回復の流れは後ずさり。令和6年能登半島地震、物価高への懸念…2024年3月景気ウォッチャー調査は現状下落・先行き下落
2024/04/08 14:00
内閣府は2024年4月8日付で2024年3月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落となる49.8を示し、基準値の50.0を下回る状態となった。先行き判断DIは前回月比で下落して51.2となったが、基準値の50.0を上回る状態は維持した。結果として、現状下落・先行き下落の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。また、令和6年能登半島地震の影響もみられる。先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和6年3月調査(令和6年4月8日公表):景気ウォッチャー調査】)。
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現状は下落、先行きも下落
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2024年3月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」が増加、「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは52.4。
→詳細項目は「飲食関連」「雇用関連」が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「非製造業」「雇用関連」。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス1.8ポイントの51.2。
→原数値では「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは51.9。
→詳細項目は「小売関連」が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」「製造業」「雇用関連」以外すべて。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2024年3月では人の流れの活性化がプラスの影響を与えているものの、物価高や令和6年能登半島地震、4月からの値上げや負担増に対する防衛意識などがマイナスの影響を与えており、前月比ではマイナスの結果となった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2024年3月では人の流れの活性化や賃上げ、株価の上昇への期待がある一方で、新年度からの商品価格の値上げやインフラ系の補助金終了への懸念、2024年問題への不安などがマイナス要素となり、前月比では下落した。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。
↑ 景気の現状判断DI(〜2024年3月)
昨今では人流増加のプラス影響は力強いものの、ロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、今回月では前月比でマイナスを示している。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「非製造業」「雇用関連」のみ。
続いて先行き判断DI。
↑ 景気の先行き判断DI(〜2024年3月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「住宅関連」「製造業」「雇用関連」以外すべて。物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争、さらにはいわゆる2024年問題が足を引っ張っており、前月比でマイナスを示している。
人流増加の効果と物価高への不安と
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・外国人観光客の増加に伴い、団体客の予約も好調である。また、国内需要も増加傾向にあり、特に週末の販売価格が上昇している(都市型ホテル)。
・インバウンドの増加もあるが、新社会人や進学のための新生活需要の動きが多くなっている(家電量販店)。
・4月からの値上げが報道されていることで、月末に近づくにつれて、トイレットペーパー、ティッシュペーパーが異常なほど売れている。物価高に対する消費者の防衛意識が一層高まっている状況がうかがえる(スーパー)。
・来客数は増えているが、婦人服や紳士服、子供服などのファッション関係の動きが悪い。特に気温が低い影響で、婦人服関係は春物が動いていないほか、商品の値上げの影響もあって厳しい状況にある。一方、インバウンド売上の前年比は、2月が119.8%、3月が117.3%と好調に推移している(百貨店)。
■先行き
・4月の新学期需要と、国内外の観光客のゴールデンウィークの来街者数増加が見込まれ、その結果、現在より景気は向上するとみている(一般小売店[文房具])。
・賃上げの流れに加え、インバウンド需要も増えていることから、当面は良くなる(スーパー)。
・物価の上昇により客の節約志向が今後も続くと推察され、景気が良くなる要因が見当たらない(一般小売店[食品])。
・客の購買力が落ちてきている。食品の度重なる値上げが効いているのではないか。ガス、電気料金の補助がなくなったら、一層食費に掛ける金が減ってくるようにみえる(コンビニ)。
インバウンドなどによる人流の増加で商売が好調との声が複数確認できる。新年度の到来で需要増加を期待する声と、値上げによる消費減退への不安が綱引きをしているようではある。また、ガスや電気料金の補助がなくなることで消費の勢いがますます低迷するとの声も気になるところ。
企業動向では昨今よく耳にする問題による影響が見受けられる。
・年度内工事は全て予定どおりにしゅん工を迎えており、追加工事による上積みもみられたことから、年度末決算が見込みを上回ることが確実となった(建設業)。
・自動車の組立ラインが止まった影響による生産調整が続いている。また、ロボット関連分野もいまだ回復がみられない(一般機械器具製造業)。
■先行き
・企業のシステム関連投資は堅調である。引き合いが多い状況が継続している(通信業)。
・運送業界では4月より2024年問題が始まる。今までと同じ体制では今までと同じ仕事量はこなせない。かといって人員や設備は簡単には増やせず、売上単価が上がったとしても頭が痛い(輸送業)。
大手メーカーの子会社における不正問題発覚に伴う生産停止が、多様な方面に影響を与えていると解釈できる動きが見られる。言葉通り景気のよい話もあるが、一方で2024年問題(この場合はトラックドライバーの残業時間上限規制が2024年4月から実施されること)への懸念も見受けられる。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
・2025年卒業者の求人数は前年を上回っている。また、企業の採用活動も活発に動いており、業種によっては採用人数を大幅に増やす企業もある。既に内定を得ている学生もおり、早期選考が拡大していると考えられる(学校[大学])。
■先行き
・新卒・中途採用共に人材が不足しており、採用のめどが立っていない。さらに、1人当たりの採用コストが金銭的・労力的にも上昇しているため、利益が圧迫されている中小企業も多くみられる(求人情報誌)。
求職者にとっては嬉しい話が確認できる。一方で、求人側の認識不足が問題であることをうかがわせる話も出ている。人材の不足は単純な労働者不足というよりは、多分に(現状の認識が甘い)求人側が求める雇用条件下での求職者不足でしかない。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。このまま、生活様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのだろうか。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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