裏付け、そして「たばこ盛況」のよし悪しを検証…コンビニでは1日何箱たばこが売れているのかを計算してみる(下)
2022/11/21 02:00
先の記事【コンビニでは1日何箱たばこが売れているのかを計算してみる(上)】ではローソンの決算短信補足資料や統合報告書を基に各種計算を行い、直近では1日に約251箱もコンビニでたばこが売れている実態が明らかになった。今記事ではそれの裏付けと、たばこの売上が全売上のうち大きなシェアを占めている状況について「諸手で歓迎するような状況」なのか否かを検証してみることにする。
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本当に1日数百箱も売れているのか
あくまでも概算ではあるが、計算上はコンビニ大手のローンソでは平均して1日約251箱ものたばこを販売していることになる。24時間営業店舗ならばほぼ6分に1箱の割合である。他の大手コンビニも状況はさほど変わらないだろう。しかし本当に約251箱も1日で販売しているのだろうか。確かにレジ後方には山ほどのたばこが積み重ねられているが、あの山が大きく入れ替わるほどの数が売られているのか。無論カートン販売の場合もあるので(1カートンは10箱入り)、あのストックからのみの販売ではなく、カートン買いをする人がいれば1時間ほどに1人でよくなるので、あながち非現実的とは言い切れない。
それを裏付けるデータが、コンビニのPOSシステムデータを集計したデータベースシステムを提供する【PosBank】の提供するブログ(【タスポ(Taspo)開始で、コンビニ変わる? 来店客とタバコ販売数、増加? タバコ深夜販売比率は、減少?】)にあった。書込みの時期は2008年の7月、ちょうどタスポが導入された直後のものである。
箱数を言及しているのは記事中本文後・上部の折れ線グラフ。数字の表は「全体的に占める比率」で箱数ではなく、いずれにしても具体的な箱数は分からない。しかし例えば7月6日の「セブンスター」が65箱前後/日、「マイルドセブン スーパーライト」が50箱前後/日の値を示しているなど、国産たばこだけでも当時で300-400箱、外国たばこで150-200箱は発売されており、直近年におけるローソンの「1日約251箱」がありえない数ではないことが分かる。
また、この記事のグラフを見ると、タスポ導入直後の週はそれ以前の週と比べて1.5-2.0倍ほどの売上箱数がアップしていたことが確認できる(つまりそれだけ自動販売機で購入していた人がコンビニにシフトした)。今ではもう少し大人しくなっているはずだが、それでも「大きくたばこの売上を引き上げた」ことには違いない。
さらに念のため、2012年時点でローソンのIR部局に上記計算式を提示したところ、このような考え方・解釈で問題は無い、という回答をいただいている。約251箱/日は確証度の高い値のようだ。
たばこの売上増で万々歳、なのか?
ローソンの「1日約251箱」の実績にもあるように、「たばこの売上が伸びており、それが全体の売上をけん引している」のは事実である。実に店全体の売上の3割近くがたばこで占められており、「たばコンビニ」との表現すらあながち間違っていない感すら覚える。
しかし企業は(業績上においては)売上がアップするだけてよしとするものではない。売上はあくまでも利益を得るためのもの。商品が一つ売れるとどれほどの利益が得られるかはもちろん決算短信上などでは非公開だが、【日経ビジネスアソシエの記事「たばこ目当ての客で売り上げ増加、だが来年は…」(2008年12月)】の記事に粗利益に関する貴重な言及があった。曰く、
・コンビニ商品全体の平均……約30%
であるとのこと。またJTのIR資料などを基にした記事【国税・特別税・地方税あわせて1本あたり15.244円…たばこ税の推移(最新)】でも明らかにしている通り、JT販売のたばこに関しては、たばこの販売店におけるマージン(販売手数料)は販売価格の10%であることが確認されている。そして前述の記事【コンビニの商品種類別売上の変化】の通り、ローソンに限れば商品区分別の粗利益は3割から5割が平均的。
↑ 商品別総粗利益率(ローソン)(再録)
この状況は何を意味するか。「同じ売上でも、たばこは他の商品の1/3から1/4しか利益が得られない」、言い換えれば「たばこは儲かりにくい」との事実が浮かび上がってくる。例えば、400円のお弁当(利益率30%)を売れば120円の儲け(400×0.3)だが、同じ額面の400円のたばこを売っても40円しか儲からない(400×0.1)。同じ手間がかかるのなら、採算性が1/3に減少したことに他ならない。無論、廃棄期間をはじめとした管理や占有体積などの諸要素による勘案は必要だが。
また、上記の日経ビジネスアソシエの記事でも指摘しているように、たばこ購入客の常連化を目指して品揃えをよくするために在庫を抱えるのはよいが、在庫過剰で財務的な負担が増加するリスクも負うことになる。
日経ビジネスアソシエの記事では、ファミリーマートの事例として「たばこの単品購入目的のお客にフライドチキンを勧める」との記述があった。レジ横・レジ前の甘味系食品やフライヤーアイテムと呼ばれる揚げ物、そしておでん、中華まんなどは粗利益率が高い。コンビニがレジ横・レジ前商品に力を入れているのも、中食需要が伸びたのが主要因だが、粗利益率の低いたばこの購入者に、粗利益率の高いこれらの商品をついで買いさせるとの思惑がある、と考えた方が自然である。
またこれまでの記事で言及している通り、たばこの売上はマイナスへのトレンド転換が確認されている。大きな粗利益は望めないが集客効果が高くついで買いも期待できるエース的存在が、次第にその勢いが衰え、長所部分の成績も急速な減少の動きを見せ始めている。そして今後起死回生的な挽回を示す可能性は低い。
コンビニ各社がたばこに代わる主力選手(例えばオリジナルスイーツ、プリペイドカード、カウンターコーヒー、高付加価値のプライベートブランド、健康志向の強い独自食品)を急ぎ育成中なのも十分理解ができる。多様な総菜の積極的な展開も、通年販売が可能で集客力が強い特徴に気がつけば、容易に納得できる。
今後コンビニにおけるたばこの立ち位置は少しずつ、そして確実に変化していくに違いない。
■一連の記事:
【コンビニでは1日何箱たばこが売れているのかを計算してみる(上)】
【コンビニでは1日何箱たばこが売れているのかを計算してみる(下)】
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