全体ではプラス1.1%で不足感、左官と鉄筋工(土木)に大きな不足感あり…建設業界の人手不足状況(2024年6月分まで)
2024/07/25 14:00
以前掲載した記事【建設業界の人手不足状況(2014年3月時点)】において、国土交通省の定点観測的調査「建設労働需給調査」の値を基に、建設業界の人材不足状況を当時の最新データ分について精査した。今回は2024年7月25日に発表された最新版となる2024年6月分までを含め、今データを用い、中長期的な同業界の人材不足感の推移を確認する。ここ数年の不足感の実情を、過去との比較で見ていくことになる(【発表リリース:建設労働需給調査結果】)。
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建設業界の人材過不足率を長期的に見ていく
「建設労働需給調査」の調査概要、および過不足率の算出方法は先行記事の「建設業界の人手不足状況(2014年3月時点)」にある通り。まずは時系列データを容易に取得可能な1994年分以降について、月次の全体的な過不足率の推移を確認する。これは中長期的な変移を見ることから、季節調整を行った上での値を採用する。また、いわゆる金融危機が発生した2007年以降に限ったグラフも併記する。数字そのものはプラスの値が大きいほど不足感が強く、マイナスほど過剰感が強い。
↑ 建設技能労働者過不足率(季節調整済み、プラス:不足、8職種合計)
↑ 建設技能労働者過不足率(季節調整済み、プラス:不足、8職種合計)(2007年1月以降)
金融危機ぼっ発直前の2006年9月に一度不足感のピークを迎えるも、それ以降は不況化に伴い建設需要も低迷し、併せて人材も過剰気味となる。リーマンショックを経て2009年10月には最低値のマイナス2.0%を示し、以降は徐々に回復の兆しを見せる。
グラフの限りでは東日本大震災の2011年3月が一つのトリガーに見える。震災直後は混乱状態にあったものの、数か月後から復興需要に併せる形で人材不足が顕著化し、過不足率は1%台を推移する。そして政情の変化(2012年冬)、東京オリンピック開催決定(2013年9月)、さらには消費税率改定に伴う個人向け住宅を中心とする駆け込み需要の発生(2013年後期に顕著化)など、建設市場の需要拡大と人材不足を後押しする事象が相次ぎ、それに伴い過不足率も上昇していく。
ここ数年に限れば、データをすぐに取得できる1993年以降では最大の値を示した2014年3月のプラス3.4%をピークとし、そこから低下する動きを示していた。その当時と比べると人材不足の声がトーンダウンしている現状も、数字の上で裏付けができる。2021年末あたりから再び値は上昇の動きを示したが、すぐに失速してしまった。
現時点で最新となる2024年6月の全体的な季節調整済みの過不足率はプラス1.1%。全体としては不足感がある状態。前回月比ではプラス0.3%ポイントを示し、不足感は増加。地域別の季節調整値で確認すると、東北で不足感が強まったようだ。
業種別過不足率動向
続いて示すのは、震災直前の2010年12月以降における、8職種それぞれの過不足率動向。
↑ 建設労働需給過不足率(季節調整済み、職種別)(2010年12月以降)
↑ 建設労働需給過不足率(季節調整済み、職種別)(2024年6月)
建設業界全体での動向とはまた別に、業種別でもそれぞれ異なる動きを示していることが分かる。例えば電工は2014年初頭度に突然大きな不足感に見舞われたが、それも鎮静化したこと(ただし慢性的な不足感はほぼ継続している)、型わく工やとび工は2013年の春先から不足感が強まり(消費税率改定に伴う住宅需要の急増に伴うものだろう)、高止まりのまま推移していること、鉄筋工(建設)は震災を機に不足感が強まり大きな不足感が生じていたが、昨今では2014年後半同様に過剰感が生じていた、そして2017年後半以降は再び大きな不足感に転じたが最近ようやく収束し、そのあとは過不足感が繰り返されていたが、2022年に入ってから急激な不足感が生じている。特に鉄筋工(建設)の不足感の増加はイレギュラー的なものとしてグラフでも顕著な形で表れている。最近では左官、配管工、鉄筋工(土木)の不足ぶりが目にとまる。
一方で、全体値の推移からも分かる通り、多くの職種で不足感が蔓延している。最新分となる2024年6月では型わく工(建築)以外のすべての職種で不足感があり、左官、とび工、鉄筋工(土木)、配管工で前回月からの不足感の増加が確認できる。
「建設労働需給調査」の今後の予想項目では、困難さが和らぐ状況がしばらく続いていた。2024年8月の見通しでは前年同月比で「普通」「容易」が増え、「困難」「やや困難」「容易」「やや容易」が減っている。2024年9月の見通しでは「普通」「容易」が増え、「困難」が減っている。不足感への動きは改善しているように見える。
他方、残業・休日作業を実施している現場数、いわゆる強化現場数の動向を確認すると、「前工程の工事遅延」の率が27.6%と高い値を示しており、工程そのものが押している感は強い。一方「無理な受注」は15.5%。発注の無理な押し込みも少なからず生じているようだ。
今件は景気ウォッチャーにおける雇用関連のDI値動向とともに、今後も逐次動きを確認していくことにしよう。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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