2022年は3634スクリーン、今世紀は漸増中だが頭打ちか…70年近くの間の映画館数の変化

2023/02/01 12:00

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庶民の娯楽の代名詞的存在の一つ、映画館における映画観賞。独特の雰囲気の中で巨大なスクリーン上に展開される映像は、老若男女を問わず心を弾ませ、ときめかせてくれるもの。一方、インターネット技術の進歩と家庭用テレビの大型化・高解像度化、さらにはスマートテレビ化に伴い、映画鑑賞の観点における映画館の存在意義は確実に変化を示し、荒波の環境下にある。今回は一般社団法人日本映画製作者連盟が定期的に更新、公開している【日本映画産業統計】を基に、最新のデータに基づいた、日本の映画館数などの動向を確認していくことにする。

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漸減する映画館、最近では再び増えつつあるが


まずは映画館数の変移。後述する通り、2000年以降はスクリーン数でカウントしているため、厳密には連続性がないグラフとなっている。しかし大まかな流れはつかみ取れる。

↑ 映画館数(スクリーン数)
↑ 映画館数(スクリーン数)

↑ 映画館数(スクリーン数)(2001年以降)
↑ 映画館数(スクリーン数)(2001年以降)

シネコングラフ中にも説明書きのある通り、1999年までは「映画館数(=スクリーン数)」でカウントしていたが、2000年以降は「映画館スクリーン数」に計測対象が変わっている。これはスクリーンが一つしかない「通常型映画館」に対し、いわゆる「シネコン(シネマコンプレックス、複合映画館。同一施設内に複数のスクリーンが用意されている映画館)」が主流になりつつある状況に対応したもの。通常映画館・シネコン別のスクリーン数も2000年からデータが用意されているが、その推移を見ればシネコンが漸次増加しているのが把握できる。

↑ シネコン・通常映画館のスクリーン数
↑ シネコン・通常映画館のスクリーン数

通常映画館の減少数以上にシネコンが増加し、スクリーン総数は増加の一途にあった。しかし2010年を天井に、シネコンの増加はやや歩みをゆるやかなものとする一方、通常映画館の減少は継続。結果としてスクリーン総数は一時的に減少に転じる。

その後2012年を底とし、それ以降は相変わらず通常映画館はおおよそ減少し続けているもののシネコンが増加の歩みを速め、総スクリーン数は増加に転じる形となった。景況感を背景とした映画需要の拡大、さらには単なる映画鑑賞の場としてだけでなく、レジャー施設的な要素も多分にあるシネコンの利点が見直されていること、そして高齢層へのアプローチも功を奏しているのかもしれない。

ただし直近の2022年では前年比で通常映画館だけでなくシネコンも減少し、結果としてスクリーン総数も減少してしまう。スクリーン総数の前年比減少は2012年以来のこと。単なるイレギュラー的な動きか、あるいは天井感なのか、来年以降の動向を注目したい。

公開本数と来場者数と


そのスクリーンで公開される映画本数だが、1980年代後半までは洋画がじわじわと押していたものの、それ以降は邦画が少しずつ押し戻す傾向にある。本数そのものは当たり外れの年があるため、「ぶれ」のレベルでの変化が生じているが、大体500本から800本/年の範囲に収まっていた。その時期では逆算すると、毎日1本から2本ずつ新作が公開されていた計算となる。

↑ 映画公開本数(邦画・洋画)
↑ 映画公開本数(邦画・洋画)

↑ 映画公開本数(邦画・洋画、比率)
↑ 映画公開本数(邦画・洋画、比率)

今世紀に入ってからは2006年に一度ピークを迎えた後、数年は公開本数全体が逓減状態にあった。ところが2011年には東日本大震災があったにもかかわらずその傾向が打ち消されるかのように増加、さらに2012年では記録に残っている1955年以降最大の公開本数となる983本(邦画・洋画合わせて)を示している。

その勢いはとどまることを知らず、2013年は再び記録を更新し1117本(邦画・洋画合わせて)。これは記録のある1955年以降では初の1000本超えとなる。その次の2014年では邦画615本・洋画569本、計1184本と記録を前年から上乗せする形で更新し、過去最大の本数を記録。2017年以降、公開本数記録は毎年更新され、2019年には1278本に。

2021年では邦画634本・洋画509本となり、洋画・邦画ともに前年からは大きく増加し、合計では1143本。前年比184本増の大幅増となり、再び1000本台の大台に。本数は2020年・2021年と2年連続して前年比で減少していたため、3年ぶりの増加。

続いて精査するのは映画館の入場者数。映画の人気ぶりの動向を一番ダイレクトに確認できる値で、「映画館離れ」が起きているのか否か、もし起きているのならどの程度なのかを確認できる、具体的な指標動向である。

↑ 映画館入場者数(年単位、億人)
↑ 映画館入場者数(年単位、億人)

↑ 映画館入場者数(年単位、億人)(2001年以降)
↑ 映画館入場者数(年単位、億人)(2001年以降)

1958年の11.27億人をピークに急速に入場者数は減少し、1970年後半以降はほぼ横ばいの形。この急激な減少の原因は、映画館での映画観賞の代替となりうる「家庭用テレビの普及」によるものに他ならない。特に1959年の皇太子明仁親王(今上天皇)ご成婚の中継が、家庭用テレビの普及に大きなインパクトを与えている。

また1960年にはテレビのカラー放送が本格的に始まり、それとともにカラーテレビも発売され、世帯内に普及していき、映像娯楽の主役は映画館での映画鑑賞から自宅でのテレビ観賞に移り変わっていく。その変化が歴史の証人のごとく、グラフとして表れている。

ただしこの数年では後述するように、1997年の1.41億人を下限とし、わずかずつではあるが、横ばいから持ち直しの動きも見せていた。しかし2020年は1.06億人、前年比で約8877万人・約45.5%の減少。いうまでもなく新型コロナウイルスの流行が影響した結果である。この値は記録のある1955年以降における最低値で、これまでの最低値だった1997年の1.41億人を大きく下回る値。その翌年の2021年、そして直近の2021年では前年比で増加して持ち直しの動きを見せているが、それでもまだ新型コロナウイルス流行前となる2019年の1.95億人までには戻していない。

公開本数が大幅に増加する一方で、入場者数の増加度合いは穏やか。これは映画1本あたりの平均入場者数が減少している実情を意味する。具体的にその値を算出すると、ここ数年は確実に減少を示しており、集客力のある映画が全体比として少なくなっていることが確認できる。

↑ 平均映画入場者数(公開映画あたり、千人)
↑ 平均映画入場者数(公開映画あたり、千人)

↑ 平均映画入場者数(公開映画あたり、千人)(2001年以降)
↑ 平均映画入場者数(公開映画あたり、千人)(2001年以降)

単純試算だが直近の2022年における1公開映画あたり平均入場者数は13.3万人。記録のある中では過去最低値となった2020年の10.4万人は上回るものの、低い値には違いない。2020年に生じた大きな下落は新型コロナウイルス流行の影響を受けてのもの(外出自粛要請による利用客側の来館意欲の減少、映画館側の感染防止対策としての座席の一部利用禁止措置など)だが、それと比べればお客が戻りつつあると解釈すればいいだろうか。

入場者数と興行収入、ヒット作


映画館、映画業界不振の打開策として登場したシネコンだが、一時的に入場者数のかさ上げには成功した。しかし抜本的な状況改善にはつながらず、さらに震災の影響を受けて再び入場者数も減少した。2012年以降はヒット作にも助けられる形で回復の動きを見せている。興行収入(映画館での入場料から得られる売上の合計)の動向推移も相応のものに(興行収入の詳細で直接連続性のある値は2000年分以降の公開のため、次のグラフ作成はそれに合わせてある)。

↑ 映画館入場者数(年単位、万人)(2000年以降)
↑ 映画館入場者数(年単位、万人)(2000年以降)

↑ 興行収入(年単位、億円)(2000年以降)
↑ 興行収入(年単位、億円)(2000年以降)

2008年から2010年は、多少ながらも持ち直しの気配が感じられた。これはひとえにヒット作に恵まれた結果によるもので、特に洋画の健闘(「ハリー・ポッターと謎のプリンス」「アバター」「アリス・イン・ワンダーランド」など)が著しい。ところが2011年は入場者数、興行収入ともに大きく減少している。東日本大震災による直接的・物理的な開場・上映機会の減少だけで無く、自粛の世情によるもの、さらには東日本大震災を機に発生した「消費者性向の変化」、そして上映作品の当たり外れによるものも要因としては小さくない。

ただしその後は少しずつ、入場者数も興行収入も持ち直しを見せつつある。2019年では入場者数・興行収入ともにグラフの対象期間では過去最大だった2016年の値を超え、最大値を更新する形となった。ところが2020年では映画館入場者数・興行収入ともに前年から大幅減で、いずれも記録がある2000年以降においては最低値を更新する形となってしまった。いうまでもなく新型コロナウイルス流行の影響による結果である。直近の2022年は2020年より大きく持ち直し、流行前の水準にほぼ戻す形となった。大作が相次ぎ公開された結果と思われる。

直近の過去3年における洋画・邦画別の興行収入上位作は次の通り。

↑ 興行収入ベスト3(各年、邦画、億円)(2020-2022年)
↑ 興行収入ベスト3(各年、邦画、億円)(2020-2022年)

↑ 興行収入ベスト3(各年、洋画、億円)(2020-2022年)
↑ 興行収入ベスト3(各年、洋画、億円)(2020-2022年)

直近の2022年では邦画は「ONE PIECE FILM RED」がトップの197.0億円。次いで「劇場版 呪術廻戦 0」の138.0億円、「すずめの戸締まり」の131.5億円と続いている。2020年の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」と比べれば、トップの値がいくぶんおとなしめだが、新型コロナウイルスの流行がまだ治まっていない特殊環境下の中では、大いに健闘したと評価できよう。

他方直近2022年の洋画は「トップガン マーヴェリック」の13.5億円がトップ。「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」が続いている。邦画と比べるといくぶんおとなしめだが、それでも前年・前々年と比べれば盛況だったと判断できよう。

邦画・洋画別の興行収入全体だが、邦画は前年比でプラス14.2%、洋画はプラス98.3%、合計でプラス31.6%の結果が出ている。2022年は興行収入の観点では洋画が大いに頑張ったことになる。



映画館内装冒頭で触れている通り、ブロードバンド環境の普及、動画配信の浸透と常用化、そして映画もインターネット経由などで自宅観賞でも優れた画質のものを楽しむことができるようになった。さらに、地上波テレビの地デジ化に伴い家庭内のテレビも大型化・高画質化し、映画館は競合のパワーアップが進むばかりとなり、厳しい状態におかれている。映画業界でもシネコンの展開、さらには4DX(3D化に加え、座席の振動や香りなどさらなる疑似体験を観客に提供し、映画の臨場感をアップする仕組み)の例にあるように、さまざまな手を打ってはいるが、状況の変化とそれに伴う消費者性向の移り変わりは、映画館側の対応を上回るスピードで進んでいる。

映画館業界全体の売上は、上映される作品の質・話題性や景況感に影響を受ける面が多々あるのは否めない。しかし娯楽の質、映画を観る媒体・選択肢の増加をはじめとした周囲環境、言い換えれば「時代の流れ」を見極めた上で、その流れに乗る変化・アイディアの詰め込みをしなければ、映画館が現状維持、さらには発展する形で生き残ることは難しい。むしろ新興メディアとの間に相乗効果を狙えるような発想とその実行こそが、今の映画館業界には必要に違いない。

その観点では昨今一部の作品で、ソーシャルメディアによる積極的な広報展開の実施や、映画を「鑑賞する」だけでなくさまざまな施策による「体感できる」楽しみ、いわばテーマパーク的娯楽感を提供する試みは、今後の映画界における方向性の一つの道しるべとなるかもしれない。さらに映画の鑑賞そのものに娯楽感を付加させるだけでなく、映画館を映画鑑賞を中核としたレジャー施設として運用することで、新たな時間の消費スタイルの提案を成しているようにも見える。ここ数年の各指標の復調ぶりは、その成果が表れているのだろう。

特に平均映画入場者数のグラフで示したように、1公開映画あたりの入場者数が減少していた傾向には、大いに注意を払う必要がある。良作が相次ぎ登場するような制作環境の構築維持拡大を含め、さまざまな手立てを模索し、実行に移し、非日常の時間を提供する場としての意義を高めてほしいものだ。

一方で2020年以降における大きな数字の変化は、新型コロナウイルスの流行という特殊要因によるもの。2023年の現時点でもその影響は大きな形で続いており、さらに直接の影響が収まったとしても人々の行動様式に変化が生じる(流行時の行動様式がそのまま定着する)可能性は否定できない。映画館関連の動向は今年も大きな動きを示すに違いない。


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