総合指数は前年同月比マイナス、個別品目前年同月比では食肉、乳製品、油脂が上昇(2024年8月分世界食料価格指数動向)
2024/09/10 09:00
原材料の価格高騰に加え、為替の変動、エネルギーコストや人件費の上昇、需要の拡大などを受け、食料品販売大手や外食チェーン店が続々と価格引き上げを実施する中、食料品の国際価格に対する注目はこれまでにない高まりを示している。その価格変動に関し、概略的ではあるが現状を確認できるのが、国連食糧農業機関(FAO、Food and Agriculture Organization)が公式サイト上で調査結果を毎月公開している【世界食料価格指数(FFPI:FAO Food Price Index)】。今回は2024年9月6日に発表された、現時点で最新版の値となる2024年8月分の値を中心に、当サイトで独自に複数の指標を算出。その値を基にグラフを作成し、食料価格の世界規模における推移を見ていくことにする。
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前年同月比は食肉と乳製品と油脂がプラス
今記事中にあるデータの取得元や各種用語に係わる解説は、一連の記事をまとめ、さらにバックナンバーを収録したページ【世界の食料価格の推移(FAO発表)】で行っている。必要な場合はそちらのページで確認のこと。
まずは最新の値、つまり2024年8月分を含めた取得可能なデータを基に、1990年以降の各種値の推移を折れ線グラフにする。前世紀終盤以降の中長期的な食料価格の変移を大まかに、大局的な視点で確認できる。いわゆる「ざっと見」用の図である。
なお以前は2002-2004年の平均値を基準値の100として計算していたのに対し、2020年6月分からは2014-2016年の平均値を基準値の100として計算した結果となっている。相対的な値の変化であり、絶対値としては変わりはないのだが、昔の値だから新しい値に変えたという理由は分かるものの、2014-2016年は値が乱高下していた時期であり、なぜそのような時期のものを基準値とするのか、いささか首を傾げるところがあるのは否定できない。
↑ 食料価格指数
おおよそ2005年位まではさほど大きな動きを示していないが、2005年終盤以降になると少しずつ価格が変化、しかも上昇方向に動き始める。その後直近の数年にわたる金融危機の引き金となる「サブプライムローンショック」(2007年夏以降)が起きるとともに、大きく上向きの流れを見せる。
これらの動きは、主に株式市場の暴落を原因とする。要は投資市場の資金が暴落した株式市場から逃げ、その行く先に商品先物市場が目を付けられた次第。そして市場規模は商品先物市場の方が小さいため、過剰な資金流入とともに全体の価格が底上げされ、それは実商品価格の上昇をも招くこととなる。
その後は「リーマンショック」(2008年9月以降)を起因とする市場の騒乱を経て大きく乱高下を成したあと、高値安定状態に移行。数年にわたり各食品項目とも100前後の領域で小幅な値の動きに終始していたのが分かる。ほんの10年ほど前の水準であった60-80前後と比べ、5割増しから2倍程度の領域。
もっとも2014年夏以降に限れば、おおむね下落基調の中に。おおよそ80-100の領域内での動きとなっている。元々動きが激しい砂糖に限れば60近くまで値を下げることもある。
なお各指標が明らかに値を下げ始めた2014年夏は、原油価格が下落を始めた時期でもあり、タイミングが一致している。偶然の一致か、あるいは何らかの連動性があるのかは、今件各指標からだけでは確認ができない。昨今では世界情勢の変化と需給の変動に原油価格は敏感な反応を示しているため(【原油先物(WTI)価格の推移】)、食料価格指数との連動性を見極めるのは難しい。これら一連の動きは、中国経済の後退を予見した・連動しているのではないかとの話もあるが、あくまでも推測レベルの話にとどまっている。
下落当時のFAOによるレポートにおける下落基調の理由にも、多分に同国の需要減退が挙げられており、まったくの的外れとも言い難い(同国の影響力の大きさに関しては、以前乳製品の価格が急上昇したのは、一人っ子政策の終了に伴う粉ミルクの需要急増によるところが大きいと解説されていたのが好例)。
一方で2020年末あたりからの上昇ぶりが、単なるリバウンドや誤差の領域ではなく、本格的な勢いの動きだったことも分かる。当然これは新型コロナウイルスの流行で落ちこんでいた経済が、ワクチンの開発・接種の浸透で回復するだろうとの期待によるもの。特に油脂の上昇ぶりが著しく、金融危機時につけた最大値すら超えている。昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響が上昇度合いに拍車をかける形となっていた。特に油脂の上昇が著しく、グラフ上でも異様に見える。また穀物も異様な高値を示した。もっともその両者はその後に大きな下落を見せているのも確認できる。
次に示すグラフは、上記グラフの横軸における対象期間を短縮し、表記開始を2007年1月にしたもの。2007年といえば7月・8月から、「サブプライム・ローン」問題がぼっ発(露呈)し、市場は大変動の動きを示した年。昨今の食料価格に大きな影響を与えた金融危機直前からの食料価格の動向を、より詳しく知ることができるグラフとなっている。
↑ 食料価格指数(2007年1月以降)
興味深いのは上記でも言及している通り、「サブプライム・ローン」問題のぼっ発「以前から」、食料品価格はやや高値に動き始めていた事実。一般に同問題が知られる前より食料市場は「知っていた」のか、それとも人口増加に伴う消費増加による、中期的な食料需給の変化が市場に反映されていたのか、それともその双方なのか。残念ながらこのデータからのみでは因果関係の判断は不可能。
名目GDPの動きを見る限り、新興国の経済発展が加速度的な動きを見せはじめたのは2005年頃から。その動きと各指数の上昇タイミングはほぼ一致している。「知っていた」ではなく、人口増加による需給バランスの変化が指数の底上げの主要因だったと見た方が道理は通る。そしてその仮説が主要因として事実であるとすれば、上記に挙げた昨今の各指数の減退に関する推測もまた、つじつまが合うものとなる。唯一砂糖は投機性が高く気象変動にも容易に影響を受けるため、それらの状況とはあまり関係がなく上げ下げしているとの解釈も併せてできよう。
期間軸を短くしても食肉価格が他の食品と比べてゆるやかな動きではあるが確実に、じわじわと上昇していたことが確認できる。それとともにその食肉以外は2011年前半をピークとしておおよそ下げ基調にあったと見て取れる。そして唯一値を上げていた食肉ですらも、上記にある通り2014年夏以降は下落の動きを示す形となった。何らかの確実な変化が、2014年夏あたりから生じていることを覚えさせる流れではある。
2020年3月以降はすべての指標で下げ基調に転じており、大きなトレンド転換が生じていたことがうかがえる。恐らくは新型コロナウイルスの流行による経済の停滞を見た上での反応だろう。しかし2020年6月以降では底打ち反転の動きを示し、急激な上昇ぶりを見せている。経済停滞の底値、そしてワクチン開発・接種による景況感と消費の回復を見越してのものだろう。特に油脂の上昇ぶりが著しい。油ものと甘味は贅沢品の代名詞だが、油脂が先行する形で大きく上昇したのに対し、砂糖はやや出遅れ状態なのは興味深いところではある。もっとも油脂の需要は単純に食品としてのものに限らず、経済の復調で生じる燃料需要の拡大にも影響されるため、加速しての動きとなるのだが。
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争が、特に穀物に大きな影響を与えている。当事国のウクライナもロシアもともに、穀物の大手輸出国であるからだ。2022年夏あたりから失速しているが、それでも戦争前と比べるとまだ高い水準にあることに違いはない。
前月比と前年同月比の動き
最新、そして直近1年ほどの値の動きを確認するために、各指標の時系列データを抽出し、「前年同月比」と「前月比」を独自に算出。その数字の変移が分かりやすいように棒グラフ化したのが次の図。それぞれの品目ごとに、前年同月比は青、前月比は赤で記している。
↑ 食料価格指数(前年同月比・前月比)(2024年8月)
総合指数は前月比でマイナス0.2%、前年同月比でマイナス3.1%。食料価格はこの一年間では下落し、昨今ではほんのわずかながら下落の動きをしているようだ。
個別品目の動向を見ると、前月比では乳製品、油脂の品目で上昇、前年同月比では食肉、乳製品、油脂が上昇。
今回月では前年同月比と前月比ともにプラスとなった乳製品についてリリースでは「乳製品ではすべての詳細品目が上昇し、中でも全粉乳はスポット輸入需要の急増と主要産地の在庫ひっ迫で一番の上昇を示している。バターと脱脂粉乳も上昇し、中でもバターは市場最高値を付けたが、これはオセアニアの需要縮小や季節動向による供給増加という値下がり要素があったにもかかわらず、短期・長期供給に対する需要の拡大懸念、西ヨーロッパの供給量の不確実性により、値上がりしたという。チーズはヨーロッパの在庫量の限定化、生産量減少、そして世界規模での需要増加で値上がり」とある。
農林水産省の最新レポートで現状を確認
今記事で毎月連動性のある、付随的資料として精査している【農林水産省の食料安全保障月報】の最新版、2024年8月30日に更新された2024年8月分をざっとではあるが確認する(2021年6月発表分までは「海外食料需給レポート」だった)。最新レポートによると、国際的な穀物生産に関して、トウモロコシで減少、小麦・米で増加。全体では増加で28.30億トン。他方、消費量は小麦、トウモロコシ、米で増加。全体では増加で28.37億トン。そして期末在庫量見込みは7.70億トン。
日本国内に限れば昨今では原材料費の上昇が、生産各方面に影響しつつある。世界全体の価格動向と併せ、注視をしたい。また新型コロナウイルスの影響で農作業にたずさわる人の確保ができず、生産が滞るリスクも指摘されている。さらに物流でも人手不足の懸念がある。そしてロシアによるウクライナへの侵略戦争は大きな影響を与えているのが実情。これらが価格にどのように反映されるのか、気になるところではある。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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