猛暑で伸びる企業、つまづく企業。米国の通商政策は問題解決による安堵感…2025年7月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き上昇
2025/08/08 14:00
内閣府は2025年8月8日付で2025年7月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇となる45.2を示したが、基準値の50.0を下回る状態は継続することとなった。先行き判断DIは前回月比で上昇して47.3となったが、基準値の50.0を下回る状態は継続することに。結果として、現状上昇・先行き上昇の傾向となり、基調判断は「景気は、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、価格上昇や米国の通商政策の影響を懸念しつつも、持ち直しの動きが続くとみられる」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和7年7月調査(令和7年8月8日公表):景気ウォッチャー調査】)。スポンサードリンク
現状は上昇、先行きも上昇
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2025年7月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「ややよくなっている」「変わらない」「悪くなっている」が増加、「やや悪くなっている」が減少、「よくなっている」が変わらず。原数値DIは45.5。
→詳細項目は「小売関連」「非製造業」「雇用関連」以外の項目が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は無し。
・先行き判断DIは前回月比でプラス1.1ポイントの45.9。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「変わらない」が減少。原数値DIは47.0。
→詳細項目ではすべての項目が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「サービス関連」「雇用関連」。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。

↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2025年7月では物価高騰や米国の関税政策による各種混乱の影響はあるものの、気温の上昇で夏物商品のセールスが堅調なものとなり、前月比ではプラスの結果となった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2025年7月では現状判断同様に物価高騰や米国の関税政策による各種混乱の影響や、それらによる先行き不透明感はあるものの、秋の行楽シーズンへの期待感や、米国の関税政策問題の決着で事業の進行の先行きが見えてきたことから、前月比では上昇した。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。

↑ 景気の現状判断DI(〜2025年7月)
昨今ではマイナス要因の筆頭としてロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響で生じているコスト上昇や、それが主要因の物価高があるが、気温の上昇で夏物商品が大きく動いたことがけん引し、今回月では詳細部門において「飲食関連」「サービス関連」「週だく関連」「製造業」が前月比プラスを示している。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は無し。
続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(〜2025年7月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は無し。物価上昇が多方面で足を引っ張っており、特に食料品や燃料費の価格高騰が大きな影響を与え、さらに米国の通商(関税)政策への不安感も大きなマイナス要因ではあるが、賃金の上昇や夏のボーナスへの期待は強く、「非製造業」以外の詳細部門で前月比プラスを示している。今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は無し。
猛暑の影響と、物価高へのさまざまな反応と
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での総括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・売上は前年比3%程度上昇している。客は物価高に慣れてきている様子で、スーパーやドラッグストアでも値上げが常態化しているため、高単価の商品でも抵抗なく購入する人が増えている。また、以前であれば100円の商品が128円に値上がりした際に客の抵抗感があったが、最近では電子マネーなどの非現金化が進んだせいか、きりの悪い単価の商品でも売れている。非現金化によって支払時の抵抗感が薄れ、売上、販売量が戻ってきたようである(コンビニ)。
・猛暑のため、接触冷感等機能のある夏物の売行きが好調である(衣料品専門店)。
・6月から続く異常気象による連日の猛暑で、日中の客足が非常に少ない(商店
街)。
・インバウンドは前年と比較して大幅な減少傾向が続いている。特に、高額品における中国人の購買動向が鈍化している(百貨店)。
■先行き
・秋の行楽シーズンは団体旅行や国民体育大会、ねんりんピックなどのスポーツ観戦も好調に申込みがあり、良化傾向である。物価高騰による旅行代金の値上げもあるが、旅行やイベントへの参加申込みは順調に増えている(旅行代理店)。
・現状、購買数に特段の変化はないものの、物価上昇が続いている状況で、家計の備えとして消費を控えるといった発言は少なくなってきている。必需と判断すれば、購買に向かう傾向が少し強まっていくのではないかと予想する(通信会社)。
・食品価格の値上げが予定されており、所得増加が伴っていない現状では買い控えの傾向がしばらく続くとみられる(コンビニ)。
・異常な暑さが続いており、客も外出をためらっている様子で、少なくとも9月いっぱいは期待できない(一般レストラン)。
記録的な高温が続く日々がプラスに働く企業とマイナスの影響が生じる企業の双方があり、世の中の難しさを感じさせる。また、物価高騰に消費者の財布のひもが締まり続けているとの指摘もあれば、慣れてきて消費が戻りつつあるとの話もある。非現金化が進み端数を気にせずに購入するお客が増えたとの興味深い話もある。一方で、インバウンドの低迷という、憂慮すべき状況も確認できる。
企業動向では景気のよい話と悪い話の両方が出ている。
・米国の関税問題が一段落し、若干ではあるが先行きの見通しが立つようになっている(一般機械器具製造業)。
・賃上げの原資となる利益を確保するため、少しずつ取引先への契約金額などの引上げを実施している。しかし、依然として続いている資材経費の増加に加え、熱中症対策義務化への対応費用の増加もあり、利益がなかなか確保できない(不動産業)。
■先行き
・まだ不透明な部分は多いが、米国による自動車の関税問題が決着したため、今後の計画が立てやすくなり、荷動きもよくなる(金属製品製造業)。
・自動車の対米輸出における関税率が15%に決定して以降、自動車メーカーから将来の国内生産について具体的な情報開示はない。目先は変わらないだろうが、将来的には減収要因となる(輸送用機械器具製造業)。
米国の関税政策問題が決着したことで、安堵し、今後に期待する企業が多い。他方、「熱中症対策義務化への対応費用の増加」という興味深い話もある(2025年6月から労働安全衛生規則の改正省令が施行され、職場における熱中症対策が義務化された)。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
・求人に対しての求職者の動きが鈍く、マッチングしても仕事が合わず短期で終了する者も多い(人材派遣会社)。
■先行き
・米国による関税が15%に落ち着き、先送りになっていた案件が決まり始める(人材派遣会社)。
原因は不明だが求職者の動きが鈍いとの気になる言及が目にとまる。一方、米国の関税政策問題の決着で、企業側でも求人の動きが確認できる。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスの流行だが、感染症法上における5類感染症への移行によって、世間一般では沈静化に向かっているとの認識が強い。しかし現状では感染者数は沈静化と認識できるほどの減り方はしておらず、むしろ増加の傾向にあると表現してもよいのが実情。後遺症のリスクも含め、感染しないように十分な注意をしなければいけない状態に変わりはない。すでに世の中は「そうなってしまっている」、それにもかかわらず、その現実を認めたくない人が多すぎるのが実情ともいえる。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できるたぐいのものではない。食料品や電気料金をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。
景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
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