人の流れの回復感と根強い物価高への懸念…2023年11月景気ウォッチャー調査は現状横ばい・先行き上昇
2023/12/08 16:00
内閣府は2023年12月8日付で2023年11月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で横ばいとなる49.5を示し、基準値の50.0を下回る状態は継続した。先行き判断DIは前回月比で上昇して49.4となったが、基準値の50.0を下回る状態は継続している。結果として、現状横ばい・先行き上昇の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和5年11月調査(令和5年12月8日公表):景気ウォッチャー調査】)。
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現状は横ばい、先行きは上昇
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2023年11月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「よくなっている」「やや悪くなっている」が増加、「ややよくなっている」「変わらない」「悪くなっている」が減少。原数値DIは49.8。
→詳細項目は「サービス関連」「製造業」「非製造業」「雇用関連」の項目が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」。
・先行き判断DIは前回月比でプラス1.0ポイントの49.4。
→原数値では「変わらない」「やや悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは49.4。
→詳細項目は「住宅関連」「製造業」「非製造業」の項目が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2023年11月では人流増加によるプラスの影響はあるものの、物価高で消費企業動向関連においてマイナスの影響が生じており、相殺される形で前月比では変わらずの結果となった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2023年11月では年末年始に向けて人の流れの改善による期待がある一方で、物価高への懸念が強く、前月比は上昇したものの、上昇幅はわずかなものとなった。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。
↑ 景気の現状判断DI(〜2023年11月)
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスの変異株の影響による新規感染者数の増加が景況感の足を引っ張ってはいるが、人流増加のプラス影響は力強く、前月比でプラスを示していた。しかし今回月では物価高の影響が非常に強く、全体では横ばい。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」。
続いて先行き判断DI。
↑ 景気の先行き判断DI(〜2023年11月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。人流増加によるプラス影響もあるが、物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張っている。特に企業動向関連の値が減少傾向にあるのが気になるところだ。
人流増加への期待と物価高への不安と
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・インバウンド売上が、かなり好調に推移している。特に、海外の高級ブランド品や時計が、円安の影響もあって売上を伸ばしている。免税売上も2019年の水準を大幅に上回る状況である。国内客についても、特定の海外ブランド品に対して、今までにないような需要がみられる(百貨店)。
・秋の観光シーズンで集客は増加した。また、以前は個人観光客ばかりだったが、インバウンドの団体客も増加してきた(観光型ホテル)。
・値上げ自体はある程度受け入れられて、売上金額では100%を超えているが数量では90%台前半が続き、競合他社と比較しても苦戦している(スーパー)。
・必要な物やサービスにしか金を使わない雰囲気が顕著に表れている。技術売上は何とか前年並みの水準を保っているが、関連商品の売上は前年から30%程度の減少となっている(美容室)。
■先行き
・予約は週末に偏っているが、徐々に平日の問合せも来ており、年末年始は最終的に例年並みの来客数に戻るとみている(一般レストラン[居酒屋])。
・物価高騰に落ち着きがみられることに加え、新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後初めての年末年始で帰省客の増加も予測されるため、食品や土産品を中心に前年よりも売上が増加することが見込まれる(百貨店)。
・弁当類も1コインで購入できるものがなく、販売数が増えない。物価の上昇により、客の財布のひもがますます固くなっていくとみている(コンビニ)。
・メーカー側の価格上昇が続き、ますます客は買換えに至らない(家電量販店)。
インバウンドによる人流の増加で商売が好調との声が複数確認できる。他方、一般消費者サイドでは物価高による消費性向の変化が、商売の足を引っ張っているとの声も多々見受けられる。一方で年末年始における帰省客の増加に期待する声もある。
企業動向でも物価高への影響が見受けられる。
・自動車メーカーは受注残を減らすべく増産を続けており、好調である(輸送用機械器具製造業)。
・電気製品の売行きがかなり落ち込んでおり、臨時の配送も非常に少ない。経費は上昇しているが、運賃の値上げ交渉は大変困難である(輸送業)。
■先行き
・2〜3か月前と比較すると受注量が増加している。それに対し取引先の動きや当社の体制も合わせているため、今後、徐々に半導体の供給も増えると期待している(一般機械器具製造業)。
・建設費高騰の大きな要因として、施工者、特に設備施工者の不足が挙げられる。こうした状況は全国的に同じであるが、北海道から首都圏に技術者が流れているため、地域差が生じつつある。特に北海道は他地域と比べて先行して影響が出始めているため、今後の景気はやや悪くなる(建設業)。
家計動向同様に企業動向でも、好調なところと不調なところが両極端に見える形となっており、景況感の両極化をうかがわせるものとなっている。また、人手不足が深刻なものとなり、これが景況感を悪化させる要因になるとの指摘もある。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
・5月中旬から、アルバイトやパートの求人申込が例年と比べて大幅に減少しており、今もその傾向が続いている。求職者においては、超短期のバイト、隙間時間でできるバイトが大人気となっている(求人情報誌製作会社)。
■先行き
・年明けの分はかなり予約をもらっていたり、計画の話が出たりしているので、相当盛り上がる予定である(新聞社[求人広告])。
アルバイトやパートの求人申込が減っているとの興味深い話が出ている。非正規雇用が減り、正規雇用をしようとする企業が増えていると解釈すればよいのだろうか。他方、求職者側はスナック感覚で選択できるアルバイトを求めているというのも興味深い話ではある。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。株価に一喜一憂しないのがベストではあるが、ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。このまま、生活様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのだろうか。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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