前期比・前年同月比合わせてもプラスは2誌のみ…少女・女性向けコミック誌部数動向(2023年7-9月)
2023/12/19 02:00
加速度的に展開される技術革新、中でもインターネットとスマートフォンをはじめとしたコミュニケーションツールの普及に伴い、紙媒体は立ち位置の変化を余儀なくされている。すき間時間を埋めるために使われていた雑誌は大きな影響を受けた媒体の一つで、市場・業界は大変動のさなかにある。その変化は先行解説した少年・男性向け雑誌ばかりでなく、少女・女性向けのにも及んでいる。そこで今回は社団法人日本雑誌協会が2023年11月6日に発表した「印刷証明付き部数」の最新値(2023年7-9月分)を用い、「少女・女性向けコミック系の雑誌」の現状を簡単にではあるが確認していく。
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トップは少女向けは「ちゃお」、女性向けは「BE・LOVE」がトップ
データの取得場所に関する説明、「印刷証明付き部数」など各種用語の解説、さらには「印刷証明付き部数」を基にした定期更新記事のバックナンバーは、一連の記事まとめページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】に掲載している。必要な場合はそちらを参照のこと。
まずは少女向けコミック誌の現状。内容の限りではターゲットとなる読者層は比較的年齢が若い年齢階層、未成年でも高校生ぐらいまでが対象。
↑ 印刷証明付き部数(少女向けコミック誌、万部)(2023年4-6月期と2023年7-9月期)
少女向けコミック誌ではトップは「ちゃお」。第2位の「りぼん」に0.7万部もの差をつけており、少年向けコミック誌の「週刊少年ジャンプ」的な群を抜く部数の多さ。この圧倒的差異をつけた状況は、現在データが取得可能な2008年4-6月期の値以降継続している。以前話題に上ったATM型貯金箱をはじめ、魅力的な付録の数々も、同誌がトップの座に位置し続けている大きな要因となっているようだ。
↑ ちゃお2016年1月号付録・超金運UP ATM型貯金箱。
第2位は「りぼん」、第3位は「LaLa」、そして「花とゆめ」「なかよし」「別冊マーガレット」「別冊フレンド」が続いている。
「別冊フレンド」は5期前に大きく部数を増やしたが、その次の期では大きく減らしてほぼこれまでの水準に戻り、今期ではさらに部数を減らしてしまう結果となった。後述する前年同期比では非常に大きなマイナス幅を示す形となっている。
↑ 印刷証明付き部数(別冊フレンド、部)
「別冊フレンド」は講談社発行の月刊コミック誌で、1965年に「週刊少女フレンド」の姉妹誌のポジションとして「別冊少女フレンド」との名前で創刊、1984年に現在の「別冊フレンド」に改名した。今期の印刷証明付き部数は1万9667部。
5期前における部数の飛躍は2022年6月13日に発売された7月号において、「東京卍リベンジャーズ」のコラボ企画として「人気キャラクタークリアカード8枚セット」と「名シーンふきだしステッカー」が付録に収められたことが原因だと思われる。以前同様のコラボ企画の付録を収めた2022年1月号は発売前の重版が決定されるなどで世間を騒がせたが、2022年7月号はそれ以上に大きく部数を引き上げる形となった。今期は前期に続きそのような特需的な号はなかったため、通常の部数動向(低迷漸減)が継続しているまでの話。
続いて女性向けコミック誌。想定読者層は「少女向け」と比べてやや高めの年齢層。内容は実質的に大人向けが多く、子供にはあまりお勧めできない(いわゆるR指定は無いが、その判断を下されてもおかしくない雑誌、連載も多い)。発行部数は少女向けコミック誌と比べて少なく、横軸の部数区切りの数字も小さめ。
↑ 印刷証明付き部数(女性向けコミック誌、万部)(2023年4-6月期と7-9月期)
「BE・LOVE」(主に30代から40代向けレディースコミック誌)がトップ、「office YOU」「Cocohana」「Kiss」が続く。各誌でそれぞれ類似順位他誌と一定の差異があり、並べると比較的整った傾斜ができている。ただし部数そのものは数万部の単位のため、ヒット作が生まれることで雑誌が大盛況となれば順位が大きく変動する可能性はある。
「FEEL YOUNG」は2020年7-9月期から部数を非公開化している。
↑ 印刷証明付き部数(FEEL YOUNG、部)
「FEEL YOUNG」は「おしゃれな恋愛コミック誌」がキャッチコピーの月刊女性向けコミック誌。読者ターゲットは「おしゃれゴコロを忘れない女性たちが中心読者層」とのこと。連載陣としては安野モヨコ先生の「後ハッピーマニア」などが知られているが、部数動向は正直なところ芳しくない状態が続いていた。発売そのものは継続中で該当期はもちろん記事執筆時点でも休刊の確認はできないことから、部数の非公開化は単純に編集部あるいは出版社の方針によるものらしい。残念な話ではあるのだが。グラフには試しに近似曲線を引いてみたが、現状では5000部を割り込んでいる可能性がある。
プラスは少女向け・女性向け合わせて2誌のみ…四半期変移から見た直近動向
次に前期と直近期との部数比較を行う。雑誌は季節で販売動向に影響を受けやすいため、精密さにはやや欠けるが、大まかに部数推移を知ることはできる。
まずは少女向けコミック誌。
↑ 印刷証明付き部数変化率(少女向けコミック誌、前期比)(2023年7-9月期)
プラス誌は「ベツコミ」「LaLa」の2誌で、いずれも誤差領域(上下幅5.0%)を超えたプラス幅を示している。「りぼん」がプラスマイナスゼロで、それ以外はすべてマイナス幅。誤差領域を超えたマイナス幅は7誌が該当。「花とゆめ」は前期比でマイナス11.4%もの下げ方。
少女向けコミック誌で部数トップの「ちゃお」は、今期の前期比はマイナス8.1%と誤差領域を超えた下げ幅。
↑ 印刷証明付き部数(ちゃお、部)
該当期間に発売されたのは3誌。それぞれ読者層に合わせた魅力的な付録(ハッピーサマークリアトートト、ときめき3wayミニショルダー、フロー&スタイリングコーム・BIGリボン)が高評価を受けている。連載陣にもファンは多く、部数が少女向けコミック誌でトップなのも分かるというもの。
一方で中長期的に見れば部数は漸減中であることもまた事実。少女向けコミック誌での部数トップの威厳を維持してほしいものだ。
「ベツコミ」は誤差領域を超え、非常に大きな上げ幅を示している。
↑ 印刷証明付き部数(ベツコミ、部)
「ベツコミ」は1970年創刊の小学館が発行する女子高校生をメインターゲットとした月刊漫画雑誌。元々は「別冊少女コミック」だったが2002年4月の「月刊フラワーズ」創刊に合わせて連載陣の一部がその雑誌に移動するとともに、「ベツコミ」に名称を変えている。
今期で大きく部数が伸びたのは、2023年8月号でアイドルの岸優太氏スペシャルとして、グラビアとインタビュー記事の掲載に加え、厚紙フォトカードが付録として同梱されたのが原因らしい。
続いて女性向けコミック誌。
↑ 印刷証明付き部数変化率(女性向けコミック誌、前期比)(2023年7-9月期)
女性向けコミック誌は前期比で部数プラス誌は皆無で、プラスマイナスゼロが2誌、それ以外の7誌がマイナス。誤差領域を超えたマイナス幅は2誌。
今期は前期比でマイナス1.6%を示した「フラワーズ」だが、部数底上げの立役者的存在「ポーの一族」については、今回該当期では9月号と11月号での掲載。しかしながら部数は多少ながらも減ってしまった。
↑ 印刷証明付き部数(フラワーズ、部)
今期部数は2万333部。部数動向全体としてはあまり思わしくない状況にある。かつては「ポーの一族」掲載などで跳ね上がる期以外はおおよそ3万3000部を維持していたのだが、2018年後半あたりからその原則が崩れてしまっており、新しい維持ラインとして2万4000部が設定された感はあった。しかし昨今では、その維持ラインすらキープできていない。ここ数期の動きの限りでは、新しい維持ラインとして2万部が設定されたように見える。
プラスは無し、誤差領域超えがほとんど…前年同期比
続いて「前年同期比」による動向。年ベースの変移となることから大雑把な状況把握となるが、季節による変移を考慮しなくて済むので、より確かな精査が可能となる。
↑ 印刷証明付き部数変化率(少女向けコミック誌、前年同期比)(2023年7-9月期)
少女向けコミック誌は前年同月比では「ベツコミ」がプラスマイナスゼロで、「なかよし」が誤差領域内のマイナス、それ以外はすべて誤差領域を超えたマイナス幅を示している。1割以上の下げ幅は7誌、2割以上に区切っても3誌。いずれも掲載作品に何か大きな動きがあったわけではなく、本質的な不調にあると解釈できる。
少女向けコミック誌全体において、起死回生の策が必要な時期に来ていることには違いない。新型コロナウイルスの流行が部数減少傾向に拍車をかけた可能性は否定できないが、それを裏付けるものは無い。
続いて女性向けコミック誌。
↑ 印刷証明付き部数変化率(女性向けコミック誌、前年同期比)(2023年7-9月期)
女性向けコミック誌も少女向けコミック誌同様に、前年同期比で全誌がマイナス、しかも「フラワーズ」以外は誤差領域を超えた下げ方を示している。一番大きな下げ幅は「プチコミック」でマイナス24.7%。10%台以上の下げ幅を示しているのは3誌。
女性向けコミック誌ではかろうじて前年同期比でのマイナス幅が1桁台%だった「Kiss」だが、低迷感は否めない部数動向が続いている。
↑ 印刷証明付き部数(Kiss、部)
2018年7-9月期に大きな落ち込みを見せてから、部数減少のスピードが速まった感はある。2022年4-6月期の3万部割れあたりで、ようやく下げ方の勢いが落ち着いたようだ。漫画単行本レーベル「講談社コミックスKiss」の基幹誌でもあるだけに、何らかのテコ入れが必要不可欠だとは思われるのだが。
かつてあちこちに見受けられた「おそ松さん」特需だが、今期では残り香すら覚えることなく、各雑誌の部数動向は通常運転に戻っている。「進撃の巨人」や「おそ松さん」のような盛り上がりを複数タイトルで意図的に起こせるようになれば、それこそ全盛期の週刊少年ジャンプのような活性化も不可能ではない。最近ならば「ポーの一族」が好例(影響力は限定的で、今期では部数プラスの効力は発揮できなかったようだが)。そのためには幅広い層へ訴えかける、購入動機をかきたてる作品との連動、あるいは発掘、さらには創生が欠かせまい。
他方、他ジャンルの記事でも言及しているが、多くの雑誌で電子化が行われており、電子版に読者の一部を奪われ、結果として紙媒体としての印刷部数が減少している可能性は否定できない。ここ数期では多くの雑誌が大きな部数の減少を示しており、電子版に読者がシフトしたとの推測以外の原因が見つからない。あるいは単に、需要に合わせた部数の削減なのか。しかしながら他の雑誌同様、電子版の部数は非公開のため、その推測の検証ができないのは残念ではある。
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