60年あまりにわたるバス・タクシー初乗り料金の推移
2023/06/29 02:00
鉄道とともに地域を支える公共インフラ・公的交通機関の代表として知られるバス、そして私営ではあるがより汎用性・柔軟性が高いタクシー。両交通機関は日本社会全体の高齢化や地域の過疎化に伴い、これまで以上に注目を集めつつある。特にバスはコストパフォーマンスの面などで地方の鉄道路線が廃止された後の代替機関として運用されることも多く、さらに最近では【愛らしいリスの名前募集…JR東日本、気仙沼線・大船渡線BRTのキャラクター愛称募集中】で詳しく解説しているBRT(Bus Rapid Transit、バス高速輸送システム。バス専用道路を鉄道網のように作り上げ、その上でバスを運行する仕組み)も普及し始めている。今回はこの両交通機関の初乗り運賃(料金)を調べ、その変動を精査することにした。
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安定感のあるバス、上昇額が大きいタクシー
主要データは類似主旨で作成された【50年前の商品の価格を今の価格と比較してみる】同様に、総務省統計局の【小売物価統計調査(動向編)調査結果】から取得したものを用いる。バス・タクシーともに1958年から初乗り料金が公開されているので、2022年分までは年次データを、2023年分は月次で最新値を適用する。また両者とも該当期間すべての数字を使えるよう、基準値としてもっともふさわしい東京都区部の値を用いている(小売物価統計調査では全国平均値は算出されていない。【小売物価統計調査に関するQ&A(回答) 14 小売物価統計調査では全国平均価格は算出しないのですか?】参照のこと)。
ただし2015年からは該当銘柄の調査対象に一部変更が行われている。バスはそのまま最低料金を対象としており変更はないが、タクシーは初乗り運賃から4キロ走行(昼間)に差し替えられ、連続性が失われてしまった。そこで【東京ハイヤー・タクシー協会のタクシー運賃料金表】から該当値を抽出する。
なお【来月30日から東京で410円タクシーが走ります-東京のタクシー初乗り運賃の引下げなどについて-(国土交通省)】にもある通り、東京都区部と三鷹市、武蔵野市において2017年1月30日以降、タクシーの初乗り料金が「1.052キロまでで410円」に改定された。これまでの「2.000キロまでで730円」とは初乗り分の距離も異なっているが、初乗りには違いないのでグラフにはそのまま利用する。なお旧来の初乗りの距離である2.000キロを新運賃で利用すると、旧来の初乗り料金と同じ730円となる。なおその後初乗り運賃は、2019年10月1日以降において410円が420円に値上げされている。
そして【令和4年11月14日(月)より東京都23区・武蔵野市・三鷹市の運賃が変わります(東京ハイヤー・タクシー協会)】にある通り、2022年11月14日から東京都23区・武蔵野市・三鷹市における初乗り料金が、これまでの420円から500円へと大幅に値上げされることとなった。
↑ バス・タクシー初乗り料金(東京都区部、円)(2023年は直近月)
グラフ中でも説明しているが、1963-1972年分のバス初乗り運賃のデータは、1キロメートル単位となっている。一方、他の期間は1区、あるいは1回分。そのため該当期間の料金は直前直後と比べると数分の一の値となり、やや見苦しい形になってしまう。1962年と1963年のデータを比較して倍率を算出し、該当期の数字を無理やり合成してもよいのだが、それではあまりにも誤差が大きすぎる。さらに初乗り料金には多分に固定費用が上乗せされており、食品のように「分量から均一化」とは勝手が違うので、この計算方法では具合が悪い。そこで今回はあえてそのまま掲載することにした。また、タクシーの2017年における急落の事情は上記説明の通り。
それらイレギュラーな期間を除けば、バス料金・タクシー料金ともに1970年以降は漸次値上げ、1990年代半ば以降はほぼ横ばいの傾向を見せていたことが分かる。ただしタクシー料金は2017年における急落以降、その急落も含めて大きな動きを見せている。またバス料金と比べてタクシー料金は上昇額が大きい。
今件グラフではほとんど変化がないように見えるが、2014年4月からの消費税率改定に伴い、2014年は年次でバスは5円・タクシーは15円の値上がりをしている。2015年以降はバスはそのまま213円を維持、タクシーは2015年に年次で5円引き上げで730円となり、2016年はそのまま、そして2017年は初乗り距離の変更とあわせ、大きく料金が下がる形となっている。2019年10月の消費税率改定ではバス・タクシーともに影響が生じて多少の値上がりが生じたもの、わずかな動きでしかない(タクシーはグラフの表記上、値上がりは2020年からの反映となっている)。
消費者物価の動向を反映させてみると
バスやタクシーなどの公共・半公共交通機関の場合、単純に金額の移り変わりだけでなく、当時の物価を考慮した上で、その変動を考えた場合がよいとの考えもある。これらの交通網は多くの人が繰り返し使う以上、各家計への負担を考えた場合、単純な価格変動だけでは比較が難しいからである(例えば同じ100円でも50年前と今とでは、家計への負担が異なる)。
そこで各年のバス料金・タクシー料金に、それぞれの年の消費者物価指数を考慮した係数を用いた上で比較用の値を算出することにした。【消費者物価の推移】で取得した消費者物価指数の各年の値を参考に、2023年の値をベースとして他の年の料金を計算する。例えば1958年のバス代初乗り料金は92円との値が出ているが、これは「1958年当時の物価が2023年と同じ水準だった場合、バスの初乗り料金は92円になる」次第である。
↑ バス・タクシー初乗り料金(東京都区部、2023年の値を基に消費者物価指数を考慮、円)(2023年は直近月)
料金の上昇時である1970年から1990年半ばにかけては、物価そのものも大きく上昇していることもあり、実質的な負担料金はそれほど大きな変化を見せていないことが、この試算から分かる。特にバス料金は1980年前後からほぼ横ばいを続けており、公共機関としての観点では、優れた料金体制を維持していることになる。一方タクシーはといえば、消費者物価を反映させた上でも、多少ながらも増加を見せている。2017年の急落は距離が縮んでいるためであるが、「初乗り」の概念だけで考えれば大きな値下げには違いない。
普段から利用するバスやタクシーで、何気なく支払っている初乗り料金。それらが半世紀以上の間にどのような推移を見せたかを知れば、ある種の感慨深さを覚えるに違いない。
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