回復に戻る動きか。物価高への懸念は引き続き強く…2024年7月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き上昇
2024/08/08 15:00
内閣府は2024年8月8日付で2024年7月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇となる47.5を示したが、基準値の50.0を下回る状態は継続することとなった。先行き判断DIは前回月比で上昇して48.3となったものの、基準値の50.0を下回る状態は継続する形に。結果として、現状上昇・先行き上昇の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和6年7月調査(令和6年8月8日公表):景気ウォッチャー調査】)。
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現状は上昇、先行きも上昇
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2024年7月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは48.3。
→詳細項目は「飲食関連」「製造業」以外のすべての項目で上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「サービス関連」「非製造業」。
・先行き判断DIは前回月比でプラス0.4ポイントの48.3。
→原数値では「よくなる」「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「ややよくなる」が減少。原数値DIは48.6。
→詳細項目は「小売関連」「住宅関連」「雇用関連」が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」のみ。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2024年7月では円安や物価高に対する防衛意識などがマイナスの影響を与えている一方で、人の流れの活性化や長期休暇がプラスの影響を与えており、前月比ではプラスの結果となった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2024年7月では現状判断同様に円安の悪影響や商品価格の値上げへの不安がマイナス要素としてあるものの、観光客をはじめとする人の流れの活性化や、電気・ガス代への補助金再開への期待があり、前月比では上昇した。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。
↑ 景気の現状判断DI(〜2024年7月)
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに円安で悪影響を受ける企業も多いが、人流増加のプラス影響は力強く、今回月ではほとんどの部門で前月比プラスを示している。しかし今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「サービス関連」「非製造業」のみ。
続いて先行き判断DI。
↑ 景気の先行き判断DI(〜2024年7月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「飲食関連」のみ。物価上昇、具体的には電気料金の値上げや、半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争、さらには円安が足を引っ張っているが、現状同様に人流増加のプラス影響は力強く、特に観光客に対する期待は大きく、「小売関連」「住宅関連」「雇用関連」以外の部門で前月比プラスを示している。
人流増加の流れと、物価高や円安と
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・インバウンドの増加や夏休みに伴う需要により、高稼働が続いている。客室単価についても、8月は前年を大きく上回っている(都市型ホテル)。
・7月に入り、梅雨明けと同時に猛暑が続いており、季節商材の動きがよい。また、国内需要も定額減税、ボーナス商戦で高額の耐久消費財の動きもよい。インバウンドも好調を維持している(家電量販店)。
・気温が高くなったことで外出が少なくなっているため、人出が悪く販売量が減少している(商店街)。
・商品、サービスの値上がりが続き、節約志向が更に強まっている(スーパー)。
■先行き
・東北地域は紅葉が見頃のよい季節になるため、インバウンドが多くなるとみている(都市型ホテル)。
・高額品の動きが引き続き堅調であり、夏ボーナス、今春の賃上げ効果が徐々に出てきていると見受けられる。また、8月から10月には政府による電気・ガス代の補助金が再開するため、景気はややよくなるとみられる(百貨店)。
・物価上昇の影響で、客の節約志向が予想以上に続いている(商店街)。
・暑さが続き、秋物需要に影響があるとみている(衣料品専門店)。
インバウンドなどによる人流の増加で商売が好調との声が複数確認できる。今後に関しても観光客の増加がよい結果をもたらすのではとの期待がある。一方、夏の暑さで恩恵を受ける向きと、売上が減少する向きがあり、世の中の難しさを感じさせる。
一方、秋に関しても、紅葉に期待する声と、残暑のために季節ものが動きにくくなるのではとの懸念という、相反する動きが見受けられる。
企業動向では景気のよい話と悪い話の両方が出ている。
・タオルの店頭販売が最も多くなる時期であり、今年も順調である。特にインバウンド向け、また、土産品として手軽に購入できる小物の発注が多い(繊維工業)。
・用紙、インク代などの消耗資材価格が高騰している。また、受注率も低下している(出版・印刷・同関連産業)。
■先行き
・自動車関連の生産回復により、四輪車用、オートバイ用共に製品の受注量が伸びている。また、円安も追い風となり輸出が特によい(一般機械器具製造業)。
・受注は緩やかな増加傾向であるが、原材料および物流費の値上げによる製造原価上昇で収益面が懸念される(窯業土石業)。
需要の回復や先行きの期待感が見られる一方で、物価上昇によるしわ寄せを受けている企業の話も目にとまる。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
・求人案件に比べて求職者の動きが鈍く、マッチングにつながらないため人手不足が続いている(人材派遣会社)。
■先行き
・製造業の新規求人数が減少したものの、宿泊業及び飲食業の新規求人数が増加している。全体としては大きな変化はない(職業安定所)。
労働市場におけるアンバランス感が継続しているようすがうかがえる。また、製造業の新規求人数が減少したという、気になる言及も目にとまる。製造原価上昇が影響しているのだろうか。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスの流行だが、感染症法上における5類感染症への移行によって、世間一般では沈静化に向かっているとの認識が強い。しかし現状では感染者数は沈静化と認識できるほどの減り方はしておらず、むしろ増加の傾向にあると表現してもよいのが実情。後遺症のリスクも含め、感染しないように十分な注意をしなければいけない状態に変わりはない。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気料金をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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