回復の流れは足踏み。令和6年能登半島地震、物価高、人手不足への懸念…2024年2月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き上昇
2024/03/08 16:00
内閣府は2024年3月8日付で2024年2月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇となる51.3を示し、基準値の50.0を上回る状態を維持した。先行き判断DIは前回月比で上昇して53.0となり、基準値の50.0を上回る状態を維持した。結果として、現状上昇・先行き上昇の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。また、令和6年能登半島地震の影響もみられる。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和6年2月調査(令和6年3月8日公表):景気ウォッチャー調査】)。
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現状は上昇、先行きは上昇
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2024年2月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは50.3。
→詳細項目は「製造業」「雇用関連」が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「小売関連」以外すべて。
・先行き判断DIは前回月比でプラス0.5ポイントの53.0。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が増加、「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは53.5。
→詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外すべて。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2024年2月では物価高や令和6年能登半島地震でマイナスの影響があったものの、季節イベントの好調さをはじめ、人の流れの活性化が各方面にプラスの影響を与えており、前月比ではプラスの結果となった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2024年2月では物価高と人手不足への懸念が強い一方で、人の流れの活性化や賃上げ、春の観光シーズン、株価の上昇などへの期待などから、前月比は上昇した。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。
↑ 景気の現状判断DI(〜2024年2月)
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスの変異株の影響による新規感染者数の増加が景況感の足を引っ張っているものの、人流増加のプラス影響は力強く、今回月では前月比でプラスを示している。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「小売関連」以外すべて。
続いて先行き判断DI。
↑ 景気の先行き判断DI(〜2024年2月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「住宅関連」以外すべて。物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張っている一方で、インバウンドなどの人流の増加、春の賃上げや観光、さらには株価の上昇などの期待があり、前月比でプラスを示している。
人流増加の効果と物価高への不安と
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・バレンタイン商戦は好調であったほか、リニューアルオープンしたレストランを中心に、好調に推移している。また、インバウンドも春節に伴う観光客の増加で好調となり、来客数の増加と売上の拡大につながっている(百貨店)。
・冬季観光シーズンとなり、各地の冬のイベントや春節の効果もあって、インバウンドを中心ににぎわった(観光型ホテル)。
・物価上昇の影響で売上は前年をクリアしているが、来客数は減少している。暖冬による雪不足の影響も気になるところである(コンビニ)。
・前月、大手自動車メーカーの不正問題が発覚してから、客の購入意欲が逓減しているようで、なかなか契約に結び付かない。そのため、当地域の自動車メーカーも少し減産している(乗用車販売店)。
■先行き
・春の観光シーズンを迎え、予約状況が好調である。歓送迎会を主として、レストラン利用、宴会利用も増加する(都市型ホテル)。
・株価の上昇や春闘での賃上げが多くの業種で進むことで、消費への気運が更に高まれば、少しずつ良くなる(百貨店)。
・商品価格も更に上がってきており、今以上に買物に対し慎重になっていくとみられる(家電量販店)。
・商品単価の上昇に伴い、買い控えが発生している。来客数の伸び悩みから脱出できず、暖かくなっても来客数が戻る気配がないため、この状態がしばらく継続すると予想される(コンビニ)。
インバウンドなどによる人流の増加で商売が好調との声が複数確認できる。季節イベントも多くで盛り上がったようだ。他方、一般消費者サイドでは物価高による消費性向の変化が、商売の足を引っ張っているとの声も多々見受けられる。また不正問題発覚(に伴う生産停止)が購入意欲の足を引っ張っているとの指摘もある。
企業動向でも物価高への影響が見受けられる。
・昨年12月に一部商品を値上げした関係で、12-1月にかけて売上がやや低調であったが、今月に入り観光客がにぎわう小売店からの受注が活発である(繊維工業)。
・自動車関連の受注が急激に減少している。暖冬の影響か青果物関連も減少している。全般的に景気はやや悪い(パルプ・紙・紙加工品製造業)。
■先行き
・電子部品、特に半導体価格が上昇しており、今後徐々に身の回りの景気を良い方向に導くと予想される。製品開発も、計画どおりに進んでおり、安定している(電気機械器具製造業)。
・輸出車両の生産調整による数量減少や、一部の稼働停止による数量減少など、当社の売上主力2社が減産傾向にあるため、若干景気が悪くなっていく(輸送用機械器具製造業)。
大手メーカーの子会社における不正問題発覚に伴う生産停止が、多様な方面に影響を与えていると解釈できる動きが見られる。他方、商品価格の上昇がプラスの影響をおよぼすとの話もある。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
・求人数は多いものの、時給や在宅勤務関連での求職者の希望が、求人内容と合わないケースが多い。それに伴い、人手不足の企業に人材がなかなか行き渡らない。一方、既存の在籍社員の時給についても、改定の進んでいない企業が多い(人材派遣会社)。
■先行き
・求人票へ記載される賃金が増加しているため、今後、更に全体の賃上げが進んでいくと期待している(職業安定所)。
労働市場の需給のミスマッチが、求人側の現状認識不足が問題であることをうかがわせる話が出ている。他方、正しい認識による条件改善の上、積極的な求人をしているであろう企業の話も確認できる。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。株価に一喜一憂しないのがベストではあるが、ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。このまま、生活様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのだろうか。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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