前期比でプラスは2誌だが…ビジネス・金融・マネー系雑誌部数動向(2024年4-6月)

2024/09/05 02:00

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インターネットに代表される電子情報技術の加速的進歩、機動力に長けたスマートフォンの普及で、ますます時間との戦いが熱いものとなりつつあるビジネス、金融業界。その分野の情報をつかさどる専門誌では、正しさはもちろんだがスピーディな情報展開への需要が天井知らずのものとなる。デジタルとの比較で生じる時間的遅れは紙媒体の致命的な弱点となり、その弱みをくつがえすほどの長所が今の専門誌では求められている。このような状況下の「ビジネス・金融・マネー系専門誌」について、社団法人日本雑誌協会が2024年8月7日に最新データへの更新発表を行った、第三者による公正な部数動向を記した指標「印刷証明付き部数」から、実情を確認していくことにする。

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「PRESIDENT」一強時代は変わらず


データの取得場所に関する解説、「印刷証明付部数」など各種用語の説明、過去の同一テーマのバックナンバー記事、諸般注意事項は一連の記事の集約ページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で解説している。必要な場合はそちらから確認のこと。

最初に精査するのは、直近分にあたる2024年の4-6月期とその前期に該当する、2024年1-3月期における印刷実績。

↑ 印刷証明付き部数(ビジネス・金融・マネー誌、万部)(2024年1-3月期と4-6月期)
↑ 印刷証明付き部数(ビジネス・金融・マネー誌、万部)(2024年1-3月期と4-6月期)

「クーリエ・ジャポン」の休刊後、今カテゴリーの雑誌は定期刊行誌では全部で6誌だったが、その後「BIG tomorrow」も休刊に伴いデータの非公開化が行われ、5誌に減ってしまった。そして2018年10-12月期を最後にPHP研究所の「THE21」が姿を消してしまう。

「THE21」は現在も定期的に刊行を続けており、休刊のお知らせは公式サイトなどでは確認できない。何らかの理由により単純に印刷証明付き部数の非公開化に踏み切ったものと考えられる。

↑ 印刷証明付き部数(THE21、部)
↑ 印刷証明付き部数(THE21、部)

部数が低迷していたのは事実ではあるが、その動向を推し量るすべが無くなるのは残念な話ではある。

不定期刊化し、出入りが激しかった「¥en SPA!」は今期でも顔を見せていない。「¥en SPA!」は2021年12月6日に発売された2022年冬号が最新号で、今期の対象時期には該当しない。以前は半年ぐらいごとに刊行し、部数も1期ごとに公開・非公開を繰り返していたが、2017年4-6月期を最後に公開されないままの状態が続いている。編集部、あるいは出版社がこれまでとは方針を変え、非公開との判断を下したのかもしれない。同誌公式ページでは発行ペースについて「不定期刊」との表記が確認できる(ただし専用の公式サイト「WebYenSPA!」はサーバーそのものが消失している)。

ともあれ「THE21」の非公開化によって、当ジャンルが全部で4誌になってしまったのはさみしい話に違いない。何か新規雑誌を追加したいところではあるが、類似ジャンルで合致しそうな雑誌は(印刷証明付き部数が公開されている範囲では)他に無いのが残念。そもそも雑誌業界そのものの観点においても、ビジネス・金融・マネー誌系で印刷証明付き部数が公開されている雑誌が4誌しかない状況は、大きな問題ではあるのだが。

対象誌の中では「PRESIDENT」が前期から継続する形でトップの部数。部数上で第2位となる「週刊ダイヤモンド」とは2倍以上の差をつけている。その「PRESIDENT」の部数だが、2013年後半から上昇傾向が始まり、2015年1-3月期をピークとしたあとは少し値を落として踊り場状態となっていた。その後、2016年に入ってから大きく下落し、2013年以降の上昇分をほとんど吐き出す形に。2013年までの沈滞期と比べれば5万部ほどの上乗せをした形で、安定期に突入した雰囲気だった。そして2016年の10-12月期に大きな伸びを見せ、その後はほぼ横ばいのままだった。2018年4-6月期以降は減少傾向を示し、数期の踊り場を見せた後、ここ2年ほどで再び、なだらかながらも減少の動きとなっている。

↑ 印刷証明付き部数(PRESIDENT、部)
↑ 印刷証明付き部数(PRESIDENT、部)

同誌は部数動向を見る限りではヒット企画の号で大きく背伸びをし、その余韻を楽しみながら次のヒットの創生を目指すスタイルのように見える。しかし2018年以降はそのスタイルでの部数底上げも上手くいかなくなってしまったようだ。

プラスは2誌…前四半期比較


次に示すのは各誌における、四半期間の印刷証明部数の変移。前期の値からどれほどの変化をしたかを算出している。季節による需要動向の変化を無視した値のため、各雑誌の実情とのぶれがあるものの、手短に状態を知るのには適している。

↑ 印刷証明付き部数変化率(ビジネス・金融・マネー誌、前期比)(2024年4-6月)
↑ 印刷証明付き部数変化率(ビジネス・金融・マネー誌、前期比)(2024年4-6月)

今期では前期比で「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」の2誌が誤差領域(5%内の振れ幅)内でのプラス、「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」がプラスマイナスゼロ、「PRESIDENT」が誤差領域内でのマイナス。

前期比でプラスマイナスゼロだった「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」だが、実のところ長期的な部数動向では緩やかな下落傾向の中にあるものの、ここ数年に限ればほぼ横ばい、現状維持の流れとも解釈できる状態にある。今期の動向も予定調和感がある(2022年7-9月期以降、ゆるやかな減少傾向にあるとも読めるが)。

↑ 印刷証明付き部数(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー、部)
↑ 印刷証明付き部数(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー、部)

「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」はグローバル・マネジメント誌を名乗る経営学誌。1922年にアメリカ合衆国のハーバード・ビジネス・スクールの機関誌として創刊された雑誌で、今では英語以外に11の言語で翻訳され、多数の国で刊行されている。該当期における刊行誌は3誌。

「リーダーの思考法」「企業はどうすれば成長を続けられるのか」「戦略的思考のキャリア論」とビジネスの現状に合わせた魅力的な特集が並び、電子版も用意されている(電子版では割高になるが、特集記事単位で論文として購読することもできる)。もっとも読者の感想の限りでは、読み物としては高評価ではあるが、実用的ではない、具体的な話が無いとの意見も見受けられる。雑誌の方向性の上では難しい話に違いない。何かをきっかけに提唱しているビジネススタイルだけでなく、自誌の部数も上向きへの転換ができればよいのだが。

プラスは皆無…前年同期比動向


続いて前年同期比を算出。こちらは前年の同期の値との比較となることから、季節変動の影響は考えなくてよい。年ベースでの動きのためにやや大雑把とはなるものの、より確証度の高い雑誌の勢いを把握できる。

↑ 印刷証明付き部数変化率(ビジネス・金融・マネー誌、前年同期比)(2024年4-6月)
↑ 印刷証明付き部数変化率(ビジネス・金融・マネー誌、前年同期比)(2024年4-6月)

前年同期比ではプラス誌は皆無で、全誌がマイナス。マイナスの4誌のうち誤差領域を超えたマイナスは「週刊ダイヤモンド」「週刊東洋経済」「PRESIDENT」。

前年同期比ではマイナス7.8%となった「週刊東洋経済」だが、部数動向は緩やかな下落の動きが続いていたものの、2019年半ばから加速化、そして2021年に入ってからようやく下げの動きが止まったように見えた。しかし前期では大きく部数を落とし、節目となる6万部をはじめて割り込んでしまう。今期はいくぶん持ち直したが、それでも6万部にはとどかなかった。

↑ 印刷証明付き部数(週刊東洋経済、部)
↑ 印刷証明付き部数(週刊東洋経済、部)

「週刊東洋経済」は週刊で畳みかけるように世の中のトレンドを捉えた経済方面の特集が多く、これが部数を支えているのだろう。該当期発売号の中では「わかる!地政学」「1億円を目指す資産運用大全」「喰われる自治体」などが、話題性も高く評価も集めている。他方、タブロイド紙的なあおりによる見せ方の記事も少なからずあり(特に公式ウェブサイトに転載されたもので多く見受けられる)、経済誌としての評価は分かれるところではある。



内容の斬新さから注目を集め部数を伸ばしていた「クーリエ・ジャポン(COURRiER Japon)」が、編集方針の変更と思われる内容性向の変化とともに失速し、一部有料のデジタル媒体に移行したこと(2016年4月号で雑誌媒体版としては休刊)で、印刷証明付き部数の開示がなくなってから7年が経過した。昨今の雑誌媒体ではよくあるケースとはいえ、やはり寂しさを覚えさせる。見方を変えると、時流によるところもあるとはいえ、ひとつかじ取りを違えると大きく航路を外してしまう実例なのだろう。

他方、2017年7-9月期に休刊と部数の非公開が決まった「BIG tomorrow」は、特に雑誌の方針変更や評判が悪くなったとの話もない。電子書籍版も展開されており、部数も極端な低迷をしていたわけでも無かった。それゆえに、突然の休刊には驚かされるものがある。何か内なる思惑があるのかもしれない。

定期刊行が続いているにもかかわらず部数を非公開化した「THE21」のケースは残念な話だが、それが編集部なり出版社の方針であるのならば致し方ない。雑誌そのものが休刊とならなかっただけよかったと思わねばならないのが現状ではある(記事執筆現在でも新刊は刊行中)。

コミック系雑誌で進んでいる、定期刊行の雑誌の現時点における電子雑誌化も、今ジャンルでも少しずつだが確実に歩みを進めている。特にビジネス・金融・マネー誌は電子化との相性がよいので、読者の紙媒体からのシフトは大きな動きとなりうる。それに伴い今件「印刷」証明付き部数の動向が、その雑誌の勢いそのものを反映し難くなるのも仕方があるまい。上げ底をせずに厳密な電子版の販売数を合算した、総合的な刊行部数の公開が望まれよう。


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