全局視聴率下落…主要テレビ局の直近視聴率(2023年3月期下半期・通期)

2023/06/01 02:00

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従来型4マス、つまりテレビ・新聞・雑誌・ラジオの中では最大の広告市場規模と媒体力を誇り、昨今の広告市場動向を見るに復調の兆しを示しているとも評されているテレビ。そのテレビにおいて、各局の権威、メディア力、力量を推し量る一つの指針となるのが「視聴率」。雑誌や新聞なら購読者数に該当するこの値は、テレビ全体のすう勢とともに、各局のパワーバランスを見決めるのにも欠かせない。今サイトではテレビ局のうちキー局でもあり上場を(直接、あるいは間接的に)果たしている企業の(半期)決算短信資料などを基に、ほぼ半年間隔でキー局の動向を確認している。今回は2023年5月付で発表された各社の決算短信資料などを基に、2023年3月期(2022年4月-2023年3月)における下期、そして通期の(世帯)視聴率動向をチェックしていく。

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全日はテレ朝、プライムもテレ朝がトップ


日本国内のテレビ局における視聴率は以前【「テレビをつけている時間」と「視聴時間」、「視聴率」を考え直してみる】で解説したように、現在ではビデオリサーチ社のみが計測を実施している。上場テレビ局・企業では各社が程度の差はあれど投資家への経営の状況判断材料として、短信資料で視聴率の提示を行っている。しかしいずれの資料もビデオリサーチ社提供の値を基にしているため、基本的に同じものとなる。

なお【タイムシフト視聴率の採用と、それ以外のテレビ閲覧方法と】などにある通り、2017年秋からは視聴率に関してはこれまでのリアルタイム視聴による視聴率に加え、本放送から一週間以内に視聴した場合の視聴率「タイムシフト視聴率」、さらにはリアルタイムとタイムシフトを合わせ、少なくともどちらか一方でも視聴していればカウントする「統合視聴率」の概念が導入されている。しかしながら今回の各種資料では単に「視聴率」として言及されていることから、これまで通りリアルタイムによる視聴率が提示されているものと考えられる。なお一部局資料では特定期間におけるタイムシフト視聴率も併記しているものが確認されている。

まずは現時点で直近にあたる2023年3月期通期の、キー局の視聴率をグラフ化する。データは【TBSホールディングス・決算説明会資料集ページ】内にある「2022年度(2023年3月期)決算説明会」および【東証開示資料】における「2023年3月期 決算資料」などから取得した。また下期単独のデータは非公開だが、上期の値は存在するため、そこから逆算して算出し、こちらもグラフ化している(解説は通期の値で行う)。なお「キー局」と表現した場合、NHKは含まれないが、よい機会でもあるので併せてグラフに収めておく。

↑ 主要局視聴率(週ベース、ビデオリサーチ、関東地区)(2023年3月期・下期)
↑ 主要局視聴率(週ベース、ビデオリサーチ、関東地区)(2023年3月期・下期)

↑ 主要局視聴率(週ベース、ビデオリサーチ、関東地区2023年3月期・通期)
↑ 主要局視聴率(週ベース、ビデオリサーチ、関東地区)(2023年3月期・通期)

下期動向について見ていくと、テレビ東京は区分の上では在京キー局の5局に収められているものの、他の4局と比べれば放送エリアの問題や放送内容の特異性の都合上、視聴率で他局と比べて低めの値が出るのは、ある意味やむを得ない。その特異性を考慮し順位精査の際に除外すると、フジテレビが主要キー局では視聴率が一番低迷している。これは同年上期から変わらない。数年前まではフジテレビとTBSの立ち位置が逆だったことを思い返せば、フジテレビの凋落ぶりがよく分かる。

視聴率が低迷しやすい昼間や深夜を除いていることから、全日と比べて高い視聴率が期待できるのがゴールデンタイム(19-22時)とプライムタイム(19-23時)。その時間帯で10%以上の値を示しているのは、テレビ朝日(ゴールデンタイム、プライムタイム)のみ。

今件で選択したテレビ局の中ではやや特異な動きを示しているのがNHK。他局と比べてゴールデンタイムとプライムタイムの差異が大きいのが目にとまる。ゴールデンタイムよりもプライムタイムの方が低いことから、22-23時の夜間における視聴率がとりわけ低く、平均値を下げてしまっているのが分かる。もっともこれは番組構成上、民放ではこの時間帯に番組のクライマックスや人気の高い番組が入ることが多いのに対し、NHKではそうとは限らないこともあり、仕方がない話ではある。

ゴールデンタイムで視聴率動向を見るとトップはテレビ朝日、次いで日本テレビ、NHK、TBS、フジテレビの順。プライムタイムで比較すると、トップにはテレビ朝日、次いで日本テレビ、NHK、TBS、フジテレビが収まることになる。ゴールデンタイムとプライムタイムとの間で、各局の視聴率の順位に大きな違いはない。上位陣が競り合っている程度。

他方、それぞれの局のゴールデンタイムとプライムタイムの視聴率を比較すると、普通ならばプライムタイムの方が低い値を示すはずなのだが(比較的夜中の時間帯の22-23時を含むため)、テレビ朝日とTBS、フジテレビはゴールデンタイムとプライムタイムで同じ値となっている。これは22時から23時の時間帯で放送される番組の人気が影響を与えていると見てよい。具体的にはテレビ朝日ならば同局の「報道ステーション」がプライムタイムの値をけん引しているのだろう。

前年同期からの変化で各局の勢いを推し量る


通期について視聴率の変移を前年同期比で表すと次の通りになる。比較対象は当然、前年の2022年3月期通期のもの。

↑ 主要局視聴率前年同期比(週ベース、ビデオリサーチ、関東地区、ppt)(2023年3月期・通期)
↑ 主要局視聴率前年同期比(週ベース、ビデオリサーチ、関東地区、ppt)(2023年3月期・通期)

すべての局のすべての時間帯で前年同期比がマイナス。しかもおおよその局で全日よりもゴールデンタイムやプライムタイムの方が下げ幅が大きいことから、テレビがよく視聴される夜の時間帯で視聴者が離れている状況が確認できる。特に日本テレビ、TBS、テレビ朝日では、ゴールデンタイムよりもプライムタイムの方が下げ幅が大きくなっているのが気になるところ。23時ぐらいまで放送するタイプのドラマなどの集客力が落ちたのだろうか。

各局の決算報告書や補足資料などを確認すると、新型コロナウイルスの流行やロシアによるウクライナへの侵略戦争とそれを受けての物価高の影響で経営的には厳しい状態が続くとする一方、番組制作費を上乗せする局が多々見られる。また比較的堅調だったインターネット部門や通販部門へのさらなる注力だけでなく、組織改革や部局の再編・新設なども含めた、テレビ番組との連動性をこれまで以上に高める施策を打ち出す局も見受けられる。さらにはメタバース事業を立ち上げる局も確認できる。

新型コロナウイルスの流行などの苦境が、テレビ番組・放送にどのような変化をもたらすのか。そしてその動きは視聴率にいかなる影響をおよぼすのか。注意深く見守りたいところではある。


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