日本は1.33、米国は1.64、韓国は0.84…各国の合計特殊出生率推移
2022/08/31 02:00
先に【先進諸国の出生率や離婚率など】で先進諸国の直近における合計特殊出生率を、【日本の出生率と出生数】で日本の合計特殊出生率の推移を、【アメリカ合衆国の人種別出生率の詳細】でアメリカ合衆国の合計特殊出生率の推移をチェックした。そして先日別件で出生率関連を調べていたところ、主要諸国の合計特殊出生率の推移を把握できるデータを見つけることができた。そこで今回はその内容について精査をしていくことにする。
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該当するデータとは2022年6月に内閣府が発表した、2022年版となる「少子化社会対策白書」(【少子化社会対策白書】)。ここには主要国の合計特殊出産率の推移が示されている。
さて「合計特殊出生率」だが、この言葉は一人の女性が一生のうちに出産する子供の平均数を示している(計算対象を一般的な出産可能年齢である15-49歳の女性に限定している)。単純計算でこの値が2.0なら、夫婦二人から子供が二人生まれるので(男性は子供を産まない)、人口は維持されることになる。実際には多様なアクシデントによる減少があるため、人口維持のための合計特殊出生率は2.07-2.08といわれている(これを人口置換水準と呼ぶ)。
↑ 合計特殊出生率(再録)
公開されている資料では元ページでは主要国の1950年-2020年までの推移が1年区切りで、アジア諸国が1970年以降5年区切り+αで2020年まで収録されている。まずは前者、主要国の値の確認を行う。
↑ 主要国合計特殊出生率
↑ 主要国合計特殊出生率(2020年)
1960年代までは主要国はほぼ人口置換水準を超えていたものの、経済発展やそれに伴う子供の養育コストの増大、結婚や出産に対する価値観の変化、避妊の普及、そして出産後の乳幼児の死亡率低下の影響があり(出産した子供が命を落とさなければ夫婦はその子を養育する必要が生じるため、再び出産へリソースを投入する余裕が無くなる)、一様に低下。そして前世紀末期あたりからは国毎に異なる動きを見せているが、差異はあれど回復傾向にあった。しかしながらアメリカ合衆国やフランス、イギリス、スウェーデンでは2007-2010年ぐらいから、日本やイタリアでは2013-2015年ぐらいから、そしてドイツでは2017年から再び低下に転じている。
特に大きな上昇が見られたフランスやスウェーデンでは先の記事でも触れたように「嫡出でない子」の割合の増加、子育てや就労に関する選択肢の増加と、環境の整備(経済面だけで無く保育サービスの充実や社会制度上での補助)、高齢出産に係わる技術的な進歩が大きく貢献した。白書でもこの点に関して、経済支援から保育の充実、出産・子育てと就労にかかわる選択肢を増やすなどの環境整備、いわゆる「両立支援」の強化によるものと解説している。ドイツも「依然として経済的支援が中心となっているが、近年、「両立支援」へと転換を図り、育児休業制度や保育の充実等を相次いで打ち出している」と説明し、「両立支援」が成果を上げた結果だと示唆している。
しかしながらそのフランスやスウェーデンですら2010年ぐらいからは低下傾向に転じており、白書では各対策が付け焼刃でしかなかった可能性を示唆している。
なお日本では1966年に特異な下落が見られるが、これは丙午(ひのえうま)による低下に他ならない。他国で同様の動きがなく、日本独自の動向であるのが分かる。
続いてアジア諸国の動向。収録データの事情で、やや年数経緯が粗めとなっている。またタイのデータは2022年版では非公開のため、同様の時系列データが抽出可能な世界銀行のデータベースからの値を適用している。
↑ 主要国合計特殊出生率(アジア諸国)
↑ 主要国合計特殊出生率(アジア諸国)(2020年)
アジア諸国に限定しても動向はあまり変わりはない。経済成長が進むとともに合計特殊出生率は低下し、いずれも人口置換水準を割り込んでしまっている。出生率の低下は日本だけの問題ではないことがあらためて認識できる次第ではある。
なおアジア諸国の出生率の低迷に関して白書では「アジア圏では、婚外出産が少ないことにも一部起因しており、未婚化や晩婚化が出生率変化の大きな決定要素となっていると指摘されている(United Nations “World Fertility Report 2013”を参照)」「東アジアでは教育熱が伝統的に高く、大学進学率も高いが、公的資金の教育費投資が少なく、私的資金による教育費負担が大きくなっていることが、低出生率の一因と考えられる。特に儒教圏(韓国・台湾)の出生力が極端に低い理由は、若年層の失業率上昇や収入減に加え、急速に発展・変化する家族外の社会経済システム(教育・職業・政治参加など)と、相対的に変化が緩慢な家族システム(孝重視イデオロギー、夫婦間の役割分担など)との乖離が大きいため」との指摘をしている。これも他の記事で言及した通りの話ではある。
出生率の低下は経済発展に伴う子供の養育コストの増大、結婚や出産に対する価値観の変化、乳幼児の死亡率低下など、先進国共通の傾向を起因とするもので、いわば先進国病とも呼べるもの。そしてそれを補い得るものとして一部諸国で顕著化しているのが、「嫡出で無い子」の増加。また、最後のグラフにあるように、アジア諸国では婚姻内での出生にこだわる社会文化の影響が強く、それが経済発展とともに出生率が低下したままの状態を生み出しているものと考えられる。
少子化傾向を食い止めるには、日本のかつての風習を再度活性化する、今風にアレンジする、欧米の手法を参考にする、色々な手立てが想定できるが、どれか一つのみに限る必要はない。少子化対策は中長期的・戦略的な視点で先人の成功例を参考にし、断行すべき問題ではある。即効性は無く、劇的な変化が見られないので敬遠されがちだが、数年、数十年後に石つぶてを投げられないためにも、なすべき最優先事項であるに違いない。
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