全体では前年同月比プラス30円の1185円、フード系は1150円…アルバイトの時給動向
2024/08/21 14:00
雇用市場における需給関係の変化は建設業やパート・アルバイト界隈で特に活発化しており、単なる人手不足の動向にとどまらず、その状況を起因としたさまざまな方面への影響が話題に上り、ニュースとして配信される。その一面は【建設業界の人手不足状況】でお伝えしている通りだが、今回は非正規雇用の中でもメインとなるパート・アルバイトの時給の推移を通し、市場動向をかいま見ることにする。
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パートやアルバイトの時給動向に係わる定点観測データは、公的機関では残念ながら見当たらない。国税局では正規・非正規別の賃金動向を収録しているものの、こちらは2012年分以降のもののみで、中期的な変化の動向を推し量ることはできない。今回はリクルートの調査研究機関「ジョブズリサーチセンター」が「TOWNWORK」「fromA navi」に掲載された求人情報を集計しまとめ、リクルートが公開しているデータを用い、その動向を確認していくことにする(【リクルートホールディングス・プレスリリース】)。
直近データとなる2024年7月分では、業種別は大分類で販売・サービス系、フード系、製造・物流・清掃系、事務系、営業系、専門職系に区分されている。また地域別では主要エリア別、三大都市圏(首都圏・東海・関西)、全国の平均額などが確認できる。このうち長期時系列のデータ取得が容易な三大都市圏の分について、全体額、さらには日常生活で見聞きすることが多くしばしば話題にも上る販売・サービス系(例:レジ、販売、コンビニスタッフ、チラシやパンフ配布など)とフード系(飲食店のホールスタッフ、ファストフードなど)、そして専門職系のうち介護スタッフに焦点を絞り、値を抽出していくことにする。
なおデータの上で2011年10月までと11月以降とでは細かい業態部分の再整理における平均額算出に関して、再計算が行われた・いないの違いが生じているため、厳密にはデータの連続性は無い。もっともその影響は最小限にとどめられているため、大きな差異は生じていないと見ても実質的には問題はない。
また2022年3月までと4月以降では集計対象媒体・職種分類の変更が行われ、集計対象の求人も拡大されていることから、前後の値の間にデータの連続性は無い。今記事の上では、公開され次第逐次新しい基準の数字に入れ替えて計算している。前月比・前年同月比は常に新基準の上での値となるが、グラフの形状は不自然なものとなってしまっている。
まずは全体的なパート・アルバイトの募集時における平均時給の推移を確認する。各グラフには直近月の値に加え、描写範囲内の最高額・最低額の月の具体的な額などを示しておく。
↑ パート・アルバイト募集時平均時給(三大都市圏、全体、円)(リクルート)
最低額は意外にも金融危機ぼっ発前の2007年4月における928円。以降900円台後半にまで上昇し、ほぼ一定額のボックス圏内で推移する。なお毎年特定の時期に大きく跳ねるようすが見られるが、これは年末(12月)におけるかきいれどきの求人で、相場が上昇するようすが表れている。
金融危機やリーマンショック(2008年9月)の影響もほとんど受けておらず、意外な感はある。ただしよく見ると、リーマンショックよりはむしろその後の震災、極度の円高による不況の影響をいくぶん受けているような雰囲気を覚える。また2013年以降は年末のピークの後の下げ方も限定的なものとなり、2014年に限れば夏以降高止まりしているのが分かる。そして2015年は踊り場から上昇再開の動き。
2015年までは最高額は同年12月における986円だった。毎年12月は繁忙期の真っただ中で高い値をつける傾向があるため、一段と大きな額ではあった。ところが2016年に入って同年6月には、その額すら超えた988円を示し、記録の限りでは過去最高額を更新する形となった。そして同年12月には当時で過去最高額の1006円を示す。その後も上下を繰り返しながらも全般的には上昇を続け、今回月はこれまでの最高額となる2024年2月の1192円は下回る1185円。前年同月は1155円なのでプラス30円、2.6%の上昇。
続いて販売・サービス系。
↑ パート・アルバイト募集時平均時給(三大都市圏、販売・サービス系、円)(リクルート)
最低額を示した時期が金融危機ぼっ発前であることは全体額動向と変わりはなし。またリーマンショックの影響を大きく受けていることもよく分かる。一方で2014年までは最高額は震災がおきた2011年の年末につけており、それ以降はむしろ安定の流れにあった。また毎年12月がピークとなる動きも同じ。ただしリーマンショック後の数年はその定石が崩れたパターンを示しており、いかにアルバイト市場に大きな打撃を与えていたかが分かる形となっている。
だが2015年に入ってからは毎年ピークになる12月に向けて上昇の動きが加速し、2017年では11月から12月にかけてそれまでの最高額となる1012円に。その後も上下を繰り返しながら上昇傾向は継続したが、新型コロナウイルスの流行以降はその勢いも止まり、大きく失速。そしてその後は再び上昇傾向を見せている。今回月は2024年2月・2024年4月・2024年6月に記録したこれまでの最高額1154円を上回る1162円で最高額を更新。前年同月は1127円なので35円のプラス、3.1%の上昇。
続いてフード系。パート・アルバイトの時給が景気動向に連動するか否かの視点で見ると、もっとも典型的な動きを示している。
↑ パート・アルバイト募集時平均時給(三大都市圏、フード系、円)(リクルート)
最低額を示したのは震災直後の2011年4月で893円。それ以前は金融危機ぼっ発後もあまり変わらず、リーマンショック以降じりじりと下げている。そして震災以降は一様に上昇…にも見えるがよく精査し直すと2012年夏から2013年夏ぐらいまではほぼ横ばい、それ以降は再び上昇カーブを強めながら推移していたが、新型コロナウイルスの流行以降はその勢いも止まり、低迷感は否めない状態だった。2021年夏以降は持ち直している。
今回月は過去最高額を示した2024年5月の1154円は下回る1150円。前年同月の1114円からは36円のプラス、3.2%の上昇となる。
最後は介護スタッフ。本項目は2012年7月から調査対象として採用されたため、グラフの作成期間もそれに従っている。
↑ パート・アルバイト募集時平均時給(三大都市圏、介護スタッフ、円)(リクルート)
ややばらつきが大きいものの、2014年末まではほぼ960円から980円のボックス圏で推移している。それが2015年に入ってから大きな上昇を見せ始め、2015年5月には初めて1000円の大台を突破した。その後少々値を落として再び3ケタ台に戻してしまったが、2015年11月ではこれまで最高額だった同年9月の1016円をさらに超え、最高額の1023円を記録。その後はしばらく値を落とし、再び上昇に。
今回月はこれまで過去最高額だった2022年9月・2024年6月の1279円を下回る1278円。前年同月は1222円だったため、プラス56円、4.6%の上昇となる。
全体的にパートやアルバイトの時給は少しずつ上昇傾向にある。需給の関係から考察すれば、求職者以上に求人が増え、賃金を引き上げることで求人を充足させようとする動きの中にあると見てよいだろう。他の記事で触れている「非正規雇用の就業者が増加している」実態と併せると、少なくともパートやアルバイトの雇用市場では、就業する立場にある人から見て、情勢は好転していると判断して問題はない。
2020年2月あたりからは新型コロナウイルスの流行による営業自粛や来客減少の影響と思われる下落、あるいは上昇スピードの鈍化の動きがあった。しかしその後、新規感染者数の減少や5類感染症移行とともに、再上昇の動きとなっている。
ちなみに同じくリクルートジョブズによる定期公開データから、派遣スタッフ募集時の平均時給動向を見た結果が次のグラフ(こちらも2024年6月分が最新データとなっている)。
↑ 派遣スタッフ募集時平均時給(三大都市圏・全体、円)(リクルートジョブズ)
金融危機ぼっ発後の下落、リーマンショックによる加速、その後の復調、震災や円高不況による低迷、そして回復基調。これまでの最高額は旧基準も合わせると2018年3月・2024年5月の1670円。今回月は過去最高額は下回る1668円。前年同月比はプラス2.5%。2020年5月以降、イレギュラーのようにも見える上昇ぶりから下落することなく、高い値を維持し、前年同月比も5%以上を超える高い割合の上昇幅を示していたものの、ようやく上昇ぶりは落ち着いてきたところだ。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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