1950年と比べて8.91倍…過去70年あまりにわたる消費者物価の推移
2023/06/27 02:00
商品やサービスの価格の上昇や下落は、日常生活では大きな関心事の一つ。継続的に購入する物品の上下を確認し続けることで、ある程度物価の状況は推し量れるが、定価の存在する商品は価格が日夜変動するわけではなく、また個人ベースでの観察では限度があり、偏りも生じてしまう。そこである一定領域(国や自治体)を対象とし、多様な商品・サービス価格の動向を定点観察して、物価の動きを指数化した「消費者物価指数」について、今記事では長期間の動向の確認を行うことにする。
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消費者物価指数、1950年以降の動きを知る
一定期間以上の月日が離れた時期において、商品やサービスの価格の高い・安いを判断する時に、単純に金額の移り変わりだけを物差しにするのは賢い手口ではない。物価の変動を考慮する必要がある。例えば50年前の100円と今現在の100円では、額面は100円で同じでも、買えるものには大きな違いが生じている。金額に対する価値に、違いが生じているからだ。
その価値を標準化するための「指針」が「消費者物価指数」である。これは【総務省統計局の定義】によれば次の通り。
つまりは全般的な視点から、物価が昔と比べてどれだけ上下したかのかを推し量れる指針という次第。
総務省統計局の消費者物価指数の収録場所を確認したが、一定期間より前のものは未掲載となっている。そこで日本銀行の【消費者物価指数に関する掲載データ(公表資料・広報活動「昭和40年の1万円を、今のお金に換算するとどの位になりますか?」)】に掲載されている表組から、「消費者が購入する際の商品およびサービスの価格(全国)」を確認し、その値「持家の帰属家賃を除く総合(年平均)」を用いることにした。
年ベースまで算出されている2022年はそのままトレースして入力。2023年分については総務省統計局の【消費者物価指数(CPI)結果】の「全国 の概況」からe-Statで最新月分となる4月分のうち、日銀で用いた値と同じ項目「持家の帰属家賃を除く総合」を抽出し適用。その上で1950年の値を基準値の1.00として、値の変動をグラフ化したのが次の図。
↑ 消費者物価指数(全国、持家の帰属家賃を除く総合、年次、1950年の値を1.00とした時)(2023年分は直近月の値)
このグラフは例えば、1950年に100円だった商品が2023年には約891円の価格をつけていることを意味する。当然商品によって上昇幅は大きく異なり、さらに「73年前と現在で同じ品質・量・需給関係の商品が存在するのか」との問題もある。例外的なものに卵が挙げられそうだが、それとて品質・分量はほぼ同じなものの、需給関係は大いに変化している。今件はあくまでも概念・参考値として、物価変動そのもののの動きを知るためのデータとして見るのが賢明である。
その「全般的な物価動向」だが、1990年代頭までは概して上昇を継続していた、つまり物価は上昇していた。表現を変えると「インフレが進んでいた」ことになる。中でも1970年代から1990年前後までは急激な上昇を示しているが、この期間に「高度経済成長」「オイルショック」(2回分)「ニクソン・ショック」などが起きており、これら複数の要因が物価を押し上げたことが理解できる。
そして1990年以降は物価はほぼ横ばい。「消費者物価指数」を構成する商品やサービスそのものに、消費者の一般生活とのかい離があるとの指摘もあるが、それを指し引いたとしても、この20年間ほどは物価が安定していると評せる。ただし後述するように、2014年以降はいくぶん、そしてこの数年はやや急な形で上昇しているようだ。
1991年以降に絞って詳しく消費者物価指数の動向を確認する
さらに最近の動向が分かりやすいよう、1991年以降にに絞ったグラフも作成した。こちらは基準値を1991年の値にしている。上記グラフの値とは単純比較できないので要注意。
↑ 消費者物価指数(全国、持家の帰属家賃を除く総合、年次、1991年の値を1.00とした時)(1991年以降、2023年分は直近月の値)
2013年までは物価は上昇してもせいぜい3.2%(1.032、つまりプラス3.2%)しか上昇していない。1991年以降は踊り場を経て上昇したが21世紀に入ると(金融危機ぼっ発後の2008年に、資源高騰に伴う物価上昇が特異な動きなものの)全般的には下げ基調にあった。特に2009年以降は確実な下落を示していた。いわゆる「デフレ感」を裏付ける一つの結果といえる。
2014年4月に実施された消費税率の引き上げ(5%から8%)は、ややイレギュラーな動きとなる影響を及ぼしているように見える(消費税率が3%から5%に引き上げられた1997年にも盛り上がりが確認できる)。その後もじわりと値は上昇し、2021年以降は急激な増え方となり、2023年(4月の時点)ではやや前年から落ち込むことになる。前者はロシアによるウクライナへの侵略戦争(前哨戦含む)が世界にもたらした資源価格などの高騰が影響している。後者は政府が2023年1月使用分から実施している「電気・ガス価格激変緩和対策事業」によるところが大きい。
そこで2013年以降に限り、同様の条件で月次ベースの動向を記した次のグラフで、詳しく見ていくことにする。
↑ 消費者物価指数(全国、持家の帰属家賃を除く総合、月次、2020年の年平均値を100.0とした時)(2013年1月以降)
2014年3月から4月にかけて、有意な増加が発生している。これは消費者物価指数の解説ページ【消費者物価指数では、消費税はどのように扱われているのですか】で説明されている通り、「世帯が消費する財・サービスの価格の変動を測定することを目的としていることから、商品やサービスと一体となって徴収される消費税分を含めた消費者が実際に支払う価格を用いて作成されて」いるからに他ならない。つまり消費税率の引き上げに伴い、支払金額が上昇した分だけ、消費者物価指数も上昇した次第である。
2014年5月まで上昇は続き、それ以降は横ばい、2014年の年末から2015年の頭まではむしろいくぶん下げ基調を見せていたが、その後上昇。しかしそれ以降はもみ合いを見せ、全体的には2015年の年平均基準値100.0をはさんだ動きに終始していた。ただし2017年夏以降はわずかずつだが上昇の気配の中にある。また、2021年夏ぐらいからは大きな上昇の動きがあるが、これは後述するように原油価格の上昇に連動する形で生じている、光熱費の上昇によるところが大きい。
一方で2019年10月に実施された消費税率の引き上げ(8%から10%)では、少なくとも今グラフ上では影響を確認できない。これも解説ページで書かれている通り、消費者物価指数の対象品目の少なからずにおいて経過措置が適用されているのと、食品などに適用される軽減税率によるものと考えられる。
震災後は家計を圧迫する要因の一つだった光熱費関連は、原油価格の動向に大きな影響を受ける。2015年夏以降は値を大きく落としたが、2017年に入ってからは上昇に転じ、その動きは2019年初頭まで続いた。そして2021年以降の直近の上昇の動きも、原油価格の上昇をはじめとするロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じた資源価格高騰の結果に他ならない。
↑ 消費者物価指数(全国、光熱費関連、月次、2020年の年平均値を100.0とした時)(2013年1月以降)
「他の光熱費」とは灯油などを指す。電気代・ガス代の負担が2015年から2016年にかけて家計の観点で軽減されていた、そして2017年以降は再び圧迫しつつある傾向は【電気代・ガス代の出費動向】などでも指摘している通り。2019年初頭以降は原油価格やLNGの下落に連動する形で漸減の動きを示している。そして2021年夏ぐらいからの大きな上昇の動きは注目に値する。特に「他の光熱費」の上昇幅が大きなものとなっている。2022年2月以降の電気代とガス代の急な下落は、上記でも記した通り、政府が2023年1月使用分から実施している「電気・ガス価格激変緩和対策事業」によるものである(1月使用分は2月支払いのため)。
他方、食料に限定すると、消費者物価指数はほぼ一方的に上昇しつつある。
↑ 消費者物価指数(全国、食料、月次、2020年の年平均値を100.0とした時)(2013年1月以降)
対象商品の回転率が高く短期間で消費されやすいことに加え、原材料費の上昇だけでなくエネルギーコストや人件費からも大きな影響を受けることから(一部で言及されている「便乗値上げ」の類ではない)、このような一本調子の上昇を示す形となっている。
物価の安定、さらには下落は消費最小単位の家計から見れば、よいことづくめのように見える。可処分所得が同じならば、消費財の価格が下落することで、実質的な購買力は上昇する。
しかし外食産業や建設業の事例に代表される通り、デフレ化が続くと、小売業、さらにはそこに商品を卸す輸送・生産を行う製造業への負担は蓄積されてしまう。同じ数だけ商品を販売できても、今までより金額上の売上が減るのだから、結果として利益も減る。しかもコスト(原材料だけで無く人件費なども含む)はあまり変わらないので(人件費は正社員の場合、解雇以外では容易には下げられない)、利益は圧迫される。調整がしやすい非正規雇用が増え、正社員も厳しい状態が続く。
物価のゆるやかな上昇は、需要が活性化することを中心にした経済の発展も意味している。1970年以降の動きが好例である。その観点から物価を眺めると、前世紀末期以降、日本経済はほぼ停滞していることになる。長期にわたるデフレ経済が喜ぶべき類のものなのか、今一度考えねばなるまい。一方で2021年以降のロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じた資源価格高騰を要因とする急激な物価高と、それに追い付かない給与水準といった状況も、好ましい話ではないことは言うまでもない。
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