人の流れの回復感と根強い物価高、そして人手不足への懸念…2023年12月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き下落
2024/01/12 15:00
内閣府は2024年1月12日付で2023年12月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇となる50.7を示し、基準値の50.0は上回る状態となった。先行き判断DIは前回月比で下落して49.1となり、基準値の50.0を下回る状態は継続している。結果として、現状上昇・先行き下落の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和5年12月調査(令和6年1月12日公表):景気ウォッチャー調査】)。
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現状は上昇、先行きは下落
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2023年12月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「ややよくなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」が減少。原数値DIは50.9。
→詳細項目は全項目で上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「非製造業」「雇用関連」。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス0.3ポイントの49.1。
→原数値では「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」が減少。原数値DIは48.6。
→詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「非製造業」の項目が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「製造業」「雇用関連」。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2023年12月では物価高でマイナスの影響が生じているが、人流増加によるプラスの影響が大きく、前月比ではわずかなプラスの結果となった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。
直近の2023年12月では年末年始に向けて人の流れの改善による期待がある一方で、物価高と人手不足への懸念が強く、前月比は下落してしまった。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。
↑ 景気の現状判断DI(〜2023年12月)
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスの変異株の影響による新規感染者数の増加が景況感の足を引っ張ってはいるが、人流増加のプラス影響は力強く、前月比でプラスを示している。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「サービス関連」「非製造業」「雇用関連」。
続いて先行き判断DI。
↑ 景気の先行き判断DI(〜2023年12月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「製造業」「雇用関連」。人流増加によるプラス影響もあるが、物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張っている。特に非製造業の値が減少傾向にあるのが気になるところだ。
人流増加の効果と物価高への不安と
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・忘年会シーズンの繁忙期ということもあり、予約でほぼ毎日満席状態である。1品料理を注文する客の客単価が上がっている(一般レストラン[居酒屋])。
・商店街でもインバウンドの数は日増しに増加する傾向にある。これまで、ドラッグストアや土産物としての食品の購買が中心であったインバウンドの消費が、最近では地方でも単価の高い衣料品や雑貨にも購買が広がり始めており、幅広い業態でのインバウンド消費の拡大に期待が高まっている(商店街)。
・暖冬の影響で、12月中旬まで冬物衣料が不調であった。食料品も相次ぐ値上げで買い控えが続くなど、消費マインドが冷え込みつつある(その他レジャー施設[複合商業施設])。
・12月に入り冬らしい気温まで下がっているが、季節商材の購入客を含めて来客数が減っている。例年であれば、ボーナスが支給され、購入に至らないまでも初売りに向けて希望商品の下見に来店する客が増える時期だが増えていない(家電量販店)。
■先行き
・冬のシーズンはこれまでもインバウンドが後押ししていた面があるが、今年はその動きが特に顕著である。アジアや欧米、オーストラリアなど、いずれの国からも予約がみられ、高単価、高稼働が見込めるため、今後の景気はやや良くなる(観光型ホテル)。
・年明けも物価高騰の影響で食料品の苦戦は継続するとみている。しかし、全体的に人流が活発になっており、春に賃金が上昇することへの期待もあって、外出関連アイテムなどは好調に動くとみている(東北=百貨店)。
・年明けは食料費の節約志向が強まると予想しており、現状のように客単価の上昇による売上の維持は厳しくなるとみている(スーパー)。
・物価上昇の影響で、外食を控える傾向にある。1〜2か月先に良くなる要素は見当たらない(一般レストラン)。
インバウンドによる人流の増加で商売が好調との声が複数確認できる。他方、一般消費者サイドでは物価高による消費性向の変化が、商売の足を引っ張っているとの声も多々見受けられる。
企業動向でも物価高への影響が見受けられる。
・年末にかけて受注量が増加している(輸送業)。
・受注量が減少している。また、資材高騰の影響を受けて住宅価格が大幅に上昇している。その結果、住宅着工件数が減少し、分譲住宅にも影響が出ている(木材木製品製造業)。
■先行き
・半導体価格の上昇に加えて、半導体製品の需要も拡大しつつあり、今後の景気は良くなっていく(電気機械器具製造業)。
・先行きの受注増加は期待できないとみられ、悪くなる要因として、資材単価上昇の影響もあるが、依然として続く人手不足がより大きく影響すると考える(建設業)。
家計動向同様に企業動向でも、好調なところと不調なところが両極端に見える形となっており、景況感の両極化をうかがわせるものとなっている。また、人手不足が深刻なものとなり、これが景況感を悪化させる要因になるとの指摘もある。住宅着工件数の減少という気になる指摘もある。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
・忘年会や年始会の発注が戻ってきている。新型コロナウイルス感染症発生前にはなかった企業からの直接の依頼も増えている(人材派遣会社)。
■先行き
・全国的に人手不足ということもあり、首都圏で採用が厳しい企業が地方への採用へ、中途採用のみだった企業が新卒採用へ幅を広げている状況がある。現在年明けの学内説明会も多くセッティングできており、それらの企業は求人依頼が確定している(学校[専門学校])。
「新型コロナウイルス感染症発生前にはなかった企業」とはどのような業種なのだろうか。大いに気になるところではある。また、人材不足が本格的なものとなってきたような雰囲気を覚える。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。株価に一喜一憂しないのがベストではあるが、ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。このまま、生活様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのだろうか。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。その上、先日の令和6年能登半島地震も大きなマイナス要因となるに違いない。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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