下落する新聞への信頼度、その理由は
2022/12/17 02:00
情報を伝える媒体としてのメディアに対する信頼度は、欧米諸国だけでなく日本においても漸減する傾向にあることは、既に多数の調査結果から明らかにされている。先に【じわりと下がるメディアへの信頼度、トップはNHKテレビ(最新)】で伝えた通り、財団法人新聞通信調査会が発表したメディアに関する全国世論調査の2022年度版でも、その実態は明確な数字の形として確認できた。それでは直近1年間で各メディアへの信頼感は、どのような変化を見せているのだろうか。その内情、特に新聞に関する動向を見ていくことにする(【発表リリース:第15回メディアに関する世論調査結果】)。
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全メディアで「信頼下落」>>「信頼上昇」
今調査の調査要綱は先行記事「じわりと下がるメディアへの信頼度、トップはNHKテレビ(最新)」を参照のこと。その先行記事の通り、主要情報配信メディアに対する信頼度は漸減する傾向にある。
↑ 各メディアの信頼度(100点満点)(再録)
そこで直近の2022年度において、この1年間で各メディアに対して信頼感は変化したのか否かを尋ねた結果が次のグラフ。直近5年分の結果を併せて作成している。また、少々冗長になった感もあるため、「高くなった」から「低くなった」の値を引いたDI値を算出し、その値のみの動きもグラフ化した。プラスならば上昇と考えた人が多く、マイナスならば下落と考えた人が多い。それぞれの方向の絶対値が大きいほど、その思いが強いことになる。
↑ 各メディアへの信頼感は変化したか(前年度と比べて)
↑ 各メディアへの信頼感DI(高くなった−低くなった)
信頼感の上下度合いは回答者それぞれで一概には言えないが、おおよそ「高くなった」が「低くなった」より多ければ信頼度は増加し(DI値はプラス)、逆なら減少(DI値はマイナス)と見ることができる。その観点で結果をチェックすると、全メディアで信頼度は減少していることになる。何しろDI値のグラフでゼロを超える値が存在しないのだから。
メディア毎の動向を見ると、特に民放テレビと雑誌において、「低くなった」が「高くなった」を大きく上回る結果が出ている。信頼感が損なわれた、失望した人が多かった次第である。直近年度では民放テレビのDI値がマイナス9.6%、雑誌がマイナス10.2%との結果が出ており、権威が大きく損なわれていることが確認できる。またこの両メディアは少なくともこの5年間、大きなマイナス幅を示し続けており、信頼感の著しい下落ぶりが継続していることがうかがえる。
NHKテレビでは2015年度に生じた報道番組「クローズアップ現代」に関するやらせ問題など複数の不祥事で大きくDI値を損なう形となったが(マイナス7.4%)、その後はその年度と比べればマイナス幅は小さい状況が続いている。しかしながらDI値はマイナスのままなので、それ以前の信頼感の回復には至っていない。
新聞のDI値におけるマイナス幅は小幅だがマイナス状態は継続中。グラフには反映されていないものの2014年度では大きなマイナス幅が示されたが(マイナス6.3%)、これは言うまでもなく朝日新聞における誤報・捏造・虚報が取り沙汰されたことである。直接事案による不信感は時の流れとともに薄れつつあるが、一向に改善しない体質に、信頼感のDI値をプラスに押し上げるまでの環境は期待できそうにもない。もっともこれは他のメディアも同様なのだが。
新聞ってどうなのだろう? そしてその理由は??
直近では新聞の信頼感が増した人は4.6%、下落した人は7.7%との結果が出ている。それぞれの回答者に、なぜそのような選択をした・思ったのかを聞いた結果が次のグラフ。
↑ 新聞の信頼感が高くなった理由(該当回答者、択一)
↑ 新聞の信頼感が低くなった理由(該当回答者、択一)
新聞の信頼度が高くなった、つまり新聞をより信頼するようになった人の理由だが、情報の正確さや根拠に基づく情報を報道したこと、公正・中立さへの評価が主なものとなっている。ドラマや映画で新聞社に勤める主人公が語りそうな「政府や財界に迎合しない」との意見は直近年度では4.4%。
前年度との比較では、具体的項目では「情報が正確」「公正・中立な立場で報道」「政府・財界に迎合しない」が減り、それ以外は増えている。
他方信頼が損なわれたと感じる人のトップの意見は「特定勢力に偏った報道」で44.8%。増加を続け2019年度ではついに過半数となったが、2020年度では大きく減り5割を割り込み、その状態が今年度でも続いている。それでも他の項目と比べると断トツで多いことに違いはない。なおこの項目について設問の説明ではどの方面、対象の「特定勢力」とは書かれていない。色々な解釈ができそうだが、いわゆるダブルスタンダード的な報道が日常茶飯事化しているとの指摘も多々ある現状では、無視できない動きには違いない。ただし別選択肢に「政府・財界の主張通りに報道するだけ」がある以上、それと同じ方面に優遇する意味での偏った報道との解釈は難しそうだ。
「誤報があった」は直近では3.5%で順位としては5番目に過ぎない。グラフの領域からは外れているが2015年度の大きな値(29.9%)は言うまでもなく朝日新聞の複数事案が大きく影響したもの。2016年度以降は優先順位は下げられている、あるいはほとぼりがさめつつあると認識できる。とはいえ、話題性はともかく問題の重要性の観点では肩を並べるほどの誤報はそれこそ日々のごとく量産され、その状況に対する新聞社側の姿勢も改善を期待できるようなものではないのも事実ではある。または読み手側が慣れてしまい、わざわざ信頼感の下落の理由に挙げるまでもなくなってしまったのかもしれない。
択一問題であるため重要度としては気にならない程度と認識されているのか、回答値は4.3%とさほど高くはないが、憶測による情報も流しているとの意見があるのも注意すべき動き。ある意味、誤報よりもたちの悪いものに他ならないからだ。
新聞は直近年度では主要メディアの中でNHKテレビの次に高い信頼感を得ているが、それは多分にこれまでの先人諸氏の努力によって構築された「信頼」と名付けられた資産を食いつぶして、ようやく維持していると表現できる。その現状を認識し、行動を律することができなければ、「信頼感は下落した」との回答値は、来年度以降も高い値を維持したままとなる。果たして新聞にたずさわる人のどれだけが、その事実を理解しているだろうか。
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