客足増加効果あるも猛暑の反動なお残り、物価高への懸念は引き続き強く…2024年10月景気ウォッチャー調査は現状下落・先行き下落
2024/11/11 14:00
内閣府は2024年11月11日付で2024年10月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落となる47.5を示し、基準値の50.0を下回る状態は継続することとなった。先行き判断DIは前回月比で下落して48.3となり、基準値の50.0を下回る状態は継続する形に。結果として、現状下落・先行き下落の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和6年10月調査(令和6年11月11日公表):景気ウォッチャー調査】)。
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現状は下落、先行きも下落
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2024年10月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「よくなっている」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「ややよくなっている」「変わらない」が減少。原数値DIは46.6。
→詳細項目は「サービス関連」「製造業」「雇用関連」で上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「サービス関連」「雇用関連」。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス1.4ポイントの48.3。
→原数値では「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「変わらない」が減少、「よくなる」が変わらず。原数値DIは48.0。
→詳細項目は「飲食関連」が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「製造業」「雇用関連」。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2024年10月では猛暑の反動や物価高の影響から、前月比ではマイナスの結果となった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2024年10月では現状判断同様に物価高への影響が多方面で生じており、前月比では下落した。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。
↑ 景気の現状判断DI(〜2024年11月)
昨今では人流増加のプラス影響は力強いものの、マイナス要因の筆頭としてロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響で生じているコスト上昇が大きな影響を与えており、さらに円安で悪影響を受ける企業も多い。さらに今年の猛暑の反動を受けているところもあり、今回月では多くの部門で前月比マイナスを示している。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「サービス関連」「雇用関連」のみ。
続いて先行き判断DI。
↑ 景気の先行き判断DI(〜2024年10月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。物価上昇が多方面で足を引っ張っている。
インバウンドと、物価高と
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・イベントや学会の参加者、旅行会社のツアー客など団体予約の獲得が好調である。また、行楽目的のインバウンド個人客も多い。個人、団体を合わせた稼働率は前年比110%と好調である(都市型ホテル)。
・物価高騰により売上は前年比100%前後であったが、来客数もようやく前年並みに回復してきた(コンビニ)。
・米の値段が大きく上がり、様々な食品が値上がりとなっていくなか、客は購入点数や来店回数を減らすことで生活防衛を行っている(スーパー)。
・今月は例年に比べ1割ほど来客数が少ない。元々10月は閑散期に当たり来客数、客単価共に下落傾向である。今夏が猛暑でエアコンがよく売れたため、その反動が出てきている(家電量販店)。
■先行き
・不安定な天候が続くが、寒暖差も激しく、重衣料、防寒雑貨を求める声も多い。年末年始商戦、インバウンド盛況シーズンに期待している(百貨店)。
・11〜12月の忘年会の予約は、20人以上の団体客は少ないが、20人までのグループの予約は増えている(高級レストラン)。
・今後も客の節約志向は続くものと予想され、販売数量を維持することは厳しいとみられる(一般小売店[食品])。
・依然として所得の増加を上回る物価上昇が続いていることから、客の購買力が相対的に低下している。このことが分譲マンション市場に対して悪影響を及ぼしている(住宅販売会社)。
猛暑で売れた商品の反動が10月にまで生じているとの指摘もあるほど、今年の夏は暑かったことが改めて認識できる。インバウンドを中心に客足の増加によるプラスの影響が多々見られるが、その一方で物価高による景況感への重しの話が多々確認できる。また、スタグフレーション的なものが起きているのではないかとの指摘もある。
企業動向では景気のよい話と悪い話の両方が出ている。
・夏場のハイシーズンは終了したものの、修学旅行生やインバウンドの増加傾向が続いており、10月はイベントも多いことから身の回りの消費は活発になっている(食料品製造業)。
・前年より増収となっているが、支出が増加しているため、利益は増えていない。設備投資も増加しているが、人件費、その他の経費がそれ以上に増加している(輸送業)。
■先行き
・予想より円安が進行しており、輸入品の価格が上昇した影響で、国産品はより有利に働くものと考える(食料品製造業)。
・資材の値上げのため、見積金額を上げるなか、ここ数年で数回値上げしていることが影響し、なかなか了承してもらうことが難しくなっている。ますます厳しい状況になる(出版・印刷・同関連産業)。
消費の活性化による売上の増加がある一方で、支出も増えているため利益は変わらないとの指摘がある。物価高による資材の値上げで苦しい状態にあるとの声も。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
・求職者の多い、事務職の求人が減少している。その一方、営業やDX関連、SEなどについては、一定数の求人が出ている(人材派遣会社)。
■先行き
・人手不足、原材料高及び物価上昇等による業績への悪影響を懸念する声が、多くの産業から聞かれる。今のところ求人数は堅調だが、今後は企業業績の悪化が雇用不安につながる可能性を排除し切れない(職業安定所)。
スキルを持つ人への需要が高くなっているように見られる。他方、物価高で企業業績が悪化すれば、求人が減ってしまうのではとの懸念も。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスの流行だが、感染症法上における5類感染症への移行によって、世間一般では沈静化に向かっているとの認識が強い。しかし現状では感染者数は沈静化と認識できるほどの減り方はしておらず、むしろ増加の傾向にあると表現してもよいのが実情。後遺症のリスクも含め、感染しないように十分な注意をしなければいけない状態に変わりはない。すでに世の中は「そうなってしまっている」、それにもかかわらず、その現実を認めたくない人が多すぎるのが実情ともいえる。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気料金をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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