大きな増加傾向を見せる中国…主要国の軍事費推移
2023/05/11 02:00
国際的な軍事研究機関のストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research Institute、SIPRI)では先日2022年における各国の軍事動向を記したレポート【発表リリース:World military expenditure reaches new record high as European spending surges】を公開、それをもとに先行記事【主要国の軍事費】にある通り、主要国の軍事費動向を確認した。今回はそのレポートも含め同研究所が公開している各値を用い、主要国の軍事費推移を確認していくことにする。
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抜きん出る米中
先行記事の通り、直近2022年において軍事関連支出がもっとも大きかった国はアメリカ合衆国、次いで中国、ロシアが続いている。無論これは額面だけの話で、軍事力そのもののパワーバランスはまた別の話となるが、指標の一つには違いない。
↑ 主要国軍事費(米ドル換算で軍事費上位15位、*は推定値、億米ドル)(2022年)(再録)
そこで2022年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国における、冷戦終結間際以降の軍事費動向を確認したのが次のグラフ。各国とも少なからぬ通貨価値の変動や国内情勢の変化、経済の伸張が生じているが、特にロシアでは1991年末までソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)として成立しており、以後所属共和国のいくつかが分離独立し、主要通貨ルーブルの大変動や構成地域の変容を経て現在に至る、大きな変化が生じている。
↑ 主要国軍事費(2022年時点の米ドル換算で軍事費上位5か国、各年米ドル換算、億米ドル)
↑ 主要国軍事費(2022年時点の米ドル換算で軍事費上位6-10位の国、各年米ドル換算、億米ドル)
↑ 主要国軍事費(2022年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国から米中ロ抜き、各年米ドル換算、億米ドル)
比較をし易いよう縦軸の区分を揃えたところ、6位以降の国の動向グラフがほぼ底辺にはいつくばる形となってしまった。それほど上位国の軍事費が圧倒的なのは理解できるが、それ以降の上位国動向がまったく分からない。そこで上位の米中、そして過去においてはアメリカ合衆国に次ぐ値を示していたロシアをのぞいた形で縦軸を調整し、もう一つグラフを新たに作成している。
ロシアはソ連崩壊時からロシアへの再構築の際に統括エリアが減ってしまったことに加え、通貨ルーブルが暴落したことから、値はソ連時代と比べてロシア時代は低いままとなっている。代わりに台頭したのが中国で、特に経済成長が顕著となった2005年前後からは飛躍的な伸びを示している。
米中露をのぞいた上位陣で見ると、いずれも増加している…ように見えるが、サウジアラビアやインドのような新興国の勾配がやや大きく、伸びが急に見える。一方でフランスやイギリス、ドイツ、日本などは2007年の金融危機ぼっ発以降横ばい、あるいは漸減の動きに転じているのが分かる。金融危機は軍事費への注力に関し、先進国・新興国双方にとって一つのターニングポイントとなったようだ(日本は極度な円安が重なった時期は大きな増加を示しているが)。また韓国が今世紀に入ってからは軍事費が伸び続けていることも確認できる。
なおサウジアラビアが2016年に大きく下落し、その後は大きな上下を繰り返しているのは、先行記事で解説の通り他国への軍事援助額が示されていないため。突然軍縮にかじを切ったわけではない。
自国通貨で上昇度合いを見ると!?
次に米ドルベースなどの対外額面ではなく、それぞれの自国通貨の額面における軍事費の推移を確認する。もちろん個々の国で単位通貨は異なるので、2022年における米ドル換算上の上位10国を対象に、額面が取得可能な1992年分の値を基準値とし(ロシアは1991年分が無く、それ以前はソ連の値なので大きな断絶が生じており、基準値として用いるのは問題が生じる)、その基準値の何倍に当たるかを算出し、その動向を見ていくことにした…のだが。
↑ 主要国軍事費(2022年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国、自国通貨における1992年分からの倍率)
ロシアのみが突出した値となり、それ以外の国はほぼ底面にへばりついたグラフができあがってしまった。これはソ連崩壊後のロシアにおいて、自国通貨ルーブルの大暴落(ロシア通貨危機)が生じたのが原因。少々古い資料になるが内閣府の経済社会総合研究所による【ロシアの為替政策 ロシアの経験から学ぶもの(PDF)】などにその状況が詳しく書かれている。ソ連邦の崩壊と市場経済移行の際の不手際、混乱などで、先進国の現代史の中では記録に残るほどの通貨下落が生じている。具体的な例として
といった話が挙げられている。その後も右往左往する通貨政策にルーブルは下落、暴落を続け、これが軍事費の「自国通貨における額面上の」急上昇の一因となったことは間違いない。米ドルベースで換算した前項目のグラフを見れば、その実態も把握できるはずだ。
とはいえこれでは少々問題がある。そこでロシアをのぞいて再構築したのが次のグラフ。
↑ 主要国軍事費(2022年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国からロシア抜き、自国通貨における1992年分からの倍率)
やはり中国、そしてインドの伸び率が著しい。また韓国やサウジアラビアも大きな上昇率を見せている。それ以外の国は自国通貨の額面上でも、さほど大きな変化は示していないことも確認できる。
シンプルに差が分かるよう、基準値の1992年と直近の2022年を比較し変動倍率を算出したのが次のグラフ。やはりロシアが特異値を出してしまうため、ロシアをのぞいたグラフも併記しておく。
↑ 主要国軍事費(自国通貨における1992年分からの倍率、2022年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国)(2022年)
↑ 主要国軍事費(自国通貨における1992年分からの倍率、2022年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国からロシア抜き)(2022年)
国内通貨上の額面でも中国とインドが大きく増加している状況が改めて確認できる。もちろん30年の間にはそれぞれの国でインフレも進行しているため、いくぶん差し引きをする必要はあるが、軍事費上位国のうち少なくともこれらの国が大きく軍事費を上乗せしていることが改めて理解できよう。
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