回復の流れは後ずさり継続。令和6年能登半島地震の影響根深く、さらに物価高への懸念強く…2024年5月景気ウォッチャー調査は現状下落・先行き下落
2024/06/10 15:00
内閣府は2024年6月10日付で2024年5月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落となる45.7を示し、基準値の50.0を下回る状態は継続することとなった。先行き判断DIは前回月比で下落して46.3となり、基準値の50.0を下回る状態が継続する形に。結果として、現状下落・先行き下落の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる。また、令和6年能登半島地震の影響もみられる。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和6年5月調査(令和6年6月10日公表):景気ウォッチャー調査】)。
スポンサードリンク
現状は下落、先行きも下落
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2024年5月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」が減少。原数値DIは46.8。
→詳細項目は「住宅関連」以外のすべての項目で下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「非製造業」のみ。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス2.2ポイントの46.3。
→原数値では「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは47.7。
→詳細項目は「住宅関連」のみが上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「雇用関連」のみ。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2024年5月では人の流れの活性化がプラスの影響を与えているものの、物価高や令和6年能登半島地震、4月からの値上げや負担増に対する防衛意識などがマイナスの影響を与えており、前月比ではマイナスの結果となった。特に電気料金値上げの影響が大きい。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2024年5月では人の流れの活性化への期待がある一方で、円安の悪影響や商品価格の値上げへの不安などがマイナス要素となり、前月比では下落した。先行き判断でも電気料金値上げの影響が大きく出ている。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。
↑ 景気の現状判断DI(〜2024年5月)
昨今では人流増加のプラス影響は力強いものの、ロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに円安で悪影響を受ける企業も多く、今回月ではほとんどの部門で前月比マイナスを示している。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「非製造業」のみ。
続いて先行き判断DI。
↑ 景気の先行き判断DI(〜2024年5月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「雇用関連」のみ。物価上昇、具体的には電気料金の値上げや、半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争、さらには円安が足を引っ張っており、ほとんどの部門で前月比マイナスを示している。
電気料金値上げや物価高への不安と円安と
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・宿泊は、外国人の個人旅行者が増加している。宴会も新型コロナウイルス感染症発生前の状態に戻った印象を受ける(都市型ホテル)。
・ゴールデンウィーク時にはファミリー層が多く来店したほか、母の日ギフトの購入者が多く推移している(百貨店)。
・電気料金の値上げや物価の高騰により、生活必需品以外の販売量が減少している。日々の生活で必要な物のみ購入されることが多く、買上点数の減少が顕著となっている(コンビニ)。
・テレビなどでも取り上げられたキャベツの高騰など、天候不順による野菜の価格高騰は影響が大きい。スイカも高止まりしており、仕入れをちゅうちょせざるを得ない状況に追い込まれている(スーパー)。
■先行き
・人の動きが新型コロナウイルス感染症発生前に戻りつつあると実感している。また、インバウンドを含め、観光が更に活発になると想定している(百貨店)。
・定額減税やボーナスの支給による影響のほか、気温の上昇によるエアコンの需要増加で、前年の売上は上回る見込みである。ただし、商品単価の上昇による影響がどう出るかは見通せない(家電量販店)。
・物価上昇が先行しているため支出が増えており、節約しながら生活している。加えて、電気代が高騰することで更に家計を見直す必要があり、厳しい状況が続くと考えられる(その他飲食の動向を把握できる者[酒卸売])。
・円安の影響が引き続きあり、輸入商材を中心に販売量が伸びないとみている(一般小売店[書店])。
インバウンドなどによる人流の増加で商売が好調との声が複数確認できる。季節イベントも活性化しているようだ。一方、電気料金や野菜価格など、生活に身近なところでの値上げが生活に大きな影響を与えていることも確認できる。前回月同様に、円安の悪影響を不安視する声も見受けられる。
企業動向では景気のよい話と悪い話の両方が出ている。
・新年度受注分の着工期を迎えて、想定を上回るペースで現場稼働が本格化している。技術職員の配置もほぼ完了している(建設業)。
・商材価格を上げてこれからというときに、また原材料の値上げの話が来ている。これでは値上げが追い付かない(食料品製造業)。
■先行き
・生成AI向け高付加価値DRAM関連の設備投資に関して顧客から具体的な問合せが来ており、受注増加につながる可能性が高くなっている(電気機械器具製造業)。
・主要取引先の生産は徐々に戻ってきているものの、当初の生産計画までは戻っていない。先の見えない状態が続いている(輸送用機械器具製造業)。
世の中の流れに上手く乗った形で堅調さを見せるところもあれば、コスト高に頭を抱えるところもある。「先の見えない状態」を感じているのは、コメントした企業だけに限るまい。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
・前年と比較して悪化している。賃上げムードが高まるなかで年収アップを目指した転職希望者が多く、賃上げに対応し切れていない中小企業への応募が極端に減少している印象を受ける(人材派遣会社)。
■先行き
・人材派遣の需要は業界問わず底堅い見通しだが、企業が求めている人材が少ないため、マッチしないことが多い(人材派遣会社)。
一部で報じられている、人手確保のための賃金基準引き上げが続く中で、対応が困難な中小企業が人手不足に陥りやすくなっている実情が確認できる。他方、人材派遣会社で「企業が求めている人材が少ないため」とのコメントが出ているのを見るに、企業に非正規ではなく正規の社員として雇用する動きが強まっているのではないかとの推測ができる。あるいは単に、企業が求めるスキルや経験を持つ人がいないだけの話なのかもしれない(その場合も人材派遣会社に勤めるのではなく、直接雇用を狙えるためそちらにシフトしてしまい、人材派遣会社側の人材が少なくなってしまったまでの可能性はあるが)。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスの流行だが、感染症法上における5類感染症への移行によって、世間一般では沈静化に向かっているとの認識が強い。しかし現状では感染者数は沈静化と認識できるほどの減り方はしておらず、後遺症のリスクも含め、感染しないように十分な注意をしなければいけない状態に変わりはない。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気料金をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
■関連記事:
【人手不足というけれど、原材料不足とどこが違うのだろう】
【原油先物(WTI)価格の推移(最新)】
【政府への要望、社会保障に景気対策、高齢社会対策(最新)】
【「税抜き価格表示」消費者の支持は2.3%のみ、一番人気は「税込価格・本体・消費税」の現行スタイル】
【20.3兆円、消費税率1%につき約2兆円の安定税収…消費税と税収の関係(最新)】
【電気代・ガス代の出費性向(家計調査報告(家計収支編))(最新)】
スポンサードリンク