1店舗あたり208万円…コンビニの出版物販売額(全体編)

2022/12/10 10:00

このエントリーをはてなブックマークに追加
以前はコンビニ(コンビニエンスストア)では欠かせない存在だった雑誌を始めとする出版物も、昨今では肩身の狭い立場に置かれるようになった。【少年・青年雑誌の無いコンビニ雑誌コーナー】【セブンが雑誌の取り扱いをごりごり減らすという話】にあるように、雑誌の一部が立ち読み客のマナー問題で撤去される事例や、費用対効果の問題から、物理的に肩身ならぬ配置場所が狭くなる、イートインコーナーにとって代わられる状況も多々見受けられる。その出版物とコンビニの関係について、日販による「出版物販売額の実態」最新版(2022年版)のデータを基に、コンビニ業界全体と印刷物の関係を見ていくことにする。

スポンサードリンク


コンビニ店舗は増え、その店舗での出版物売上は減る


まずはコンビニにおける出版物売上高とコンビニ店舗数。店舗数を併記したのは、単に売上だけの推移では「店舗数の増減も売上と関係することから、コンビニにおける出版物のポジションの変化がつかみにくい」との問題があるため。コンビニ店舗数が増加傾向にあるのは周知の通りだが、それに反してコンビニでの出版物売上は減少の一途をたどっている。ただし2016年度以降では店舗数は頭打ち。これは大手フランチャイズによる寡占化に伴い、統廃合が行われているのが主な原因。

↑ コンビニの店舗数とコンビニにおける出版物売上高
↑ コンビニの店舗数とコンビニにおける出版物売上高

店舗数は2004年度以降、一度頭打ちとなるが、2008年度に再び増加に転じ、2010年度のイレギュラーをのぞけばその動きは2015年度まで続いた。2010年度の減少はam/pmが最終的にファミリーマートに合併した影響が大きい。昨今では2015年度をピークに店舗数が頭打ちとなっているが、これは大手コンビニによる他の中小コンビニの合併に伴う統廃合が影響している。

一方で出版物の売上高は2003年度以降は漸減傾向を見せている。直近年度では前年度比でマイナス4.71%。

この原因について以前の記事でも、

・減少開始時期がインターネットやモバイル端末の本格的普及時期と重なるため、時間を潰すためのツールとしての「コンビニでの雑誌(特にファッション誌や週刊誌、コミック廉価版など)」の立ち位置がインターネットやモバイル端末に奪われている

・家計単位での雑誌販売額の減少が原因(【週刊誌や雑誌、書籍の支出額…購入世帯率や世帯購入頻度の移り変わり(家計調査報告(家計収支編)・二人以上世帯版)(最新)】)

・コンビニで販売される機会が多い雑誌、ビジネスやマネー誌、HowTo関連など、関連雑誌業界不調(質の低下、刊行数の減少)

・コンビニで販売されるタイプの雑誌における付加価値や情報そのものの陳腐化

・コンビニにおける利用客の消費性向の変化(お弁当などと一緒の「ついで買い」が出版物からスイーツやフライヤーアイテムに変化しつつある、など)

・成人向け雑誌の販売スペース縮小、取り扱いの中止

などをその可能性として挙げた。いずれも「単独」の理由としては弱いが、複合するものであれば昨今の動向に対する理由としては、十分納得はできる。コンビニで販売される出版物の具体的な種類別販売動向の推移が分かれば、列挙した推測のいくつかの裏付けはできそうだが、公開資料の限り、例えば今件の「出版物販売額の実態」や各コンビニのIRなどからは確認することはかなわない。

コンビニ売上全体に占める比率も減少


ともあれ店舗数とすべての店舗における売上が確認できたので、これで単純計算ではあるが「1店舗あたりの出版物売上高」の算出が可能となる。

↑ コンビニの1店舗あたり出版物売上高(万円)
↑ コンビニの1店舗あたり出版物売上高(万円)

全体額同様、2003年以降は漸減していることが改めて分かる。2013年度以降は減少度合いがやや大人しくなった感はあるが、それでも減っていることに変わりはない。

【トップはセブンの4兆9530億円…コンビニ御三家の売上高などの検証(最新)】で記したように、コンビニそのものの総売上(出版物も含めた全物品・サービスを合わせた売上)はおおよそ漸増しているから…

↑ コンビニ業界全体に占める上位チェーンの売上高(ローソン統合報告書より、兆円)(再録)
↑ コンビニ業界全体に占める上位チェーンの売上高(ローソン統合報告書より、兆円)(再録)

全売上に占める出版物の売上比率も大きく下がることになる。全体額が増えて、対象額が減れば、その対象額の全体比率が減少するのは当然の話である。

↑ コンビニの総売上に占める出版物取り扱い売上比率
↑ コンビニの総売上に占める出版物取り扱い売上比率

雑誌をはじめとした出版物そのものの媒体力、集客力が低下しているのは否めず、場所の効率的利用が徹底されるコンビニにおいて、出版物の取り扱い比率が減るのも当然の結果。それにしてもこの下落ぶりは驚くべきもの、としか評しようがない。このままでは早ければ次年度にも、コンビニ総売上の1%を切ってしまう可能性は否定できない。



以前【コンビニの出版物販売額をグラフ化してみる(後編:全体編)(2011年「出版物販売額の実態」版)】で指摘した、「成人向け雑誌が情勢の変化でその配置数を減らしたのがコンビニでの出版物販売額を大きく減らした一因」ではないかとする件だが、当方では継続してモニタリングを続けている。実店舗での動向を見る限り、最大要因かは不明であるものの、小さからぬ要因であることに違いはない雰囲気は覚えさせる。インターネット通販の普及に伴いその類の雑誌経路がネットに移行することに加え、大手コンビニが事実上の成人向け雑誌の取り扱いを中止したことから、今後さらに規模縮小は進んでいくことだろう。

セブン-イレブンは街の本屋一方で【セブン-イレブンだけの月刊コミック誌「ヒーローズ」創刊】【セブン&アイの無料カタログ季刊誌「セブンネット生活」本日から配布開始】で伝えたように、コンビニを「地域社会と密着するトレンド発信地的な重要拠点」と認識した、広報展開的な意味合いも持たせた雑誌を発売・配布する動きもある(後者事例は出版物の「売上」にはつながらないが)。

そして【「セブン-イレブンは街の本屋」コンビニが本屋さんを名乗る時代】で言及している通り、本屋の機能のうち「取り寄せ」「取り置き」「定期購読」「配送」に限定・割り切りをした上で本屋的業務を取り扱うコンビニ(セブン-イレブン)も登場している。地域本屋の撤退が続き、コンビニの利便性・地域密着性を考慮すると、切り口としては面白い。

「雑誌媒体が携帯電話やパソコンと比べ、中身を楽しむために必要なコストや技術の点では低いハードルを持つものの、『情報伝達ツール』としての影響力を減らしつつある中、どこまで送り手側の期待に応えられるのか、興味深い動きといえる」とは以前の解説コメント。現在も棚の面積は小さくなった、あるいは他の雑誌同様の棚に収められるようになったものの、「ヒーローズ」そのものは元気に出版を継続している。しかしビジネスそのものは継続しているものの、同社のIR各資料に特記事項として言及する動きが無いことから、明らかにプラスとなるような成果はまだ出ていない感は否めない。具体的実績の類も確認できない。

2021年分のデータでは、コンビニの売上高の1/100にまで割合を減らしてしまった印刷物販売。週刊誌などの価格はむしろ上昇気味で、付録のある雑誌(もちろん価格はお高め)の増加も併せて考えれば、「売上額」ではなく「冊数」では、上のグラフ以上の急降下を形成しているのは容易に想像できる。一部では復権の動きも見られる中で、今後出版物がコンビニにおいてどのような意味合い、存在価値を示していくのか。気になるところではある。


■関連記事:
【「出版物の売り場毎の販売額推移をグラフ化してみる」関連のつぶやき覚え書き】
【雑誌を買う場所どこだろう、大型書店にコンビニ、そして】
【コロナ禍の内食需要もカバーし、食品専門店への色合い強まる…コンビニの商品種類別売上の変化(最新)】


(C)日販 ストアソリューション課「出版物販売額の実態2022」

スポンサードリンク



このエントリーをはてなブックマークに追加
▲ページの先頭に戻る    « 前記事|次記事 »

(C)2005-2025 ガベージニュース/JGNN|お問い合わせ|サイトマップ|プライバシーポリシー|X(旧Twitter)|FacebookPage|Mail|RSS