回復の流れは後ずさり。令和6年能登半島地震の影響根深く、さらに物価高への懸念強く…2024年4月景気ウォッチャー調査は現状下落・先行き下落
2024/05/10 15:00

内閣府は2024年4月8日付で2024年3月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落となる47.4を示し、基準値の50.0を下回る状態は継続することとなった。先行き判断DIは前回月比で下落して48.5となり、基準値の50.0を下回る状態となった。結果として、現状下落・先行き下落の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる。また、令和6年能登半島地震の影響もみられる。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和6年4月調査(令和6年5月10日公表):景気ウォッチャー調査】)。
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現状は下落、先行きも下落
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2024年3月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「やや悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」「悪くなっている」が減少。原数値DIは50.2。
→詳細項目はすべての項目で下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「非製造業」のみ。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス2.7ポイントの48.5。
→原数値では「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」が減少。原数値DIは49.3。
→詳細項目は「雇用関連」が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「雇用関連」のみ。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。

↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2024年4月では人の流れの活性化がプラスの影響を与えているものの、物価高や令和6年能登半島地震、4月からの値上げや負担増に対する防衛意識などがマイナスの影響を与えており、前月比ではマイナスの結果となった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2024年4月では人の流れの活性化への期待がある一方で、円安の悪影響や商品価格の値上げへの不安などがマイナス要素となり、前月比では下落した。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。

↑ 景気の現状判断DI(〜2024年4月)
昨今では人流増加のプラス影響は力強いものの、ロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに円安で悪影響を受ける企業も多く、今回月では前月比でマイナスを示している。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「非製造業」のみ。
続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(〜2024年3月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「雇用関連」のみ。物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争、さらには円安が足を引っ張っており、前月比でマイナスを示している。
物価高への不安と円安と
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・国内来訪者数は大きな伸びとはいえないが、外国人来訪者数は順調に伸びている。地域のイベントなどもほぼ通常どおり実施されている。いよいよ修学旅行のシーズンに入ってくる(旅行代理店)。
・今年は4月中に桜が満開となり、観光地の来客数の動きが良い。また、ゴールデンウィーク前半も好天に恵まれ、売上も好調に推移している(コンビニ)。
・客の来店頻度や1人当たりの買上点数の減少が続いている。1品単価は上昇し続けているが、そのことが消費を抑制させる要因となっている。消費が伸びておらず、景気後退の状況にあると懸念している(スーパー)。
・円安を受けた値上げの影響が大きい。1つ1つは小さな値上げだが、家計への影響が大きいことを消費者は重く受け止めており、購入量が減少している(その他飲食[ワイン輸入])。
■先行き
・今年の夏は暑くなるため、いつもより季節商材の動きが良くなる(家電量販店)。
・現在は物価の上昇が先行しているが、今年度の賃上げ効果が出てくると、売上にも好影響が出ると予想している(百貨店)。
・急速な円安傾向が継続すれば、各種値上げとこれに伴う家計防衛により、消費が減退することが大いに危惧される(その他小売[ショッピングセンター])。
・円安の影響で輸入品の値上がりが止まらない。余り単価が高くなると売上は伸び悩むことになる(衣料品専門店)。
インバウンドなどによる人流の増加で商売が好調との声が複数確認できる。人流増加による需要増加を期待する声と、値上げによる消費減退への不安が綱引きをしているようではある。他方、複数で円安の悪影響を不安視する声が見受けられる。このたぐいの話は、好影響の話は出てこないだけに、余計に目立つ形となっている。
企業動向では特に円安による影響が確認できる。
・新年度がスタートしたなか、官民共、順調な受注状況となっており、既に新年度計画を達成できるだけの工事量を確保できつつある。3月の降雪で遅れていた雪解けが一気に進み、工事着手の準備が想定よりも速いペースで進んでいることもプラスである(建設業)。
・円安が一段と進んでおり、材料などの価格高騰が深刻である。自動車関連が相変わらず不調で、更に天候不順の影響もあり、受注量が減少している(パルプ・紙・紙加工品製造業)。
■先行き
・円安で価格競争力は高止まりしており、欧米向け受注が回復する兆しがある(一般機械器具製造業)。
・物流費の高騰に加え、円安の影響により海外原材料、商品の仕入価格が高騰しており、すぐに製品価格に転嫁できず、利益が圧迫されると予想される(食料品製造業)。
企業の業務構造で円安がプラスとなるかマイナスとなるか、はっきりと分かれた形のコメント集となった。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
・求人広告に対しての求職者数の反応が鈍く、人手不足感が続いている(人材派遣会社)。
■先行き
・事業所を訪問すると、不況の業界は一部でみられるものの、中小企業も厳しい状況で賃上げを行うなど、求人条件の変更に比較的応じてくれている(職業安定所)。
求職者にとっては嬉しい話が確認できる。一方で、求人側も状況を正しく認識し、苦しい中での対応をしているようすが見て取れる。人材の不足は単純な労働者不足よりむしろ、多分に(現状の認識が甘い)求人側が求める雇用条件下での求職者不足でしかないことを再認識させられる。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスの流行だが、感染症法上における5類感染症への移行によって、世間一般では沈静化に向かっているとの認識が強い。しかし現状では感染者数は沈静化と認識できるほどの減り方はしておらず、後遺症のリスクも含め、感染しないように十分な注意をしなければいけない状態に変わりはない。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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