直近年度では大学生74.5%…戦後の学歴別就職状況の推移
2023/01/17 03:00
昨今においては正規・非正規雇用による雇用環境の違いや離職率の差異もあり、単純に就職状況のよし悪しだけで雇用情勢を推し量ることは難しくなりつつある。とはいえ、雇用されている状況と失業との間には大きな隔たりがあることに違いはなく、就職できているか否かは今なお労働市場、さらには経済情勢に関する重要な指針であることもまた事実。今回はその就職動向について戦後の動向を公的データを基に、最終学歴別に見ていくことにする。
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進学派の増加とともに減少する中高生の就職割合
今記事で精査する各種値の取得元は、文部科学省の定点観測的調査の一つ【学校基本調査】と、その過去データを収録した総務省統計局の【e-Stat】経由の「学校基本調査」データ収録ページ。年ベースで計測されており、現時点では2022年3月時点(2022年度)までの値が掲載されているので、それを基に精査を行う。
なお次以降に示す「●×卒業生の就職者の割合」は、純粋に各年3月における卒業者のうち、就職者(就職進学者含む)の占める割合。【大学生の就職(内定)率動向】など世間一般に語られている「就職率」は就職希望者に対しその希望がかなった人の割合であり、今件算出値とは別物。今件算出値では、就職を希望せずに進学した人も計算の上の母数としては加算される。例えば高校(高等学校)卒業者100人のうち50人が就職を希望せずに大学へ進学し、50人が就職を希望、そして就職希望者のうち40人が就職できた場合(つまり50人が大学進学、40人が就職、10人が就職がかなわず浪人など)、今件記事で算出される「高校卒業生の就職者の割合」は 40÷100=40% となるが、「就職率」は 40÷50=80% となる。
まずは中学生と高校生。
↑ 中学校卒業生の就職者の割合(就職進学者含む)
↑ 高等学校卒業生の就職者の割合(就職進学者含む)
1950年度代後半まで中学校卒業生でも値は4割を超えていた(つまりそれだけ高等学校へ進学せずに就職した人が多かった)。その後、高等教育が急速に浸透し、就職者の割合は急降下することになる。そして1980年度頃には落ち着きを見せ、あとは漸減状態が続いている。
一方高等学校卒業者の値は1960年度代後半まで上昇を見せる。しかしその後は踊り場を経て漸減を続けている。2005年度前後から一時再上昇の気配があるが、これは【若者労働者における正社員・非正社員率を学歴別・年齢階層別に(最新)】で解説しているように、多分に非正規社員による雇用の結果、値がかさ上げされたものと推測される。2011年度以降は再び上昇の動きを示しており、高卒者における雇用情勢の改善の香りを覚えることができる。ただしここ数年は動きが横ばいに転じているが、これは大学への進学者数・率が増えているからに他ならない。
なお高等学校卒業者の値が2021年度以降明らかに下落しているが、これは新型コロナウイルスの流行による景況感の後退によるところが大きい。
中学校から高等学校へ、進学ではなく就職する人の主力が移って行った過程が分かるよう、中学校・高等学校の値を重ねたのが次のグラフ。1960年度ぐらいからは中卒で就職する人の割合が減少する分、高卒による就職者の割合が上昇しているのが分かる。
↑ 中学校・高等学校卒業生の就職者の割合(就職進学者含む)
しかし高校生の就職者の割合が上昇するのも1970年度前後までの話で、それ以降は大学への進学率の上昇もあり、高卒で就職する人の割合は漸減していくことになる。ただし上記で触れたように今世紀に入ってからは底打ち、2011年度から数年ほどは上昇の動きも見られたことは留意しておく必要がある。【日本における学歴・男女別と完全失業率との関係(最新)】にもある通り、高卒以下の学歴保有者における完全失業率もほぼ同じタイミングで下がっているため、純粋に高卒者における雇用情勢が改善していると見るべきだろう。
高専、大学卒業組の就職者の割合は?
続いては大学・短期大学・高等専門学校について。まず高等専門学校(高専)だが、データが1964年度以降(女性は1967年度以降)のものしか無く、グラフが不自然な形となってしまった。データの公開開始時期がほぼ100%のため、上に突き抜けているようにも見えるが、決してそのような状態ではない。例えば女子は1967年度以降数字が確認できるが、その年は100.0%、男子は1964年度以降だが、その年は99.4%ときわめて高い値を示している。
↑ 高等専門学校卒業生の就職者の割合(就職進学者含む)
極めて高い就職者の割合を見せている高専卒業生だったが、1990年前後以降はその値も低下。今世紀に入ってからは50-60%の低迷状態にある。また、男性よりも女性の方が値は高いのも特徴。そして高卒者同様に、2011年度年以降は再び上昇の動きを見せている。特に女性の伸びが目にとまる。これは【大学生の就職状況(最新)】などで解説しているが、企業が即戦力を優先して雇用を行った結果によるものと考えられる。また純粋に雇用市場の需給バランスが変化し、雇用の際の企業側設定によるハードルが下がっていることも考えられる。もっとも、2021年度以降下落の動きが生じているが、これは新型コロナウイルスの流行による景況感の後退によるところが大きい。
続いて短大(短期大学)。今回の一連の動向で一番興味深い動きをしている。
↑ 短期大学卒業生の就職者の割合(就職進学者含む)
1970年代中盤までは男性の方が女性よりも就職者の割合が高い。ところが段々と女性が増加・男性が減少し、1970年代中盤でクロス。それ以降は女性の方が高い値を示している。この男女間の開きは今世紀に入ってからほぼ同率のままで、まるで男女間でシンクロしているかのようでもある。また、男女間の開きがこれだけあるにもかかわらず、合計の値が概して女性寄りになるのは、ひとえに男性短大生の数が少ないからに他ならない。
そしてこちらも2021年度以降下落の動きが生じているが、これは新型コロナウイルスの流行による景況感の後退によるところが大きい。
最後に大学卒業生。今値では単に4年の教育課程を終えて卒業する学部課程の学生を指し、その上の大学院生(修士課程、博士課程、専門職学位課程)は含まれていない。
↑ 大学卒業生の就職者の割合(就職進学者含む)
短大を除けば他の学校は近年に至るにつれて就職者の割合が減少する、最近では一時的に上昇する傾向もあったが、大学では後者はともかく前者に関しては、その動きは見せていない。これはそもそも論として、高校まではその上の学校種に進学する人が増加しており、それを受けて就職者の割合が下がっていたからに他ならない。
その大学における卒業生の就職者の割合だが、男性はやや落ち込み気味、女性は60-80%の圏内に収まっている。また1990年中盤から男性の値が減少しているが、これと同時に大学院の「修士課程」、さらにはここ数年では「専門職学位課程」の値が上昇しているのが(元データから。今件ではグラフ未作成)確認できる。学生も企業も、高校よりも大学、大学よりも大学院といった形で「少しでも高い箔をつける」との考えに基づいた動きと考えれば、道理は通る。また大学卒業生も2011年度以降は一様に上昇傾向なのも印象的ではある。
大学卒業生においても2021年度以降下落の動きが生じているが、これはやはり新型コロナウイルスの流行による景況感の後退によるところが大きい。
今件は単に「卒業生に占める就職者の割合」に関する動向だが、冒頭などで触れた通り、前世紀末以降は雇用実態として、非正規での雇用が増加している。単純に卒業生の就職者の割合の上下が、安定雇用の度合いに直結しているとは限らないことに注意しなければならない。また中高生で顕著だが、進学する人が増えれば今件の値は減少することも併せて覚えおく必要がある。
その点に気を付ければ、今件は他の経済指標との組み合わせで色々な考察に使える材料となるに違いない。
ちなみに直近となる2022年度における「卒業生の就職者の割合」は次の通り。
↑ 卒業生の就職者の割合(学歴別)(2022年度)
中卒者、高卒者は多分に上の学校種類への進学を望むため、値は低い。一方、大卒者は高めだが、大学院は逆にやや下がる傾向がある。また男女別では中高学校と大学院以外は女性の方が値は高く、特に短期大学や高等専門学校では男女差が大きなものとなっている。
労働市場、景況感のバロメーターの一つである「卒業生の就職者の割合」が、今後も安定し、さらに状況的に好ましい値が出るような景況感・雇用市場の状態を望みたいものだ。
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