年収300万円未満では59.6%…パソコンの世帯年収別普及率現状
2023/06/11 02:00
昨今ではインターネットへの窓口としてパソコンだけでなくスマートフォンやタブレット型端末も急速に利用者が増え、普及率を上昇させつつある。特に若年層では最初に触れるインターネット端末がスマートフォンとなる場合が多く、そのまま常用を続け、パソコンへの接触機会が学校の授業など最小限のものとなり、キーボードを使う場面が減っているのではないかとの話もよく見聞きする。そしてスマートフォンの普及・キーボード利用機会の少ない若年層の増加背景に、世帯年収が少ない世帯ではパソコンを整備できず、代わりにスマートフォンを用いているとの説も呈されている。今回はそれらの話を検証する際に役立つであろう、パソコンやスマートフォン、さらにはタブレット型端末の世帯年収別普及率などについて、内閣府が定期的に公開している調査結果【消費動向調査】を基に確認していくことにする。
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「消費動向調査」そのものの解説や「世帯」の区分、「普及率」の定義についてはまとめ記事【定期更新記事:主要耐久消費財・普及率(内閣府・消費動向調査)】で説明されている。必要な場合はそちらを参照のこと。また今件では2013年までの回答では明確な定義は無いものの、タブレット型端末は(回答者独自の判断により)いくぶんパソコン扱い(ノートパソコン系)されているものと考えられる。一方2014年以降は回答項目に「タブレット型端末」が新設されて、その誤認は無くなった。
今回は二人以上世帯のみを検証対象とする。単身世帯と二人以上世帯では世帯年収の意味合いが大きく異なるのに加え、主に若年層、とりわけ未成年者のパソコンやスマートフォンの利用機会に関する動向を確認するのが今回の目的であり、他方で未成年者の単身世帯というケースは想定しにくいからである(つまり二人以上世帯において、子供=未成年者や成人直後の若年層が構成員として存在しているケースを想定している。二人以上世帯全部がそれに当てはまるわけではないが、今調査の結果では子供がいる・いない別の区分が無いため、もっとも近い値を精査できる二人以上世帯を対象とした)。
次に示すのは直近の2023年における、世帯年収別パソコン、スマートフォン、タブレット型端末の普及率。1世帯に何台保有していても、あるか無いかのみでの回答なので、100%を超えることはない。なおグラフの表記上、一部の属性では「以上」を省略している。例えば「300-400万円未満」は「300万円以上400万円未満」を意味する。
↑ パソコン・スマートフォン・タブレット型端末普及率(二人以上世帯、世帯年収別)(2023年)
全種類ともおおよそ高世帯年収ほど高普及率を示している。一方でスマートフォンとパソコンは550-750万円未満で普及率がほぼ頭打ちとなる。この動きはいわばカウンターストップ、上限に近付いたためのものと考えられる。見方を変えるとスマートフォンとパソコンは9割台が世帯普及率の上限と見てよいかもしれない。タブレット型端末は950-1200万円未満まで漸次増加し、1200万円以下では値が落ちるため、2/3近くが事実上の上限のようにも見える。
いずれにせよパソコンやスマートフォンなどの普及率は、世帯年収で確実に違ってくる。もっともパソコンとスマートフォンの普及世帯がだぶっていることは多分にありえるため、「スマートフォンがパソコンの代替として用いられている」「スマートフォンがパソコンを取得できない世帯の代用品的立ち位置として存在する」などの立証は、今件データだけでは不可能。
保有世帯における平均保有台数を確認すると、普及率とは少々異なる動きを示しているのが分かる。
↑ パソコン・スマートフォン・タブレット型端末保有世帯あたり平均保有台数(二人以上世帯、世帯年収別、台)(2023年)
パソコンやスマートフォンでは世帯年収とともに上昇する普及率は一定額で頭打ちになるが、それより上の世帯年収でも複数持ち世帯が増え、保有台数は増えていく。パソコン保有世帯に絞っても、世帯年収が300万円未満では1.42台なのに対し、1200万円以上では2.20台となり、0.78台分の差が出ている次第である。世帯人数までの区分は元のデータでもされておらず精査は不可能だが、世帯台数が多ければ各世帯構成員がパソコンに触れる機会は増え、子供専用のパソコンが用意されている可能性も高くなる。他方タブレット型端末は普及率同様、世帯年収の動向に関する天井感はなく、ほぼ世帯年収と連動する形で保有世帯あたりの保有台数も増えていく。
これらの数字を見るに、「パソコン、さらにはスマートフォンやタブレット型端末は世帯年収が高くなるほど普及率は高く、保有世帯における保有台数も多くなる」ことは大雑把ではあるが確定事項と見なしてよい。一方で「パソコンを持てない低年収世帯層が、その代替端末としてスマートフォンを取得するようになった」との仮説を裏付けるまでには至らない。
ただし、これまでパソコンを所有していなかった世帯が、スマートフォンの所有ではじめてインターネットへのアクセス機会を得る事例は多分に考えられる。何しろ世帯年収区分で最低額の層でも8割以上の世帯がスマートフォンを持っているのだから。
ちなみにパソコンの経年・世帯年収別普及率推移は次の通り。
↑ パソコン普及率(二人以上世帯、世帯年収別)
本文にある通り「2013年まではタブレット型端末は多分にパソコン扱いで回答されている」こともあり、2014年における一部層以降の減少は、タブレット型端末の回答項目の独立による可能性がある。しかし一方で全体、そして一部の層で数年にわたる減少傾向が見られるのは注目したい。
さらに今件はあくまでも普及率=保有率であり、新規購入率や常用率ではないことから、たとえ利用度合いが減る、利用しなくなっても、過去にパソコンを購入・利用していれば該当しうる(壊れて使えないものは除く)。まったく必要性を覚えなくなれば、現在所有のパソコンに関する普及率は、じわりと少しずつ、そして確実に減るようになる(廃棄や譲渡、あるいはしまい込む事で「所有している」と認識されなくなることによって)。
あと数年、スマートフォンが単独調査対象項目になってからのデータを取得できるようになれば、インターネットへのアクセスの窓口は「低世帯年収層…ゼロからスマートフォンへ」「高世帯年収層…パソコンからスマートフォン(兼用)へ」といった形での動きが確認できるようになるかもしれない。
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