懸念事項は物価高と米国の通商政策…2025年4月景気ウォッチャー調査は現状下落・先行き下落

2025/05/12 14:00

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内閣府は2025年5月12日付で2025年4月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落となる42.6を示し、基準値の50.0を下回る状態は継続することとなった。先行き判断DIは前回月比で下落して42.7となり、基準値の50.0を下回る状態は継続することに。結果として、現状下落・先行き下落の傾向となり、基調判断は「景気は、このところ回復に弱さがみられる。先行きについては、賃上げへの期待がある一方、従前からみられる価格上昇の影響に加え、米国の通商政策の影響への懸念が強まっている」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和7年4月調査(令和7年5月12日公表):景気ウォッチャー調査】)。

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現状は下落、先行きも下落


調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。

2025年4月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。

・現状判断DIは前回月比マイナス2.5ポイントの42.6。
 →原数値では「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が減少。原数値DIは44.6。
 →詳細項目は「飲食関連」で上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は無し。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス2.5ポイントの42.7。
 →原数値では「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは43.4。
 →詳細項目では上昇項目無し。基準値の50.0を超えている詳細項目は無し。

冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2025年4月では物価高騰や米国の関税政策による各種混乱の影響が強く出る形で、前月比ではマイナスの結果となった。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。

直近の2025年4月では現状判断同様に物価高騰や米国の関税政策による各種混乱の影響や、それらによる先行き不透明感を受け、前月比では下落した。

現状判断DI・先行き判断DIの実情


それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。

↑ 景気の現状判断DI(〜2025年4月)
↑ 景気の現状判断DI(〜2025年4月)

昨今では人流増加のプラス影響が力強いものはあるが、マイナス要因の筆頭としてロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響で生じているコスト上昇や、それが主要因の物価高が景況感への大きな足かせとなり、今回月では「飲食関連」以外の部門で前月比マイナスを示している。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は無し。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(〜2025年4月)
↑ 景気の先行き判断DI(〜2025年4月)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は無し。大阪・関西万博効果に期待があるものの、物価上昇が多方面で足を引っ張っており、特に食料品や燃料費の価格高騰が大きな影響を与えている。また米国の通商(関税)政策への不安感も大きなマイナス要因となっている。

物価高、そして米国通商政策への不安


発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状
・今月に入り、観光シーズンが到来し、ゴールデンウィークに向けて日本人の来店客も徐々に増えている。また、インバウンドはアジアから欧米にシフトしており、堅調に伸びている(旅行代理店)。
・米国の関税政策に伴う金融市場の混乱もあり、金融資産を保有する富裕層の客が高額品を購入する際の決定率が悪くなっている(百貨店)。
・新車販売が鈍化している。供給の正常化で受注残が減っており、物価高による車両やガソリン価格の高騰なども影響して、新車受注が落ち込んでいる(乗用車販売店)。
・物価高で、回せるお金が限られている客がかなり多い。電化製品は後回しというのが、現状ではないか(一般小売店[家電])。

■先行き
・10月までの大阪・関西万博の開催期間中は、来客数が高水準で推移することが期待される。各商品の値上げの動きとあいまって、売上は好調な推移となりそうである(コンビニ)。
・様々な物の価格高騰や米国の関税問題による先行きの不透明感などから、節約意識がますます高まる(スーパー)。
・物価高が収まるような兆しがないことから、衣料品への支出は引き続き抑えられると見込まれる。原材料価格の高騰などで、低価格商品を提供することも難しいため、今後も厳しい状況が続くことになる(衣料品専門店)。
・材料価格の高騰によるメニュー価格の上昇で、客の来店回数が減少し、来客数全体の減少につながっている。物価上昇の影響は今後も続くため、景気の減退が予想される(一般レストラン)。

観光シーズン、大阪・関西万博などイベントによる底上げ効果が生じている・期待できる話が見られる。一方で物価高や米国の関税問題のマイナス方面への影響が強く出ている。

企業動向では景気のよい話と悪い話の両方が出ている。

■現状
・大阪・関西万博の開催に伴い、スーパーなどに立ち寄る外国人観光客が増え、立ち寄った店での飲料の購入が増えているため、売上はややよくなっている。万博関連の商品などを多く販売している影響も出ている(食料品製造業)。
・当地域の企業の設備投資などが、自動車関税の今後の動きが見えないことで停滞している(鉄鋼業)。

■先行き
・大手ハウスメーカーの受注量が回復基調にある。第2四半期からは受注量も回復する見込みで計画している。価格転嫁を行い利益が出る体制に転換していくことが必須である(木材木製品製造業)。
・米国政権の関税引上げの影響により、今後の受注減少や取引先からの値下げ圧力を懸念する声を聞く(繊維工業)。

大阪・関西万博によるインバウンド需要の恩恵を受ける話もあるが、一方で家計動向同様に米国の関税問題のマイナス方面の影響への懸念の声が複数確認できる。

雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。

■現状
・人件費や原材料価格の高騰、米国の関税など、想定外の状況に地域の製造業を中心に慎重姿勢がうかがえる(新聞社[求人広告])。

■先行き
・今のところ具体的な事象はないものの、米国関税の影響により自動車関連企業は何らかの予算抑制方向に動く懸念があり、そうなると自社の引き合いも減少する(人材派遣会社)。

米国の関税問題は日本の雇用関連においても浅からぬ影響を与えているようだ。



多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。

世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。

リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスの流行だが、感染症法上における5類感染症への移行によって、世間一般では沈静化に向かっているとの認識が強い。しかし現状では感染者数は沈静化と認識できるほどの減り方はしておらず、むしろ増加の傾向にあると表現してもよいのが実情。後遺症のリスクも含め、感染しないように十分な注意をしなければいけない状態に変わりはない。すでに世の中は「そうなってしまっている」、それにもかかわらず、その現実を認めたくない人が多すぎるのが実情ともいえる。

さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。食料品や電気料金をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。また米国の関税問題も大きく足を引っ張りそうだ。

景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。


↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである



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