続いた雨で、予約がほぼキャンセルとなった(テーマパーク)。
・生活必需品が値上がりして生活に負担が重くのしかかっているため、住宅購入資金に回す余裕がなくなっている(住宅販売会社)。

■先行き
・客が値上がりに慣れてきたため、買換え需要では単価の上昇が見込まれる(家電量販店)。
・先の予約状況は堅調に進捗している。加えて物価高や値上げなどに慣れてきたのか、以前よりも消費力が高い感じにあり、期待が持てる。現在の人の流れや雰囲気が続いた状態で、秋の行楽シーズンから年末へと向かえば、業績が非常に伸長することが予測できる(都市型ホテル)。
・依然として物価が高く、消費意欲は低迷することが予想される。一部富裕層の動きは見られるものの、中間層の消費行動は慎重である(百貨店)。
・野菜などの様々な価格がかなり上がっているため、先行きには期待できない(一般レストラン)。

猛暑が続く日々がプラスに働く業界とマイナスの影響が生じる業界の双方があり、世の中の難しさを感じさせる。また、物価高に消費者が慣れつつあるとの指摘もあれば、引き続き財布のひもが締まったままとの指摘もある。

企業動向では景気のよい話と悪い話の両方が出ている。

■現状
・連日の猛暑の影響を受け、飲料系の保管倉庫においては在庫入荷、出庫量共に例年より多くなっており、満床稼働となっている(輸送業)。
・コストの上昇が続く一方、市場の動きはかなり弱いなど、価格転嫁ができるような状況ではない(その他製造業[履物])。

■先行き
・現時点では関税などの影響は受けておらず、前月の内示計画より上振れになっており、年間台数も客先での上振れを予測している(輸送用機械器具製造業)。
・米国の関税の影響で、取引先で生産量の見直しがされている(輸送用機械器具製造業)。

米国の関税政策問題の今後への不安を覚える声もあるが、影響を受けていないとの意見も見受けられる。

雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。

■現状
・新卒採用、中途採用とも求人数は多い状態であり、求人倍率も高い。求人倍率が高い状態が景気が良いとされるが、長期的な人手不足、人件費高騰により中小企業では業務が予定どおり進まない企業も多く、特にサービス業においてはその状況が強いとみられる(求人情報誌)。

■先行き
・最低賃金が前年より高く答申されたことを受け、求職者からは働く意欲や期待の声を聞く。一方で、管内の大半を占める中小企業では人件費や資材価格高騰が十分に価格転嫁ができない状況がある(職業安定所)。

人手不足は深刻で、特に中小企業で業務に影響が生じているとの話が出ている。また最低賃金の大幅な引き上げで、やはり中小企業におけるコスト増が大きな負担になっているとの指摘もある。



多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。

世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。

リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスの流行だが、感染症法上における5類感染症への移行によって、世間一般では沈静化に向かっているとの認識が強い。しかし現状では感染者数は沈静化と認識できるほどの減り方はしておらず、むしろ増加の傾向にあると表現してもよいのが実情。後遺症のリスクも含め、感染しないように十分な注意をしなければいけない状態に変わりはない。すでに世の中は「そうなってしまっている」、それにもかかわらず、その現実を認めたくない人が多すぎるのが実情ともいえる。

さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できるたぐいのものではない。食料品や電気料金をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。

景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。


↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである



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