全紙前年同期比マイナス、産経は12.21%の最大下げ率…新聞の販売部数実情(2021年後期・半期分版)
2022/08/16 03:00
当サイトでは主に年単位で日本新聞協会発表の公式データを基にした、そして半年単位で更新されている日本ABC協会「新聞発行社レポート 半期」の内容を基に、日本の新聞業界の動向を精査している。その後者について2021年後(半年)期の分のデータ掲載を確認することができた。そこで今回はその値を基に、日本の主要新聞社の新聞における販売部数の現状を確認していくことにする。
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前年同期比では全紙マイナス、最大部数減少は朝日
まずは主要全国紙、具体的には読売新聞・朝日新聞・毎日新聞・日本経済新聞(日経新聞)・産経新聞の計5紙における「販売部数」。これは【読売新聞広告ガイド】からリンクをたどり、【販売部数の公開ページ】に掲載されている各種資料から、不定期ではあるが取得することができる。今回更新が確認できたのは2021年後期(7-12月)分。前回取得した値は2020年後期分のため、1年ぶりの値となり、半年分が空いてしまっているが、取得できない以上、仕方がない。
今値は該当半年間における平均値であること、朝刊「販売」部数のみで夕刊は含まれないことに留意する必要がある。また電子版は含まれておらず、紙媒体としての新聞販売部数に限定されている。
↑ 2021年後期における主要全国紙の朝刊販売部数(万部)
部数トップの読売新聞は数年前まで「販売部数1000万部超」をセールスコピーとして用いていた。他紙と比べて「ケタが違う」部数はそれだけで大きなセールスポイントとして呈することができた(「いっせんまん」の言葉の響きは大きなパワーがある)。しかし2011年前期でその大台を割り込み、以後販売部数の減少が続いている。
読売新聞に続く部数を示しているのは朝日新聞、そこから部数を半分以下に減らして毎日新聞、日経新聞、そして産経新聞が続いている。各新聞社の順位はこの数年、少なくとも当サイトで各紙の部数動向の精査を始めて以来変化は皆無。しかし各新聞の部数の差異から考察する限りでは、毎日新聞と日経新聞との間で順位変動が起きる可能性が一番高い。ここ数期の間、毎日新聞の部数減少度合いが著しいため、あと数期で両紙の間で順位変動が起きるかもしれない。実際、両紙の部数差は14万部ほどでしかない。
読売新聞が部数の上で他紙と比べて優位な位置を維持しているのは、【「東洋経済の2010年 2/20号 特集:再生か破滅か……新聞・テレビ 断末魔」】によると「ホテルなどへの営業が功を奏している」のが大きな要因とのこと。ただしここ数年は下げ幅が大きくなっていることから、それらの場面での需要も減っている可能性はある。
全紙マイナス、産経は12%強もの下げ幅
続いて部数動向などを基に独自算出した値を用い、複数の比較グラフを作成し、状況のより詳しい精査を行うことにする。まずは1つ前のデータ、今回ならば2020年後期との差異を計算したもの。単純計算で、1年の間の変動部数を確認できる。
↑ 2021年後期における主要全国紙の朝刊販売部数変移(2020年後期との比較、変化率)
↑ 2021年後期における主要全国紙の朝刊販売部数変移(2020年後期との比較、万部)
昨今新聞業界はデジタルツールの普及、その普及に伴う情報取得のハードルの低下によって業界の内部体質の実情が明らかとなり、また軽減税率に絡んだ新聞業界の主張における世間一般の思惑とのかい離ぶり、そして朝日新聞の「二つの吉田問題」やモリカケ問題に関する報道姿勢など、新聞そのものの意義や信頼性が大きく問われる情報が次々と明らかにされている。各種調査でも全国紙に対する存在意義が改めて問われるような結果が出ているが、それが色濃く残る結果が数字となって表れている。
最大の下げ幅を示したのは産経新聞で12.21%。1年で1割強もの部数が失われたと表現すれば、その衝撃がどれほどのものかは容易に理解できよう。続いて大きな下げ幅を示したのは日経新聞の10.41%、そして朝日新聞の7.56%、読売新聞の4.55%の下落。毎日新聞は4.26%の下落。
部数そのものの増減では、朝日新聞のマイナス37.42万部がもっとも減少部数が大きく、読売新聞のマイナス33.62万部が続いている。それぞれ単純計算で、およそ毎月2.1万部・1.9万部の減少が生じていることになる。
世帯普及率も増加紙無し
最後に世帯普及率の算出。これは全世帯に対して各新聞(朝刊)が届いている世帯の比率を表したもの。例えば読売新聞は11.84%とあるので、大体8世帯に1世帯は読売新聞を購読していることになる。なお今件値は日本国内における販売数(即売分や郵送販売分などは含まず)と住民基本台帳に基づく該当年の世帯数から算出している。
↑ 主要全国紙の世帯普及率(2020年後期・2021年後期)
朝刊は世帯単位で定期購読される場合が多く、また世帯構成員全体が目を通す可能性が高い。未成年者が新聞の閲読機会を得るとすれば、多分に世帯購入の新聞によるものだろう。今件は単純な朝刊の販売部数よりも新聞市場・業界のすう勢を推し量る指標として有意義な値である。これを見ても読売新聞の絶対的なポジションをはじめとした、各主要紙の現状がつかみ取れる。
注意事項を挙げるとすれば、世帯普及率の動向は、漸増する世帯数にも影響を受ける点。人口は漸減しているものの、一人暮らし世帯が(若年層と高齢層で)増えるため、世帯数は増える。そして一人暮らしの世帯では新聞の購読率は落ちるため(読み手が一人しかおらずコストパフォーマンスが低くなる、世帯収入が二人以上世帯より低いので可処分所得が下がり、新聞購入の余裕が無くなる)、世帯普及率はマイナスのプレッシャーを受ける形となる。
各紙の販売部数の減少の一つの要因に、購読者の一部が紙媒体版から電子版に切り替えたため、紙媒体の新聞販売部数としてはカウントされなくなったのでは、との説が挙げられる。各紙とも何らかの形で電子版を展開しているが、定期的に展開状況が把握できる値を公開しているのは日経新聞のみ。「現時点で」容易に取得可能な最新のデータとしては【日本経済新聞 媒体資料】が確認できるが、それらによると2022年7月時点で
・朝刊(紙媒体)販売部数(2022年6月)…173万334部
・電子版有料会員数…83万201
となる。最初の数字で販売部数ではなく購読数の表現が用いられているのは、今件のABC考査による朝刊の部数(紙媒体発行部数)に電子版有料会員数を合算したため。紙媒体の新聞のみを朝刊の販売部数とするなら173万334だが、有料電子版も朝刊の販売とみなせば256万535となる。ただし双方媒体を同時取得しているケース(日経Wプラン、紙と電子版の双方を読むパターン)が多分にあるため、媒体を問わずに日経新聞を取得している契約者・世帯数はもう少し少ないものとなる(一人で2部新聞を購入しても、販売部数は2部に違いないため、電子版と紙媒体版の重複購入でもそれぞれをカウントすべきとの考えも間違いではないが)。
電子版でも有料ならば新聞の販売には違いないとの解釈ならば、日経新聞の朝刊販売部数は256万535部となる。この値は毎日新聞の紙媒体版(198万2267部)を抜いている。毎日新聞の有料電子版が多くの購読者を得ていれば日経新聞に抜かれることはないが、その真偽を確かめることはかなわない。公開できるだけの実績を挙げていれば、電子版の有料会員数、つまり紙媒体の購読者の代替的な存在数について、定期的に公知ができるはずであり、それが行われていない現状からは色々と察せざるを得ない(毎日新聞でも紙媒体版を購読するだけで電子媒体版の一部機能を利用できる「宅配購読者 無料プラン」もあるのだが)。
これは毎日新聞に限った話ではなく、むしろ日経新聞の堅調さが稀有な例なのだろう。ちなみに日経新聞の有料・無料を問わずの電子版会員数は550万人(2020年3月31日時点)とのこと。
インターネットの普及、スマートフォンやタブレット型端末の浸透に伴い、情報の取得スタイルは大幅に変化し、メディアの価値観は変動を続けている。その荒波を乗り越え、しかも新聞としての大義を忘れることなく品質を維持し、新時代の担い手として支持を得続けることができるか否か。努力と検証、そして決断が求められている。その選択の正しさは、部数にも反映されるに違いない。
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