出版・事業部門と統括管理部門以外は減少…新聞社従業員の部門別推移
2023/11/02 02:00
当サイトでは日本国内における新聞業界の動向について、主に2つのルートから定点観測をしている。一つが日本ABC協会発表の主要新聞社の販売動向。そしてもう一つが日本新聞協会が年ペースで更新している新聞業界全体の各種指標。そのうち後者において、業界全体の売上と従業員に関するデータの更新が確認された。そこで今回は新聞社の従業員数に係わる現状を精査していくことにする。
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データ取得元は日本新聞協会の【調査データ中「部門別従業員数の推移」】。新聞社全体の大まかな部門区分別従業員数の推移に関して、毎年4月時点の値が表記されている。公開データを基に、まずは積み上げグラフを作成し、状況を推し量る。直近年は編集部門、製作・印刷・発送部門、営業部門、その他部門で従業員数が前年比で減少している。
↑ 新聞社・部門別従業員数(人)(各年4月時点)
↑ 出版・事業・電子メディア部門内訳(人)(2015年以降)
中期的な流れとして、グラフでは一番下の部門「編集部門」の減少率がさほど大きくなく、その上の「製作・印刷・発送部門」が大きく数を減らしているのが分かる。単純なリストラ・共有・統合化以外に、新技術(主にIT技術)の導入に伴う人員削減によるところも大きい。また数年前までは時代の流れに対応するため増員したと思われていた「出版・事業・電子メディア部門」も、この数年は減少の一途をたどっていた。
直近年となる2022年の動向としては、編集部門、製作・印刷・発送部門、営業部門、統括・管理部門、その他部門で前年比減少。特に減少率の大きな部門は統括・管理部門でマイナス4.7%。
出版・事業・電子メディア部門は2015年分から「出版・事業部門」と「電子メディア部門」に分割した上の値が公開されるようになり、その内情としてすでに電子メディア部門の方が人数が多いことが明らかにされている。コンテンツの質・量的向上と、デジタル化社会への対応に重点を置くべく、リソースの再配分を行っているようだ。もっとも直近の2022年では電子メディア部門は前年比でマイナス2.8%と減少してしまっている。代わりに出版・事業部門が前年比でプラス8.9%と大幅増に。2022年の1408人は、分割した値が公開されはじめた2015年以降では最大の人数である。出版事業において何らかの動きがあったのだろうか。
続いてこれについて前年比を算出し、その推移をグラフとして作成する。
↑ 新聞社・部門別従業員数(前年比)
各部局内部での新陳代謝(定年退職する人や新入社員の数の違い)もあり、一概に人数だけですべてを断じるのは多少難があるものの、
■製作・印刷・発送部門は前々から人員削減が進んでおり、機械化・デジタル化・システムの共用化は進んでいるが、そろそろ限界が見えてきていた。しかし2012年以降再び大規模な削減が行われている。
■営業部門は削減継続。
■出版・事業・電子メディア部門は2009年からしばらくは増加傾向。電子メディア方面の増強が行われていた模様。しかし2011年以降は削減方向の動きも。もっとも2014年以降は再び増加へ。2015年から出版・事業部門と電子メディア部門が分割公開され、内情的にはすでに電子メディア部門の人員数の方が多い。
■統括・管理部門も減少。2016年以降は増加に転じていたが、2019年以降は再び減少の動き。
などの動向が見て取れる。上記にある通り削減がし易い部門の絶え間ない人員削減が続けられる一方で、少しずつ世情に合わせた体質改善の動きが見えている。
システムの整備や統合に伴う人員削減は、特に製作・印刷・発送部門で大規模に継続している。積み上げグラフを見返してみれば分かる通り、2000年と比べてすでに1/5足らずの人数にまで減っており、さらに減少は続いている。それだけこの部門の効率化、最適化が進んでいるとの解釈もできよう。
そして2023年では全体で前年比3.1%の人員数が減っている。効率化が進んで必要人数が減っているのか、経営上減らさざるを得ないのか、その実情までは分からないが、小さからぬ数字には違いない。
紙媒体における「新聞」の売上(販売部数)が今後増加する見込みは立ちにくい。デジタル方面での収益化も模索段階で、少なくとも現行スタイルの「広告収益」「有料配信による課金収入」の様式では、紙媒体の減少した売上を補完するまでには至っていない(無料購読者はそれなりに多いが広告収益は微々たるもの。有料配信は購読者が期待数には程遠い)。売上の減少は販売収入と広告収入で同時に起きており、新聞社の基礎体力をますます減らしていく。経費部門で大きなウェイトを占める人件費をいかに効率化の上で減らしつつ、「商品」の質を維持しつづけるのか。課題のハードルは高い。
しかもそのハードルの飛び越え方を間違えると、自らの長所すら失いかねない。例えば複数の新聞社では調査の共有化を推し進め、リサーチ費用の削減を狙っているが、情報ソースの画一化は各新聞社の分析能力の低下と相まって、「どの新聞を見ても同じことしか書かれていない」といった個性を損なう状況に自ら追いやってしまう。そして没個性化はさらなる新聞離れを引き起こしかねない。一方、個性、他社との違い・個性を見出そうとするあまり、「報道」の領域を大きく離れ、機関紙・個人紙と何ら変わらない内容の記事を堂々と掲げる新聞が増えているのも否定できない。
業界を構成する人員の減少と、質の減退が比例状況で起きることのないよう、業界関係者には知恵を絞ってほしい。もしそれが叶わないとなれば、販売部数の減少は必然で、マイナススパイラルからの脱出は難しいと断じざるをえまい。
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