30年あまりにわたる広告費推移(上)…4マス+ネット動向編(特定サービス産業動態統計調査)

2023/03/08 02:00

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経済産業省は2023年2月16日、特定サービス産業動態統計調査の収録データにおいて、年次ベースの時系列表の更新を行った。当サイトでは同データのうち広告費の主要項目について月次ベースのものを逐次【経産省広告売上推移(経済産業省・特定サービス産業動態統計調査)】として分析しているが、今回は年単位における中長期的な動きを確認していくことにする。

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伸びるネット、落ち込む新聞、そしてテレビは…金額推移


「特定サービス産業動態統計調査」の時系列データは1988年以降のものが収録されている。そこで1988年から今回新規登録された2022年分のものまでについて精査を行う。

なお2005年までは一般広告の項目にインターネット(広告)が含まれていること(2006年から分離された)、電通が同時期に発表している「日本の広告費(に関する調査報告)」における衛星メディア関連広告が区分されておらず、一般広告に含まれていることなど、他の類似記事とはいくぶん各項目区分に違いがある。そのことに留意した上で、各値を確認してほしい。

まずは直近分となる2022年における各項目の金額累計。区分は月次の報告に関する分析記事と同じにしている。

↑ 媒体別広告費(億円)(2022年)
↑ 媒体別広告費(億円)(2022年)

全体の額をグラフ内に盛り込んだために他の項目があまり目立たない形となっているが、テレビ単独の金額の大きさ、インターネットの実情、屋外などの一般広告の市場規模などが改めて確認できる。テレビは単独で年間1兆2949億円、インターネットは1兆4402億円の広告市場を持っている。

続いて積み上げグラフによる推移確認。従来型4大メディア(いわゆる「4マス」)を黒枠で囲い、区分として見やすくしている。また、月次精査記事で取り上げている4マスとインターネットに関して、その推移を折れ線グラフ化したのも追加しておく。

↑ 媒体別広告費(積み上げグラフ、億円)
↑ 媒体別広告費(積み上げグラフ、億円)

↑ 媒体別広告費(4マスとインターネット、億円)
↑ 媒体別広告費(4マスとインターネット、億円)

広告費は景気と高い連動性・正の比例的関係がある。景気がよい時は広告費も大きくなり、景気が後退すると広告費も減少する。とりわけ直近ではリーマンショックの影響を大きく反映し、2009年が前年から格段と落ち込み、2010年以降は順調に持ち直し動きを見せていた。2016年に至るまで、6年連続して前年比でプラスを示していたのが見て取れる。2017年以降は前年比でいくぶんの減少を示していたが、これは4マスの減り方が大きいのが主要因。さらに2020年ではあからさまな減少の動きが起きているが(積み上げグラフの全体値や、折れ線グラフのテレビが特によく分かる)、これは言うまでもなく新型コロナウイルス流行による経済活動の後退で生じたものである。直近の2022年では、多少回復した2021年より失速し、インターネット以外では前年比で減少、広告費全体も減っている。ロシアによるウクライナへの侵略戦争を主な原因として生じている物価高(がもたらしている不景気感)が多分に影響しているのだろう。そして当然ながら新型コロナウイルス流行直前となる2019年の水準までには戻っていない。

また、それとは別に各媒体の事情、例えばテレビは2000年前後がピークで、それ以降は減少の一途をたどり、さらにリーマンショックで大きな影響を受けたこと、その後は少しずつ金額を戻してはいるが、金融危機以前の水準までにはまだ届いていないこと、さらにここ数年では失速に動きを転じていることが分かる。そして2021年ははじめて「インターネットの広告費がテレビの広告費を上回った」年だったが、直近2022年でもその状態が継続しているのが確認できる。

4マスとインターネット以外の一般広告(積み上げグラフの緑の部分)は、やはりリーマンショックの影響による急激な落ち込みを除けば、比較的堅調に推移していたことなどが確認できる。ただし2017年以降は4マス同様に漸減中。

折れ線グラフで明確化しているが、月次ベースでは2013年でほぼ確定した「新聞とインターネットの逆転現象」(【新聞とネットの順位交代…今年一年の従来4マスとインターネットの広告売上動向を振り返ってみる(2013年)】)が、年次ベースではすでに2012年の時点で起きていることが確認できる。それ以降、差は開くばかりの状態。

機会を改めて触れることにするが、例えば雑誌はこの10年で半減を超える減少ぶり。ラジオは3割を超える減少。「広告費」と「利用率・媒体力」はそのまま直結するわけではないものの(景気動向やライバル媒体とのパワーバランス、そしてコストの観点での効率化も影響する)、激動する時代、そしてメディアの変貌の実情を感じさせる。

広告費全体に占めるシェアでパワーバランスを知る


次に構成比推移。要は「その年の広告費全体(一般広告含む)のうち、各項目はどれほどのシェアを占めていたのか」を意味するグラフ。相対的なパワーバランスを知ることが出来る。

↑ 媒体別広告費(構成比)
↑ 媒体別広告費(構成比)

↑ 媒体別広告費(構成比)(2022年)
↑ 媒体別広告費(構成比)(2022年)

上記にある通り、公開データでインターネットが独立項目として反映されるようになったのは2006年から。その時期から4マスとインターネットの合計シェアはほぼ同じ比率を示し、インターネット広告が他の4マスを浸食しているようすがはっきりと分かる。記録の限りでは、インターネットが項目として登場して以来、毎年シェアは増加し続けている(2011年から2012年はグラフの表記上7.4%と横ばいを示しているが、実数としてはそれぞれ7.37%、7.42%である)。

また2010年時点では前年比でシェア増加の動きすらみられたテレビも2011年以降はシェアを落とし続けている(2013年から2014年の流れではグラフ表記上は同一値に見えるが、少数第2位まで算出すると2013年が26.84%、2014年が26.83%となり、0.01%ポイントの減少となる)。

一方インターネット以外では2011年以降、一般広告が大きな伸びを示す形となった。これは多分に「特定サービス産業動態統計調査」、そして博報堂の広告費動向で言及しているように、東日本大震災の影響、例えば強制的節電に伴い、電力消費での配慮があまり要らない一般広告への再注目の影響によるところが大きい。しかし新型コロナウイルスの流行という特殊環境下にされされたことから、2020年に大きく落ち込み、それ以降は広告費の上ではもみ合いの動きとなっている。

昨今では4マスやインターネット、さらには一般広告にも分類し難い、複合型あるいは別仕様の広告が多数登場し、既存の区分に該当しない広告の売上が「その他」にまとめて放り込まれている感はある(現状では一般広告として計算している)。結果として「その他」が大きく肥大した形。金額面だけを見ても2011年以降は急傾斜の上昇を続けている。ここ数年でようやく急上昇にブレーキがかかったという程度(2020年以降の下落は新型コロナウイルスの流行によるもので、「その他」に限った話ではない)。

↑ 媒体別広告費(「その他」、億円)
↑ 媒体別広告費(「その他」、億円)

この現象もまた、月次の「特定サービス産業動態統計調査」、そして博報堂の広告費動向で生じているもので、広告費の状況把握の上では必ずしも好ましいものではない。今後何らかの形で細分化が成されることを期待したい。



2011年3月の震災の影響は少なからず広告業界・広告費にも影響を与えており、一部はいまだにその爪痕を残しているが、全体的な「震災前からの流れ」は継続中。むしろ震災によってその流れが加速化した感がある。今件は広告費の推移であり、部数・視聴者数の推移や媒体力、その業界の売上とはまた別のものだが、それぞれの媒体の「パワー」を示す一つの指針との認識で間違いない。

上記グラフで黒枠を用いて囲った各メディアは今世紀に入ってから、特にこの数年、胸を張って第三者に誇れるようなものではない、色々と大人げない、過去の実績・権威を汚すような動きをしている。とりわけ震災以後、頭に疑問符を浮かべてしまう質、内容、姿勢の動向を感じる人も少なくあるまい。そのような動きの原因の一つとして、今件データが示す実情を受けての「焦り」があるとする解釈は、決して的外れなものでは無かろう。


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