客足増加効果あるも、物価高への懸念は引き続き強く…2024年11月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き上昇

2024/12/09 16:00

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内閣府は2024年12月9日付で2024年11月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇となる49.4を示したが、基準値の50.0を下回る状態は継続することとなった。先行き判断DIは前回月比で上昇して49.4となったが、基準値の50.0を下回る状態は継続。結果として、現状上昇・先行き上昇の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和6年11月調査(令和6年12月9日公表):景気ウォッチャー調査】)。

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現状は上昇、先行きも上昇


調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。

2024年11月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。

・現状判断DIは前回月比プラス1.9ポイントの49.4。
 →原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは48.2。
 →詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「住宅関連」で上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」。

・先行き判断DIは前回月比でプラス1.1ポイントの49.4。
 →原数値では「ややよくなる」「変わらない」「やや悪くなる」が増加、「よくなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは48.4。
 →詳細項目は「小売関連」「サービス関連」「住宅関連」「製造業」「雇用関連」が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。

冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2024年11月では消費の堅調さを反映し、前月比ではプラスの結果となった。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。

直近の2024年11月では現状判断同様に消費の堅調さや今冬の寒さへの期待から、前月比では上昇した。

現状判断DI・先行き判断DIの実情


それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。

↑ 景気の現状判断DI(〜2024年11月)
↑ 景気の現状判断DI(〜2024年11月)

昨今ではマイナス要因の筆頭としてロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響で生じているコスト上昇が景況感への大きな足かせとなっており、さらに円安で悪影響を受ける企業も多い。一方で人流増加のプラス影響は力強く、今回月では複数の部門で前月比プラスを示している。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」のみ。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(〜2024年11月)
↑ 景気の先行き判断DI(〜2024年11月)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。物価上昇が多方面で足を引っ張っているが、厳冬や買い控えの落ち着きへの期待が大きい。

インバウンドと、物価高と


発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状
・ここ2か月、インバウンドおよび国内旅行者の来客数が落ち込んでいたが、いずれも11月に入り増加している。地元客の購買意欲は落ち込んだままであるが、インバウンドおよび国内旅行者による消費が増加していることで、全体としては上向いている(百貨店)。
・11月中旬以降にようやく気温が下がり、ニットやコートなどの冬物を探しに来店する客が増えている(衣料品専門店)。
・物価が上昇しており、客は美容に掛ける金を節約している(美容室)。
・人出はそれなりにあっても、さほど売上に結び付いていない。商品の値段が上がっているため、本来なら客単価も上昇するはずだが、現状では下がっている(商店街)。

■先行き
・物価高による買い控えも落ち着き、寒暖差に伴う冬物需要から、春物需要にも期待している(百貨店)。
・生活の基盤となる電気、ガス料金の値下げの報道があり、消費行動に良い影響が出てくる可能性がある。今年は寒さも続きそうであるため今後も季節商材や防寒用品の動きは良い見込みである。食品の値上げを勘案しても、消費動向は上向くと予想する(スーパー)。
・前年よりも寒い予報が出ているため、来客数が2〜3%は減少する見込みである。経費もほぼ全てが値上がりしているため、前年よりも利益が減少する(ゴルフ場)。
・商品の値上げや物価の上昇が続くなか、今後は良くなる要素が見当たらない(一般レストラン)。

平均よりかなり高い気温が季節並みにまで下がり、さらに今年は厳冬の予報が出たこともあり、冬物への期待の声が確認できる。インバウンドを中心に客足の増加によるプラスの声があるが、その一方で物価高による景況感への重しの話も確認できる。

企業動向では景気のよい話と悪い話の両方が出ている。

■現状
・オートバイや4輪車の電装品用の出荷や、家電用、電子部品用の出荷がやや好調である(化学工業)。
・2024年問題で工事の進捗が遅れ、受注量が減少している。今後もこの問題による工事進捗の状況は継続していく(木材木製品製造業)。

■先行き
・取引先で中国に移していた生産を国内に戻す動きがあるため、生産設備に使用する消耗品の受注増加が期待できる(窯業・土石製品製造業)。
・この先、更に受注減少が見込まれており、米国の関税などの影響により景気が悪くなることが考えられる(電気機械器具製造業)。

「2024年問題」とは2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用され、労働時間が短くなることで輸送能力が不足する問題。「物流の2024年問題」とも言われている。木材木製品製造業となると材料の木材の搬入や加工品の搬送の問題だろうか。

生産面で日本国内回帰の動きが見られる。よいことには違いない。

雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。

■現状
・これまでの求人は介護職や看護職などに偏っていたが、業種に若干広がりが出てきている。しかし、広告を掲載しても応募がなく、多くの企業から苦戦しているという声を聞く。人手不足が顕著になっている(新聞社[求人広告])。

■先行き
・依然として企業の人手不足感は強く、新年度に向けて人材を確保しようとする動きは、より強くなっていくとみられる(人材派遣会社)。

スキルを持つ人への需要が高くなっているように見られる。現状に合わせた人材確保のための手立てを講じているのか否か、企業側の希望的推測だけで求人を出していないか、今件コメントだけでは判断できない。



多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。

世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。

リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスの流行だが、感染症法上における5類感染症への移行によって、世間一般では沈静化に向かっているとの認識が強い。しかし現状では感染者数は沈静化と認識できるほどの減り方はしておらず、むしろ増加の傾向にあると表現してもよいのが実情。後遺症のリスクも含め、感染しないように十分な注意をしなければいけない状態に変わりはない。すでに世の中は「そうなってしまっている」、それにもかかわらず、その現実を認めたくない人が多すぎるのが実情ともいえる。

さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気料金をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。


↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである



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